半分の自在、半分の確信を自覚し始める
夜明けの光は柔らかく、世界を淡い色で包み込んでいた。
森の木々の間から、ゆっくりと太陽が姿を見せる。
「……うん、今日も普通」
ミリアは小さく伸びをして、フード付きのピンクコートに手をやった。
元気そうに見えるその表情の奥で、胸の内にわずかな違和感が残っている。
(最近、魔法を使うとね……)
マナが減る速度が、以前より早い。
戦闘後の回復時間も、どこか不自然に短い。
同時に、使ったはずの魔力が“外側に流れない”ことも増えていた。
――それは、魔法の根源が単なる内包された力ではなく、外部の何かと繋がっているという感覚。
「……気のせい、かな?」
そう呟いて、ミリアは「アイスショット」の準備をする。
今までどおり、マナを掌に集中させる。
――氷の弾が、魔物めがけて鋭く飛んだ。
凍結。
その瞬間、森の奥でごくわずかな“風の抵抗”のような違和感が走る。
(……あれ?)
けれど気にせず、もう一度「アイスショット」を放つ。
その後の「スノウダンス」は控えめに。ただ足元を薄く氷結させるだけ。
戦闘は終了した。
息は乱れない。
だが、森は一瞬だけ静まり返る。
――その様子に、ミリア自身は気づかない。
⸻
その頃、教会本部・観測区画。
「……また、同じパターンです」
神官が魔力波形の記録を指し示す。
「安定しすぎている。
通常なら戦闘痕跡も波動もバラつくはずなのに……」
別の神官が答える。
「しかも、精霊界の共鳴は出ない。
精霊契約者なら何かしら反応が出てもおかしくない」
「精霊が拒絶しているのか、それとも……」
「記録以外、何も分からない」
教会側の帳簿には、淡々とこう記されている。
――戦闘痕跡は正常だが、魔力残滓が“異常に低い”。
――精霊界との共鳴は確認されない。
――祈り・干渉・介入なし。
そして、記録係は付け加える。
「……創造神の紋章が揺れた痕跡あり、との観測も出ています」
その言葉に、空気が一瞬だけざわつく。
創造神。
魔法の根源。
神々がその名を呼べど、真意は分からない。
⸻
そして別の領域――
名も無い空間。
そこでは、精霊たちがただ静かに流れている。
《――対象は動いた》
《創造の流れと微妙に重なっている》
《だが干渉は不要》
《我々は“見守る”のみ》
いくつもの意思が、言葉ではない形で共有される。
「名前は要らない。
だが……確かに何かが関与している」
それだけが、わずかに確認される。
⸻
夕暮れ。
ミリアは宿屋へ戻る途中、ふと足を止める。
「……ねぇねぇ」
同年代の女の子が笑いながら話しかけてきた。
「今日もすごかったって噂だよ!
魔物、一撃で片付けたんだって!」
「え? そ、そんなことないよ……」
ミリアは照れ笑い。
本気で自分が凄いなんて思っていない。
だって――
「普通にやってるだけだもん」
そう思っているのだから。
⸻
夜。
宿屋の部屋で、ミリアはカードを取り出す。
ランク:B
「……まだよく分かんないけど」
カードに刻まれた文字が、淡く光る。
(なんでこんなに、自然なんだろう)
胸の内で、答えのない問いがうずく。
知らないうちに、
この世界の中心に近い存在とリンクしている気配を。
でも本人は、それをまだ名前として認識しない。
ただ、
ゆっくりと眠りについた。
世界のどこかで、
記録が微かに光る。
創造神という名の根源と、
ミリアの半分の意思が、
ひっそりと――結びついたまま。




