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氷花が舞う夜

夜の森は、昼とはまるで違う顔をしていた。

冷たい空気が肌をなぞり、木々の影が不自然に揺れる。


「……静かすぎる、よね」


ミリアはフードを深く被り、そっと息を整えた。

依頼内容は単純――夜間に出没する魔物の討伐。

それなのに、胸の奥がざわついて落ち着かない。


(こういう時って、大体ろくなことないんだよね……)


一歩、踏み出した瞬間だった。


――ぐるるるる。


低く、重い唸り声。

闇の奥から、複数の赤い光が浮かび上がる。


「……え、数、多くない?」


現れたのは、通常のウルフより一回り大きな魔物たち。

しかも動きが揃いすぎている。


(指示役、いる……?)


考えるより早く、魔物が一斉に飛びかかってきた。


「きゃっ――!」


反射的に後ろへ跳び、ミリアは手を掲げる。


「氷よ――アイスショット!」


放たれた氷の弾丸が一直線に走り、先頭の魔物を貫いた。

だが、止まらない。


「ちょ、ちょっと待って!? 一体ずつ来てよ!」


足元を蹴り、回転しながら間合いを外す。

体が、自然に動いていた。


(あれ……? 私、こんなに動けたっけ)


爪が頬をかすめる。

だが傷は、つかなかった。


「……?」


次の瞬間、体表を淡い光が包む。

いつの間にか、削られたはずの体力は戻っていた。


(回復……した? 今?)


疑問に思う暇はない。

ミリアは小さく息を吸い、地面を踏みしめた。


「――スノウダンス」


控えめに、けれど確実に。

白い結晶が舞い、魔物の動きが一瞬鈍る。


「今だよっ!」


連続で放つアイスショット。

氷花のように砕け散り、魔物たちは次々と倒れていく。


最後の一体が崩れ落ち、森に静寂が戻った。


「……はぁ……終わった……?」


肩で息をしながら、ミリアは周囲を見渡す。

体は――無傷。

魔力も、ほとんど減っていない。


「……おかしい、よね」


そう呟いた瞬間。


――ひゅう。


冷たい風が、祝福するように吹き抜けた。

木々のざわめきの奥で、誰かが“見ている”気配。


(……気のせい、かな)


ミリアは首を振り、森を後にした。


その頃――


冒険者ギルドでは、受付嬢が報告書を見つめて固まっていた。


「……この討伐数で、この時間……?」


隣の職員も、思わず声を潜める。


「……ランク、見直しが必要かもな」


一方、遠く離れた教会の地下文書庫。

古い石板の文字が、かすかに光を帯びた。


《――氷は舞い、花は散る》


《管理対象:反応あり》


誰も、その意味を正確には理解できない。

ただ一つ確かなのは――


今夜、何かが確実に動き始めたということだけだった。

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