名のない依頼主
その依頼は、掲示板には貼り出されなかった。
ギルドの受付嬢に呼び止められ、奥の小部屋へ案内される。
「個人指名です」
「……私が?」
「はい。
身元は伏せられていますが、報酬は保証付きです」
机の上に置かれた封筒は、装飾が過剰だった。
貴族、あるいは――国家。
「依頼内容は?」
「未開発地帯の調査。
魔物の異常発生と、原因不明の魔力濃度上昇です」
私は封筒に触れずに答えた。
「ソロ限定ですか?」
「……はい」
少し、間があった。
「同行者は不要。
ただし、成果の報告は“直接”」
「却下します」
即答だった。
「理由は?」
「面倒だからです」
嘘ではない。
面倒な依頼ほど、
あとから“説明”を求められる。
「……条件を変えます」
受付嬢が、声を低くする。
「報告は文書のみ。
提出後、記憶保持義務は課しません」
それでも、私は首を振った。
「じゃあ、ひとつ条件を」
「?」
「秘密保持魔法を、依頼主側にもかけます」
空気が、止まった。
「発言・記述不可。
破ろうとすると……軽く、しびれます」
「……」
「それでいいなら、受けます」
数秒の沈黙のあと。
「……了承されました」
封筒が、こちらに滑る。
「では、お願いします。
――ミリアさん」
名前を呼ばれた瞬間、
なぜか、少しだけ胸がざわついた。
理由は、分からない。




