表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら最強すぎた件について   作者: ミリア
プロローグ〜第一章
9/37

祈りの揺らぎ(教会側視点)

教会の朝は、静寂から始まる。


 白い石造りの礼拝堂に、低く澄んだ鐘の音が響き渡り、神官たちは一斉に祈りの姿勢を取った。


「……本日の祈祷、異常なし」


 若い神官が、淡々と報告する。


 しかし、祭壇の奥に立つ老神官――この教会で最も長く神に仕える者は、その言葉にわずかに眉をひそめた。


「……本当に、か?」


「は、はい。神像の反応、魔力の流れ、祈祷具の共鳴、すべて平常値です」


 老神官は、ゆっくりと神像を見上げた。


 そこに刻まれているのは、創造神と伝えられる女神の姿。


 ――だが、名は刻まれていない。


 ただ、古い碑文に残る神名。

 ミリセティア。


「……妙だ」


 老神官は小さく呟く。


「昨日の深夜、精霊式計測具が“揺れた”」


「揺れ、ですか?」


「数値ではない。

 “感覚”に近い反応だ」


 若い神官は困惑した顔をする。


「……それは、誤作動では?」


「ならばよい」


 老神官はそう言いながらも、視線を逸らさなかった。


 教会の奥、立ち入りを禁じられた小礼拝堂。

 そこに置かれた、古代の祈祷装置。


 それは、神の力そのものを測るものではない。


 ――神に“近いもの”を感知するための器。


「最近、人界で奇妙な報告が増えている」


「奇妙、とは?」


「精霊の反応が、神界を経由せずに発生している」


 若い神官が息を呑む。


「それは……禁忌では?」


「禁忌、というより――前例がない」


 老神官はゆっくりと歩き出し、神像の足元に手を添えた。


「精霊は、本来、神々の秩序に従う存在だ。

 しかし今、誰の名も呼ばず、誰の命も受けずに動いている」


「……反逆、でしょうか?」


「違う」


 老神官は、静かに首を振る。


「むしろ――“帰属先が、最初から別だった”ように見える」


 沈黙が落ちる。


「……創造神が、再び動いた、という可能性は?」


 若い神官が、恐る恐る尋ねる。


 老神官は、しばらく考え込んだ後、答えた。


「それは……分からん」


「分からない、ですか?」


「神々は、我々が思うほど単純ではない」


 神像を見上げる。


 ピンク色の衣をまとった女神。

 優しく、微笑むような表情。


「創造神が現世に干渉するなら、

 もっと露骨な形になるはずだ」


「では……これは?」


「“兆し”かもしれんし、

 ただの偶然かもしれん」


 老神官は、言葉を選ぶ。


「あるいは――神ではない何かが、

 神に近づいているだけか」


「神に、近づく……?」


「人か、精霊か、あるいは――」


 その先は、口にしなかった。


 神官が沈黙する理由は、恐れではない。


 断定すること自体が、危険だからだ。


「……冒険者ギルドから、報告が届いています」


 別の神官が書類を持って現れる。


「最近、異常に生存率の高い冒険者が一人」


「名前は?」


「ミリア、という少女です」


 老神官の手が、ぴたりと止まる。


「……姓は?」


「不明です。

 年齢は十五前後。

 能力は高いが、記録上は“突出していない”」


「……そうか」


 老神官は、静かに息を吐いた。


 神像を見る。

 そして、名を持たぬ神の像。


「名を呼ばれぬ神は、力を示さぬ。

 だが、名を持たぬ“力”は――静かに世界を変える」


 老神官は、祈るように目を閉じた。


「……しばらく、様子を見よう」


「監視、ですか?」


「いいや」


 老神官は首を振る。


「観測だ」


 それが、神に仕える者の限界だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ