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転生したら最強すぎた件について   作者: ミリア
プロローグ〜第一章
7/37

静かな祭壇の下で(教会側視点)

聖堂の奥は、昼でも薄暗い。


 高い天井、色褪せた壁画、そして中央に据えられた女神像。

 淡い微笑みを湛えたその姿は、古くから「創造の象徴」として崇められてきた。


「……今日の報告は、これで以上です」


 若い神官が書類を置く。


 神官長は無言で目を通し、指先で紙を整えた。


「冒険者ギルドからの情報提供が増えてきましたね」


「はい。特に――最近登録された、猫耳族の少女について」


 その名は、書類には小さく記されている。


 ――ミリア。


「氷属性を中心に使用。回復の痕跡あり。ただし詠唱・魔道具の使用は確認されず」


「……確認されず、か」


 神官長は低く呟いた。


 魔法を安定させるための杖も、アーティファクトも、

 彼女は使っていないと記されている。


 それでいて、戦闘後の負傷は皆無。

 疲労の兆候も、ほとんど見られない。


「祝福の記録は?」


「ありません。洗礼も、加護も、正式なものは一切」


「……そうですか」


 沈黙。


 女神像の影が、ゆっくりと床に伸びる。


「――偶然、というには重なりすぎていますね」


 神官長はそう言って、像を見上げた。


「最近、“噂”が増えています」


「噂?」


「ええ。街では……『教会に祀られている存在と、どこか似ている』と」


 若い神官の声が、わずかに震える。


「似ている、とは?」


「雰囲気、だそうです。

 話し方や仕草、色合い……特に、ピンク色の衣装」


「……像は、何百年も前からあの色です」


「はい。ですが――」


 神官は言葉を濁した。


 “今になって”思い出したかのように、人々が口にし始めている。


 それが、妙だった。


「彼女自身は?」


「自覚は、まったく。

 むしろ、普通の冒険者として振る舞っています」


「……それが、なおさら厄介ですね」


 神官長は席を立ち、祭壇の裏へと歩く。


 そこには、古い記録庫がある。


「かつて、人は神を信じ、

 神は人を“見守っていた”とされています」


 壁に刻まれた文をなぞりながら、続ける。


「ですが、時代が進むにつれ――

 神は“遠い存在”となった」


 若い神官は、息を呑んだ。


「……もし、ですよ」


 神官長は振り返らずに言った。


「もし、神ではない“何か”が、

 神に似た力を持っていたとしたら?」


「それは……危険では?」


「ええ。ですが同時に、希望でもある」


 神官長は、静かに笑った。


「問題は――それが“自分自身をどう認識しているか”です」


 再び、沈黙。


 遠くで鐘が鳴る。


「監視は続けますか?」


「ええ。ただし――接触は控える」


「理由は?」


「彼女は、まだ“何者でもない”」


 女神像の影が、わずかに揺れた。


「そして、何者でもない者ほど……

 世界を大きく揺らすものですから」


 その言葉は、記録には残されなかった。


 だがその日から、

 教会は一人の少女を――


 神でも、凡人でもない存在として、

 静かに注視し続けることになる。

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