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転生したら最強すぎた件について   作者: ミリア
プロローグ〜第一章
19/37

救世主と呼ばれた日常

王都アステルの朝は、いつも通りだった。


石畳に響く足音、焼き立てのパンの匂い、冒険者ギルド前のざわめき。

昨日までと、何ひとつ変わらない。


「……ほんまに平和やなぁ」


ミリアは伸びをしながら、ギルドの掲示板を見上げた。

依頼は雑多で、危険度も低い。

大型魔物の討伐も、戦争の兆しもない。


「昨日まで“何も起きへんのが不気味”やったのに、今日は逆に安心するわ」


その直後だった。


鐘が鳴ったのは。


緊急招集――

王都近郊、旧街道方面に正体不明の存在出現。


「強敵、やってさ」


パーティーメンバーの一人が、少しだけ緊張した声で言う。

ミリアは肩をすくめた。


「まぁ、行こか。放っとくわけにもいかへんし」



旧街道に現れたそれは、確かに“異質”だった。


魔物の形をしていない。

魔力反応はあるが、属性が定まらない。

攻撃の意思は薄いのに、近づくものを拒むように空間が歪む。


「……これ、厄介なやつちゃう?」


誰かが呟く。


戦闘は始まった。

だが――激しいものにはならなかった。


ミリアが前に出た、その瞬間。


風が止まり、

空気が一拍遅れ、

“それ”は、抵抗する理由を失ったように崩れた。


派手な一撃も、必殺技もない。

ただ、終わった。


「……終わり?」


ミリアは首を傾げた。

だが、周囲の騎士や冒険者たちは違った。


「倒した……?」

「今の、見たか……?」

「街道が、完全に元に戻ってる……」


その日のうちに、話は王城まで届いた。



数日後。


王城・謁見の間で、ミリアたちは並んでいた。

正装など持っていないので、多少ラフな格好だ。


「王国アステルは、諸君らの功績を称える」


国王の言葉に、場が静まる。


“強敵の排除”

“街道と物流の回復”

“王都への被害ゼロ”


どれも事実だ。

だが、ミリアには少しだけ違和感があった。


「……そんな大事やったんやろか」


勲章が授与され、金一封が渡され、

パーティーメンバー全員が表彰された。


周囲からは、こんな声も聞こえる。


「救世主だ」

「若いのに、大したものだ」

「次代を担う冒険者だな」


ミリアは苦笑いする。


「大げさやて……」



その夜。


ギルドでの小さな祝いの席。

笑い声と酒の匂いに包まれながら、ミリアはふと考える。


強敵だったのか。

本当に。


戦った感覚が、あまりにも薄い。

勝った実感が、ない。


「まぁええか。平和になったなら」


そう言って杯を傾ける。


世界は、今日も静かだ。

秩序は、正しく動いている。


誰も疑わない。

この“日常”が、少しずつ次の章へ近づいていることを。

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