遺跡の残滓と新たな覚醒
ミリアは、あの遺跡の奥深くで感じた“何か”をずっと忘れられずにいた。あの黒い残滓が、自分の中に小さな波紋を起こしている気がしてならなかった。
その夜、宿屋の窓辺で月明かりに照らされながら、彼女は魔法の杖を握りしめた。静かな夜の空気の中、どこからともなく囁き声のようなものが聞こえるような気がした。
「これは……一体、何なの?」
身体の奥からじんわりと温かい感覚が広がっていく。冷えた夜風とは正反対の、不思議な安心感だった。
戸惑いながらも、ミリアは眠りについた。
翌朝、目を覚ますと体の中の感覚が違っていた。魔法の感覚がいつもよりはっきりして、力強くなっている。
「まさか……覚醒したのかな?」
彼女はすぐに杖を手に取り、得意の氷魔法「アイスショット」を放った。魔法の光が杖の先から鋭く放たれ、空気を切り裂く冷気が鮮明に感じられた。自分の力に少しだけ自信が湧く。
その日は山岳地帯への出発を控えていたが、ミリアは朝から魔法の稽古に没頭した。全ての魔法属性への反応が鋭敏になり、体術も自然と滑らかに動くようになっていた。
「あの遺跡の残滓……ただの遺物じゃなかったみたい」
過去の断片のような記憶が頭をよぎるが、まだ完全には理解できなかった。
そんな時、同じ宿屋に泊まるリナが声をかけてきた。
「ミリア、なんだか雰囲気が変わったね。魔法の扱い、上手くなったみたい!」
「うん……自分でも驚いてる。遺跡で感じた何かが、私の中に残っている気がする」
「すごいよ!どんどん強くなってるね!」
リナの明るい声に、ミリアは微笑んで少し照れながら答えた。
「ありがとう。でも、気をつけなきゃ。知らない力を使ってるみたいで……少し怖いんだ」
リナは優しく頷きながら言った。
「大丈夫、私たちがいるから」
その頃、教会では異変の兆しが深刻さを増していた。神官たちは精霊の沈黙を察知し、慌ただしく話し合いを重ねている。
「ミリセティアの力の行使が活発になっている……このままでは人間界の均衡が崩れるかもしれん」
「我々にできることは何か……調査を続けるしかないのか」
教会の中心部では緊張が高まり、ある神官が静かに呟いた。
「ミリセティア……その名が語られるとき、何かが動き始めるのだ」
その意味を知る者は少なかったが、創造神の動きが確実に世界に影響を与えつつあることは間違いなかった。
一方ミリアは、自分の中で本体とリンクする力も少しずつ強まっていることに気づいていた。分身体としての自覚はあっても、本体の意識や感覚が波のように伝わってくる。
「リンク率はまだ半分にも満たないけど……いつかきっと」
胸に秘めた新たな力とともに、ミリアは次の依頼へと意気込んでいく。
「これが、私の本当の始まり——」
静かに光を宿す瞳が、遠く未来を見つめていた。




