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エクスクラメーション   作者: 埃川 彼芳乙
第1章 Scalar
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第6話 友達③


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-五月十九日- 木曜日 九時五十分~




 一時限目の授業が終了する。

 私は乾いた喉を潤そうと鞄に入ってるお茶を取り出す……ってないわ。持ってくるの忘れっちゃったみたい。面倒だけれど、買いに行くしかないわね。


 黒板を消し終えた先生が教室を出ていくのとほぼ同時に私も出ていく。

 うちの学校は教室棟と特別棟と各階に一つずつしか渡り廊下を設けていないが、階段だけは東、真ん中、西と三つ設置されている。

 有事の際の避難経路確保が目的か少しの利便性を追求した結果なのかは知らないけれど、評価に値する部分ではある。

 だけれど、東西だけでなく真ん中にも階段を設けたことで端から端までの距離が余計に伸びてしまっているのは頂けなかった。


 って、一々文句を言ってても仕方ないわよね。


 私は一組の教室のすぐ横にある西階段を下りていく。

 一階にある自販機まではかなり遠い。この授業間の十分休憩をまるまる使ってやっと往復できる距離なので、大体の人は事前に飲み物を準備してお昼休憩に買い足すといった要領で時間の無駄を省いている。


 やっとこさ自販機前に着いた私はカフェインレスのお茶を一本購入してから来た道を引き返す。

 自分のクラスに戻ってくると、クラスメイト全員は既に自席へ座っており私の席だけがポツンと一つ空いている状況だった。


 一組は優秀ね。他のクラスに行ったことがないから分からないけれど、先生が来るまで駄弁(だべ)っていたりするのが普通なんじゃないかしら。少なくとも中学校の時はそうだった。


 私も皆に(なら)って先生が来る前に着席する。喉が渇いていたので一口お茶を含んですぐに鞄へとペットボトルをしまう。


 すると隣りの席の女子が声を(ひそ)めて話し掛けてきた。


玉置(たまき)さん。二組の久田(ひさだ)君って人が、玉置さんがどこにいるか知らないかって、さっきうちのクラスまで来てたよ」


 私は頭を抱えそうになる。

 朝のあの言葉、本気だったのね……。フラッシュバックした記憶に辟易(へきえき)しながらも、教えてくれた彼女に「ありがとう」と謝意を告げる。


 関係性を言及されなかったのは丁度先生が来たからだった。ろくな説明を用意していなかったからラッキーだったわ。私はほっと安堵(あんど)する。


 でも、さっき来ていたってことは次も来るわよね……。先行きを考えると思いやられるが、とにかく逃げの一手に尽きると私は判断する。

 逃げつつも彼に関する情報を集めて弱みを握らないと。そうしなきゃこの追い駆けっこは終わらないわよね。




     ※    ※     ※




-同日- 十一時五十分~




 三時限目の授業がチャイムと共に終わりを告げる。

 クラスの皆はお昼休憩をどうするかで和気藹々(わきあいあい)とするなか、私は即座に持参してきたお弁当を持って教室を出ていく。目的地は無論、風紀委員室である。


 少し遠回りにはなるけれど、二組の久田君とバッティングしないためにも私はあえて西階段で一階下の三階へと降りる。


 三階は二年生の教室が(つど)う階となっているため少々肩身の狭い思いをするけれど、一年生が来ることはほぼないと言えるのでうってつけの避難経路だった。


 なんで私がこんなこそこそしなきゃいけないのかしら……。本当なら私も武田(たけだ)君のところへ行く予定だったのに丸潰(まるつぶ)れだわ。


 無事、風紀委員室に到着する。委員室にはもちろん誰もいない。


 何が悲しくて、一時間しかない休憩時間の内の十分を移動にあてなきゃいけないのかしら……。

 私は溜息を吐いた。最近、溜息を吐く回数が増えた気がするわね……。


 私は自分が良く座る席に腰かけるとお弁当の包みを広げる。

 ちなみにこのお弁当は私が作ったものではない。じゃあ一体誰が作っているのかというと、私の送迎をしてくれている苫米地(とまべち)である。


 顔に似合わず、料理が出来るのよねぇ彼。


 苫米地の作る料理は基本和食である。

 とくに和食が好きな訳では無いのだけれど、一人暮らしで普段から自炊しない私にとっては温かみのある家庭料理という(おもむき)があってそれなり気に入っていた。


 とくにこの出汁巻き卵が美味しいのよねぇ。

 なんてお弁当に舌鼓(したつづみ)を打っていると風紀委員室の扉がガラリと開く。


「あれ、何故君がここに居るんだい?」


 風紀委員長のもっさり君、あらためもさ男が問い(ただ)してくる。


「え、えぇ。朝こちらに忘れ物をしてしまったもので、それを取りに行くついでにお昼でもと思いまして」


「ふーん。わざわざ昼休みにね」


 眼鏡の奥で(いぶか)しむもさ男の視線が私に刺さる。

 チッ、無駄に頭が回るからウザイわね、本当に…。私は心の中で舌打ちする。


風見(かざみ)先輩はどうしていらしたんですか?」


「僕は日課でここの掃除をしていてね」彼は得意げにそう言うと眼鏡をくいと持ち上げる。


「だからいつも綺麗なんですね」私は愛想笑いを浮かべる。


「風紀委員長としては当然だよ」


 何、格好つけてんのよ。単にお昼休憩を一緒に過ごす友達がいないだけでしょう。


「はい、私も先輩を見習わないといけませんね」


「そうだね。君も風紀委員の端くれなら学校の風紀を整える行動を自ら率先して行うべきだと思うよ」


 うっざ。本当、一言多いのよね。こいつ……。


「そ、そうですね」


 話が一段落するともさ男は私に背を向けて、適当な椅子に腰を下ろした。


「あれ、掃除はなさらないのですか?」


「君は食事中だろう?(ほこり)が舞ったらせっかくのお弁当が台無しじゃないか」


 そういうところは気遣(きづか)い出来るのね……。でもそれなら私の食事が終わるまでどこかに行って欲しいのだけれど。


「ありがとうございます」形だけのお礼を告げて私は食事に戻る。


「礼には及ばないよ」


──それはそうと


「今朝の彼…武田(たけだ)茂臣(しげおみ)君だったかな?かなり成績優秀らしいね。僕らと違って二組だけど」


 試すような視線に私は少し身構える。

 人物特定早すぎるわよ。一般人の癖にどんな情報網持ってるのかしら。


「えぇ。そうみたいですね。でもどうして先輩が武田君の名前を?」


「たまたま知る機会があったんだ。それよりもこの学校の秘密を知ってるかい?」


 そう易々(やすやす)と情報筋を明かす訳ないわよね。

 矢継ぎ早に話を逸らされ聞き出すチャンスを逃してしまう。


「秘密、ですか」私は興味なかったが話を合わせておくことにした。


「あぁ。この学校はね各学年一組から八組まで分かれているだろう?そのクラス分けの基準って何だと思う?」


「あみだくじ、とかですか?」


 言いながら、ブリ大根を箸で切り崩して口に運ぶ。


「ははは。面白いね、玉置さん。新手のジョークか何かかな?」


「そんな酷いですよ先輩。私だって一生懸命考えたんですから」


 勿論(もちろん)、嘘だった。私はお米を箸で軽く(つま)み上げ、ぱくりと口に入れる。


「なるほど。君のその少し足りない部分は可愛げがあって僕は好きだよ」


「ありがとうございます」


 私は作り笑いを浮かべる。今度はアサリとひじきの佃煮(つくだに)っと。


「話を戻すが、この学校のクラス分けの基準の一つが学業成績、スポーツ戦績の優劣だ。そしてもう一つの要素が家柄、社会的地位、寄付金の多寡(たか)()されている」


 間髪入れずに白米を頬張(ほおば)咀嚼(そしゃく)しながら「そうなんですね」と相槌(あいづち)を打つ。


「つまりだ。いくら成績が優秀な学生だとしても一組に入れるのは選ばれた人間だけ、ということなんだ。これがこの学校、私立天尚(あまます)高等学校の秘密さ」


「だから、武田君と僕らでは住む世界が違うということだよ」


 カフェインレスのお茶で食後の口を潤す。

 とてもおいしゅうございました。私は合掌してお弁当を作ってくれた苫米地と食べ物へ感謝の意を捧げる。

 それにしても良く喋るわねもさ男。(うるさ)いからそろそろ黙らせておこうかしら。


「でもそれって噂、なんですよね?」


「そ、そうだが。しかしだね、僕が過ごしてきた三年間の統計からもかなり信憑性の高い話なんだよ」


 統計ねぇ。ふふ、笑える。

 もさ男一個人の主観的データで、一体どれくらいの精度の統計分析ができるのかしら。私は口元を手で隠して小さく笑う。


「な、何が可笑しいんだ。僕のことを馬鹿にしているのか?」


「いえ、とんでもないです。誰から指示された訳でもないのに自らデータを収集して統計を出すなんて流石(さすが)は先輩ですね。尊敬しちゃいます」


「……ふん、まぁいい」


 私は満面の営業スマイルを浮かべる。

 (いきどお)っていたもさ男も出鼻を(くじ)かれ、バツが悪そうに頭を()いている。


「ではこれ以上お掃除の邪魔をしちゃ申し訳ありませんので、私は失礼しますね」


 話しながら片づけておいたお弁当箱と空のペットボトルを持って、私は風紀委員室を後にする。



 って言ってもまだ休憩時間三十分も残ってるのよねぇ。どうしようかしら……。


 私は途方に暮れる。と言いつつも実際は一つだけ思い付いている場所があった。でも気が進まないのよねぇ……。まぁ丁度頼みたいこともあるから仕方ないわね。















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