ひとりでいる理由
冒険者ギルドは、昼前になると少し騒がしくなる。
私は掲示板の前で依頼書を一枚剥がし、内容をざっと確認した。
中規模。単独行動可。報酬も悪くない。
「……これでいいかな」
背後から声がした。
「なあ、君」
振り向くと、三人組の冒険者。
装備は揃っているし、悪い人たちではなさそう。
「ソロで動いてる子だろ?
今日の依頼、一緒にどうだ?」
私は一瞬だけ考えてから、首を横に振った。
「ごめんなさい。パーティーに入るつもりはないんです」
「え? ずっと一人で?」
「はい」
即答だった。
「効率悪くないか?」
「慣れてますから」
それに――理由は、効率じゃない。
「どうしても、って言われたら?」
少し食い下がられて、私は小さく息を吸う。
「……その場合は、条件があります」
三人が顔を見合わせる。
「秘密保持の魔法をかけさせてもらいます」
「は?」
「私に関することを、
口にしたり、書こうとしたりすると……出来なくなります」
「……それって」
「無理にしようとすると、
ちょっと、ビリビリします」
冗談めかして言ったけれど、嘘ではない。
「罰は、指定できます。軽めにも、重めにも」
沈黙。
三人は、そろって一歩引いた。
「……そこまでして、隠す理由が?」
「ありません」
私は、にっこり笑った。
「ただ、そうしたいだけです」
それ以上、踏み込まれることはなかった。
「……分かった。
ソロ、気をつけてな」
「ありがとうございます」
私は依頼書を握りしめ、ギルドを出る。
ひとりでいる理由は、説明できない。
でも――
ひとりでいる方が、世界は静かだ。
余計な波紋を、立てずに済む。
*
依頼地は、街から少し離れた丘陵地。
魔物の数は多いが、強さは中程度。
「……よし」
フードを深く被り、足を踏み出す。
戦闘は、いつも通りだった。
避けて、凍らせて、斬る。
派手な魔法は使わない。
目立つこともしない。
なのに――
「……また?」
魔物の動きが、ほんの一瞬、遅れる。
転び、躓き、致命的な隙を見せる。
「……運、良すぎじゃない?」
自分に言い聞かせながら、最後の一体を倒す。
息は乱れない。
傷もない。
「……終わり」
帰り道、風がやさしく吹いた。
あの、名前のない気配。
でも、今日は姿も感じない。
「……ひとりでいい」
私は、そう呟いた。
それが、一番安全だから。




