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転生したら最強すぎた件について   作者: ミリア
プロローグ〜第一章
17/37

最初のズレ

王都アステルは、今日も穏やかだった。


朝の鐘は正確に鳴り、商人たちは決まった時間に店を開ける。冒険者ギルドの扉は軋みもせず、依頼掲示板には昨日と似た内容の紙が並んでいた。

誰が見ても、平和そのものだ。


だが――

その平和は、どこか「整いすぎて」いた。


ミリアはギルドの中で、何となく周囲を見渡していた。


「……変わらん、はずやのに」


自分の声が、妙に遠く感じる。

昨日までと何も違わない。空気の温度も、人の流れも、魔力の濃度も。

それでも、胸の奥に小さな引っかかりがあった。


受付嬢が依頼書を数えている。


「……一、二、三……」


そこで、ほんの一瞬だけ手が止まった。

理由はない。ただ、紙の重なり方が“しっくり来なかった”。


もう一度数える。

数は合っている。内容にも問題はない。


「……気のせいね」


受付嬢はそう言って仕事を続けた。

周囲の誰も気に留めない。

だがミリアだけは、その一瞬を見逃さなかった。


「今の……なんやろ」


世界が、ほんのわずかだけ“考えた”ように見えた。


昼、街を歩く。


露店の主人が釣り銭を渡す指を一拍遅らせ、

荷車を引く少年が石につまずきかけ、だが倒れず、

噴水の水音が、なぜか一拍長く響く。


どれも事故ではない。

むしろ、事故にならなかった。


「……うまくいきすぎや」


ミリアは小さく息を吐いた。

不運が起きない。

危険が成立しない。


それは安心できるはずのことなのに、どこか不自然だった。


同じ頃――

神々の側では、観測が続いていた。


四天王の一柱が、秩序盤を指でなぞる。


「数値は……正常。だが」


ログは滑らかだ。

異常波形も、逸脱反応もない。

だが、連続性にわずかな“遊び”が生まれている。


「測定誤差の範囲だな」


そう結論づけられ、記録は更新されない。

警告も出ない。

秩序は、まだ秩序のままだ。


精霊界では、風の精霊が一瞬だけ流れを失った。


精霊王は足を止める。

風は正しく吹いている。

だが、次の風向きが“未定”になっている。


「……」


これは異常ではない。

だが、以前はあり得なかった。


精霊女王のもとへ報告するべきか――

そう考え、精霊王は言葉を飲み込んだ。


異常ではない。

秩序に反していない。


報告の理由が、存在しない。


夕暮れ。

ミリアは城壁近くの道を歩いていた。


風が止まる。

雲が、一瞬だけ空に貼り付いたように動かなくなる。


ほんの一瞬。

誰も気づかない。


だがミリアは立ち止まった。


「……今、止まったやろ」


胸の奥が、静かに震える。

恐怖ではない。

懐かしさとも違う。


自分自身に、触れかけている感覚。


「まだ……やな」


そう呟くと、世界は何事もなかったように動き出す。

雲は流れ、風は吹き、人々は歩き続ける。


秩序は崩れていない。

異常は、まだ無い。


だが――

完全だった世界は、確かに一度、躓いた。


それが

最初のズレだった。

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