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転生したら最強すぎた件について   作者: ミリア
プロローグ〜第一章
20/37

可愛いは、譲れない

朝の空気は少し冷たくて、でも気持ちがいい。


 ミリアは宿屋の部屋で、コートの裾を整えていた。

 淡いピンク。フリルは多め。フード付き。


「……うん、今日も可愛い」


 小さく頷いて、それだけで満足する。


 装備として見れば、多少目立つ。

 でも、防御も補助もちゃんとあるし、動きにくいわけでもない。


 何より――


「気分が上がるんだもん」


 それが一番大事だった。



 階下に降りると、同年代の宿屋の女の子が声をかけてくる。


「おはよー、ミリア。今日もその服?」


「おはよ。うん、好きだから」


「似合ってるよ。

 ……戦いに行く服には見えないけど」


「よく言われる」


 ミリアは気にせず笑った。


「でも、可愛い方が落ち着くし」


「それで強いんだから、不思議だよね」


「……そう?」


 本気で不思議そうな顔をするから、相手はそれ以上何も言えなくなる。



 ギルドの掲示板には、いつもの依頼が並んでいた。


「森の魔物討伐……これでいいかな」


 難易度は低め。

 強敵の記載はなし。


 ミリアはそれを剥がし、受付に渡す。


「この依頼、受けます」


「はい。

 ……あ、ミリアさん」


 受付の女性が、少し言いづらそうに続ける。


「最近、あなたの依頼って……

 報告内容が、ちょっとだけ特殊で」


「え?」


「いえ、その……問題はないんですけど」


 言葉を濁す様子に、ミリアは首を傾げた。


「終わってればいいよね?」


「……はい。そうですね」



 森は静かだった。


 魔物の気配はあるけれど、どれも弱い。


「じゃ、行くよー」


 軽い声と同時に、魔力を整える。


「――アイスショット」


 放たれた氷の弾は、正確に魔物を貫いた。

 凍結。停止。崩壊。


「……うん」


 いつも通り。


 次の魔物も、同じ。

 戦闘は淡々と進み、時間もかからない。


 ただ、倒れた後の森が――

 妙に静かすぎる。


「……こんなもの?」


 氷の名残も、魔力の滞留も、すぐに消えていく。


 ミリアは深く考えない。


 戦えた。

 怪我もない。

 服も汚れていない。


「よし、完了」



 街へ戻る途中、ふと風が止まった。


 ほんの一瞬、

 誰かに見られているような感覚。


「……?」


 振り返っても、誰もいない。


 代わりに、胸の奥が少しだけ――

 “整う”。


「……変なの」


 でも嫌な感じじゃない。


 ミリアは再び歩き出す。



 同時刻、記録室。


「……また、同じです」


 神官が報告書を置く。


「戦闘結果は正常。

 ですが、魔力消費量と残滓が一致しません」


「属性は?」


「氷系、のはずですが……

 単純な氷では説明がつかない、と」


 大神官は黙って紙を閉じた。


「……今は、記録のみだ」


「はい」


 誰も、“答え”に踏み込まない。



 宿屋に戻ったミリアは、コートを脱いで椅子に掛ける。


「今日も無事」


 フリルを指で整えて、満足そうに微笑む。


 強いという自覚はない。

 特別だという意識もない。


 ただ――


「可愛い服で、ちゃんと冒険できた」


 それだけで、今日は充分だった。


 世界の方が、

 少しずつ彼女を測り始めていることを――

 ミリアは、まだ知らない。

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