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2話 初めての散策

チビ悪魔の採ってきてくれた果実はどれも美味しかった。

さっきは別の世界だと結論付けたがリンゴもバナナもブドウも見た目通りの味がしているから、もしかしたらチビ悪魔だけが異常で世界自体は元のままなんだろうか? いやでも、確かリンゴは寒冷地でバナナは熱帯の植物だったはず………こりゃ結論は先送りだな。


それよりも気になるよなぁ、あの黒い穴。

おそらくはラノベなんかではよく登場するストレージやアイテムボックスって言われるヤツで間違いないんだろうけど、問題はどう聞いたら詳しいことが分かるかだよなぁ………まぁ考えてても仕様がないから取り敢えず聞いてみるか。

そう思ってチビ悪魔に声を掛けた。


「なぁ、おチビちゃん。さっき食べ物を出したのは物を収納する魔法だよな?」


「ビッ(コクン)」


チビ悪魔は先程と同じように空中に黒い穴を出して見せた。


「そこには何でも収納出来るのか?」


「ビビッ(ブンブン)」


「それってもしかして生き物はダメとか?」


「ビッ(コクン)」


やっぱり生き物はダメってのは定番なのかな? あと気になるのは収納量と収納中の時間経過なんだけど…………聞き出せる気がしないから今は諦めよう。

あれ? そういや俺さっき『魔法』って聞いたよな⁉ 一応確認しとくか。


「おチビちゃんって魔法が使えるの?」


「ビッ(コクン)」


やっぱりそうだ! やっべぇちょっとワクワクしてきた!!

いやまて………ここで「どんな魔法が使えるの?」とか聞いたりすると、強力な魔法で大惨事ってのはラノベに然程詳しくない俺でも知ってる定番だな。

嫌な予感しかしないから、ここは自重しておこう。


「あぁ………攻撃魔法は命の危険が無い限り使わないでね。他の魔法も俺が頼んだ時以外はなるべく使わないようにね」


ちょっと可哀そうな気もしないでもないけど魔法の使用制限を伝えておいたのだが、チビ悪魔は元気に右手を上げて頷いている。

ポーズの意図はよく分からないけど、俺に頼まれたのが嬉しいのだろうか? 何となく喜んでいるのが伝わってきて、尚更心苦しくなってしまった。






そうこうしている内に辺りはかなり暗くなって、空を見上げると星が輝き始めていた。今日はこのままここで野宿するしかないんだろうけど、さすがに何の道具もなくこんな薄着で野宿というのは危険過ぎる気がする。


「なぁ、ちょっと相談なんだが……獣や虫から身を守ってくれて寒さも防いでくれる……なんて都合の良い魔法ってあるかな?」


「ビッ(コクン)」


「あるの? 危険な魔法じゃなかったら頼めるかな」


ダメ元でも聞いてみるものだ。

チビ悪魔が両手で何かを持ち上げるように突き上げると、俺とチビ悪魔を中心に半径2mくらいの半球状の淡い光の壁が広がった。

チビ悪魔に確認してみたら、これは結界魔法で俺とチビ悪魔と空気以外は通さないらしい。どういう仕組みかは分からないが熱も通さないようで、さっきまでは肌寒いくらいだったのに気が付けば暖かい空間になっていた。


「これは助かるよ。ほんとにありがとな」


チビ悪魔に礼をいって頭を撫でてやると、表情はほとんど変化しなかったが今回はハッキリと喜びの気持ちが伝わってきた。

これで気を良くしたのかチビ悪魔は地面に手を当てて下草を成長させることによって地面の寝心地をよくしてくれた。なんて素直で可愛いやつなんだろう。


この日の夜はチビ悪魔を抱きながら気持ち良く眠りに就くこができた。






翌朝、目覚めてみると何時の間に解除されたのだろうか? 結界の淡い光の壁は消えていた。

一緒に寝ていたはずのチビ悪魔も居なくなっていて、どこに行ったのかと辺りを見回すと少し離れた所に体長3mはありそうな巨大な猪っぽいモノが転がっていた。そしてその上に誇らし気に立つチビ悪魔の姿があるということは……そういうことなんだろうな。


俺が体を起こすとチビ悪魔が目の前までフワフワと飛んで来たのでしっかり頭を撫でて褒める。するとやっぱり喜びの感情が伝わってきた。

だが調子に乗って狩りすぎると生態系に与える影響が怖いので、必要以上に狩らないようにと注意もしておいた。


因みにせっかく狩ってくれた獲物だが、今の俺にはどうすることも出来ないのでチビ悪魔に収納してくれるように頼むと、地面に現れた黒い穴が獲物を飲み込んで収納は完了した。

どうやらあの大きさは問題無いようだなってか、まだまだ余裕そうだ。

後は時間経過のほうは確認出来てないから、腐らないうちに処理出来るといいな。






その後、まだまだ残っているの果実で朝食を済ませて今日の予定を考える。


昨日は結局この場から動くことなく過ごしてしまったが、いつまでも森の中で生活していくわけにはいかないし、この世界に街があるなら是非行ってみたいと思うので、何とか森を抜ける方法を考えなきゃだ。


そうなると、まずやることは現状の把握なんだけど……今は全方位が森なんだよなぁ。せめて高い所から見渡せればと思ってチビ悪魔に頼んでみたんだが、どうやら高く飛ぶことは出来ないみたいだ。


「あ~ぁ。地図でもあれば簡単に森から出れるのになぁ……」


「ビ!」


あまりの情報の無さに考えに詰まって漏れた俺の独り言にチビ悪魔が反応して、木の枝を使って地面に地図を描き始めた。

地図とは言っても非常に簡略化されていて森の外縁と街道と川の情報だけだったが、ありがたかったのは街道と川が交差している場所があったことだ。この世界に人がいて街や村があるのかはまだ分からないが、もし街や村があるとすればこういう場所は確率が高い。


そうと決まれば、もうこの場所には用はないのでチビ悪魔の案内で出発した。

もちろんその前にチビ悪魔の頭をしっかり撫でることは忘れてない。





移動目標が出来て意気揚々と行動を開始した俺であったが、想像以上に困難なものだった

今まで人の手の入ったエリアでしか生活してこなかった俺にとって原生林は余りに過酷だった。ただでさえ滑りやすかったり石がゴロゴロしてる上に草が繁っていて状況が分からない地面に、木々が密集しすぎて迂回しなきゃいけない場所があったり、膝下まで沈むような泥の中を歩いたりと散々な目にあった。


それでも何とか心折れずにいられたのは全てチビ悪魔のお陰と言っても過言ではない。

食事と寝床と結界はもちろんのこと、膝を擦りむいたり足を挫いたりすれば回復魔法で治療してくれたし、俺が少しでも歩きやすいように張り出した枝や藪や下草を刈ってくれたし、汗や泥に塗れた時はもちろんのこと排泄が終わった後も汚れが消える魔法で清潔を保ってくれた。

これぞ正に「オンブに抱っこ」とばかりに依存しまくっていた。


こんなに頼りきっても愛想を尽かすことなく一緒にいてくれる理由は分からないが、とにかくスキンシップや遊び相手をしたりすると喜ぶので、可能な限りチビ悪魔を甘やかしてやろうと心に決めた。






そうやって続けてきた移動の4日目に、この森に来て初めて人の存在を匂わせる現象を発見した。

それは森が少し開けて空が広くなった場所を通った時に気付いたのだが、進行方向から左に寄った方向に立ち昇る煙を見つけた。

他の可能性も色々と考えられたが、その時の俺は人の気配の可能性に気持ちが舞い上がって何も考えずに走り出そうとした。しかしながらチビ悪魔に通せんぼして止められてしまった。


一瞬「なぜ?」と思ったが考えてみれば全く状況の分からない所へ飛び込んで行くというのは自殺行為もいいところだ。


「すまなかった」と謝るとチビ悪魔は煙の方向をしばらく見据えた後、振り返ると両手で口を押える仕草をした。

おそらく静かにしろということなのだろう。俺は言われた通り息を潜めるとチビ悪魔の後に続いた。

幸いにしてこの辺りの地面は歩き易く枝を踏み折る等に気を付ければ静かに行動できる。


そうやってチビ悪魔の後ろをついていくと遠くの方から男の人の声が響いてくる。

内容はよく分からないが会社の朝礼なんかで上司が話す時の威圧感のある力の入った喋り方に思えた。

もう少し近付いて聞き耳を立てていると


「……………………を襲う! 護衛がいるがガキの身柄さえ押さえてしまえば後はどうとでもなる。とにかく自分の役目をしっかりこなせ! そうすれば遊んで暮らせる金が手に入るわかったか!!」


リーダーらしき男が鼓舞するように声を上げると、残りの面々が同調して声を上げた。


どうやら連中はどこかの子供の誘拐を企ててるようだ。何かせっかく人を発見したのに非常に残念な気分になってしまった。

それにしても俺には無関係とはいえ、子供が誘拐されると知ってて何もしないのは罪悪感がなぁ……かといって危険を冒してまで人助けをする程の正義感は持ち合わせていない。

まずは状況確認だ。

誘拐犯は全部で10人、全員が武装しているが武器を持ったゴロツキって雰囲気だ。それでも恐らく俺が勝てる相手はいないだろう。

俺はしばらく考えた後チビ悪魔に声を掛けた。


「あそこの連中に気付かれずに眠らせたり意識を奪ったりできるか? 大怪我や殺したりは無しで」


チビ悪魔はいつものように短く声を出すと俺に向かって親指を立てて答えた。ここ数日で覚えたサムズアップである。


チビ悪魔が誘拐犯に向かって両手を突き出したまま十秒程経過すると、1人また1人と朝礼で貧血を起こした生徒よろしく次々と崩れ落ちる。異変に気付いたリーダーは倒れ込んだ連中に声を掛けるが時すでに遅しで、最後の1人として眠りに落ちていった。









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