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銀の髪の兄妹   作者: 銀狐
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銀の髪の少女は馬車で旅をする

 王都を離れ、馬車は谷沿いの道を進んでいた。馬車の中にはカールとメイドのお仕着せを着たエリアンヌが乗っていた。

護衛に雇った傭兵4人が前後を固め進んでいく。

先日、カールが襲われたときに護衛が裏切ったことを反省して、以前から何度も護衛を任せ、信頼のおける者たちを雇った。

「馬車がかなり揺れますが、大丈夫ですか。」

石かあちこちに転がり、状態のよくない山道の難所で馬車一台がやっと通れるくらいの幅しかなく、左側は谷になっていて、底は急な流れの川になっていた。

この難所をやり過ごせば、あとは平たんな道で楽になるはずである。

「気分はよくないけど、まだ大丈夫よ。」

もう三時間も馬車に揺られているが、もうすぐ峠に着こうかというところであった。

「ちょいとここらで、休憩にしますか。」

護衛のリーダーであるガイが馬車に向かって話しかけた。

そろそろ、ユリアンヌの様子が心配になったカールは休憩に同意した。

狭い馬車から降りて外の空気を吸うだけでも、気分転換になるというものである。

それにしてもと、ガイはこの馬車の中の依頼人を訝しく思う。

商談に行くというなら、カールだけでよさそうなのに、この体力的に厳しい旅にメイドを連れて行くのは理解できない。

しかも、カールがやたらにメイドに気を遣うのも、メイドが主人であるはずのカールの世話をやくということもないというのも不思議に感じる。

女性の護衛を含む自分たちに仕事を依頼したのも、このメイドに配慮してのことではないのか。

王都で急成長し、勢力を拡大しているリンツ商会のカールにはなにか秘密があるとは思っていたが、案外このメイドにあるのかもしれない。

馬車から降りてきたメイドは、顔色を青くして精彩を欠いているものの、それも儚げに見えて、魅力を損なうこともない。

容姿からすると、エルフの血が入っているのではないだろうか。

ガイの傭兵仲間には、エルフ出身の男がいて、その男も浮世離れした容姿をしていたのを思い出す。

エルフは、森の中にごく少数の群れを作って隠れ住むように暮らしているが、運動能力にも優れ、魔法も使える。

ひょっとしたら、このメイドも何かしら特殊な能力を持っていて、大事にされているのかもしれない。

「リンダ、湯を沸かして茶を入れてくれ。」

リンダはこのグループ唯一の女性で、火の魔法が使える。

この国には、少数だが魔法が使えるものがいる。

このリンダは、王都の騎士団にも誘われる使い手ではあるのだが、病気の母親の看病をしなければならないと、騎士団の話を断ってこうして冒険者をやっている。

今回の旅では、報酬の良さと嫁に行った姉が実家で看病してくれるというので同行してくれている。

リンダは、手早く魔法を使って湯を沸かし、茶葉をいれてカップに注いだ。

かなり無理をしていたのだろうか、メイドが手を胸に当てて、ほうっと大きく息を吐いた。

顔色は青いままだ。名前はユーリと言ったか。

カールの方は、商人として馬車の旅にも慣れているようで、余裕がありそうだ。

「馬車の旅には慣れていないのか。あんた、そんなんで大丈夫なのか。」

なんで連れてきたとばかり語気を少し荒げた。

「すみません。ユーリは、今回の交渉にどうしても同行してもらわないといけないもので。」

「依頼料も破格だったし、こっちに予想外の危険がなけりゃ文句はないさ。」

依頼主のカールにかばわれては、それ以上追及はできない。

みなにカップが行き渡って一息ついていると、前方から馬に乗った男たちが4騎ほど近づいてきた。

ここは、盗賊がよく現れることで有名だ。

カールは仲間たちに目配せをして、立ち上がり、馬にまたがった。

「あんたたちは、馬車の中に。」

依頼人の2人を馬車に押し込んで警戒する。

休憩の間に、護衛の人数を把握されたかもしれない。

後方から3騎ほどが近づき、7騎が相手だ。

右手の崖の上に人影があった。

そこから、弓が放たれた。

「右から弓だ。」

カールたちは、盾を構えて防ぐ。

「いったい何人いやがるんだ。」

リンダが詠唱に入っている間に、前方から4騎が近づいてきた。

詠唱に入ったリンダをルークが守っているので、4騎はガイとザックで相手しないといけない。

馬車の扉が開き、依頼主のカールが出てきた。

「俺も戦いますよ。」

「商人がなに言ってやがる。危ねえからすっこんでろ。」

「こう見えて、そこそこ使えるんです。任してください。」

カールの後ろの馬車の中からユーリが何やら詠唱していた。

カールに何か魔法をかけ、体が光に包まれたと、思いきや凄い速度で走り、ありえないジャンプを見せ、盗賊の一人を切り伏せた。

あっけにとられ、動きが遅れたが、カールの後ろから馬で駆け付け、残りの3騎と切り結ぶ。

横合いから隙を狙ってカールが2人目を倒した。

2対2に持ち込んだと思ったら、カールは後方の援護に行く。

リンダは詠唱が終わって、崖の上の敵に、ファイヤーボールを放った。

崖の上の弓使いは、叫び声を上げながら下に落ちてきた。

ルークは一人と切り結び、二人目とリンダが対峙する。

カールはリンダの相手の後ろに回り、足を切り付け、馬から引き落とした。

リンダが馬上から降り、足を切られて動きが鈍った賊を斬る。

ルークと切り結びいったん離れたが、もう一人の敵がやってきてザックに狙いを定めた。

ルークの隣にカールは並び、にらみ合う。

カールが短刀を投げ、賊が払い、ルークとカールの背後のリンダから、ファイアーボールが放たれた。

賊の衣服に火が付き、隙ができたところに、ルークとカールが飛び込んで、決着がついた。

「あんた、やるな。」

「あのジャンプは何だ。人間業じゃねえ。」

ザックとルークは驚きの声を上げた。

いや、確かに商人のカールの腕には目を見張るのもがあるが、秘密はメイドにあるなとガイは見抜いていた

「ユーリさん、あんたなんかやっただろう。」

「いいえ、なにも。怖くて震えていただけです。」

「ちぇっ。まあいい。」

事情は護衛風情には言えないってことかと、吐き捨てた。


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