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銀の髪の兄妹   作者: 銀狐
8/27

銀の髪の少年は王子と町に行く

 せっかくふかふかのベッドで眠れたのに、一日目にして正体がばれてしまい、あと九日もこのままバレずに過ごせるのかとまんじりともせず、睡眠不足のまま、朝を迎えた。ベッドは無駄に広かったので、ジルとアルは二人一緒にベッドで眠った。

カーテンの隙間から差し込む日差しに日が昇ってからかなり時間がたっているのではないかと思われた。

隣に目を向けるとアルがいびきをかきながら眠っていた。

なかなか眠れず、疲れが取れないままなのに、隣でぐっすり眠っているアルが憎らしくなってきて、アルの鼻をつまんだ。

「ぷはー。息が苦しいと思ったら、お前かジル。」

「もうそろそろ、起きるぞ。カラが朝食を運んでくる。」

「まずい。俺、まだ寝間着だ。」

「とっと着替えろよ。」

急いで着替えると、それを待っていたように、ドアが叩かれた。

朝食を乗せたカートを押しながら、カラが入ってきた。その後ろからジークフリートが入ってきた。

「やあ、よく眠れたかな。」

「・・・・はい。」

楽しみなはずの朝食が、王子の顔を見た途端、憂鬱なものになった。

カラが出ていくのを見届けると・・・。

「さあ、朝食を食べたら、出かけるよ。」

「えっ、どこに。」

「隠し通路があるでしょ。アル、君は残って隠蔽工作よろしく頼むよ。」

なんてことを言う王子だと、ジルとアルはぽかんと口を開けて固まった。

「えーっ。俺、留守番なの。」

「そう。布団の中にクッションを入れて、ジルは寝ていることにすればいい。」

「じゃあ、王子はどうするんですか。」

「私は執務室に籠るから誰も入るなって言ってある。ジル、着替えを持ってきたよ。さあ、着替えて。カツラもあるよ。もちろん私も被る。」

白のブラウスに黒のジャケットを羽織り、ちょっと裕福な商人風に見えないこともない。でも、存在自体が只者でない大物感が隠しきれてない・・・。

まあ、目立つ銀髪を隠せば、そうそうバレるはずもないと納得して、ジルは自分も着替えた。ジルは従者に見えるかもといった品のいい服だった。ただ、二人とも剣は腰に佩いていた剣を佩けば、外に出ても多少の危険から王子を守れると深く息をついた。

「じゃあ、アル行ってくる。」

「王子のお供って、大変だろうけど、頑張って。」

このまま王子に付きあって外に出るのも神経をすり減らされそうなので、やっぱり留守番したほうがいいかもと思い直したアルがいい顔をして、親指をぐっと立てて突き出した。

ジルは、なんでこうなったとばかりに、手を額に乗せて上を向いて息をついた。


 町に出てみると、案の定、王子はかなり目立った。

すらりと均整の取れた長身に、細身ではあるが程よく筋肉の付いた体。黄金の目元は涼し気で程よく整った鼻に、薄く引き締まった唇。

ジルも美形ではあるが、いまだ身長は低く、少女といってもよいくらいの中性的な見目をしていた。

2人で歩くと、自然に女性たちの目は王子に釘付けだった。

昨日会ったばかりだというのに、この王子は一体なんでこんなに自分に気やすいのだろう。

護衛もつけずに町中を歩いていいのだろうか。

なんだか、慣れてる・・・。

まさか、しょっちゅうこんなことをしているのだろうか。

「あの、町の中では、なんとお呼びすれば・・・。」

「ああ、君とは兄弟ということで、名前はジークでいいだろう。もちろん、兄弟なんだから敬称や敬語はなしだよ。普通に話してくれ。」

王子が兄なんてどんなだよ、とは思ったが、正体がばれるわけにもいかないなあ。

「はあ・・・。わかりま・・・わかったよ。ジーク兄さん。」

「ああ、頼むよ、ジル。」

ジークは、満面の笑みで答えた。

にぎやかな町中を歩いていると、屋台で焼かれた肉の香ばしい匂いがしてきた。

朝食を食べてきたとはいえ、もう昼に近い時間になっていた。ジルの腹が空腹を訴える音を鳴らした。

「ジル、お腹がすいたか。」

「あ、いえ・・・。すみません。」

唐突に鳴った腹の音が恥ずかしくてジルは、顔を赤らめた。

「美味しそうなにおいがするな。あの肉でも買うか。」

いうなり、ジークは屋台に走っていった。

「おや、見ない兄さんだね。何本かね。」

「ああ、弟の分と2本頼むよ。」

ジルは弟と言われて、居心地の悪さを感じた。

ジルには騎士団に兄のアランがいる。アランは優しいが、こんな風に町中に2人でぶらついたことなどない。

ほら、と満面の笑みで差し出された串を受け取ると、なんだか恥ずかしくなってもじもじしてしまった。

お上品なはずの王子は、大きな口を開けて、肉にかぶりついた。

「ああ、焼き立ての肉はうまいな。」

蕩けそうな顔をして、さもおいしそうに肉に口をつける。

「もっと、いい肉食べてるでしょう。」

「ああ、だが、毒見を通すから食べるころには冷えて、固くなってしまっているからな。やっぱり、こうやって焼き立ての肉を、熱いうちに食べられるのはうれしいものだよ。」

そういえば、城の食事は高級な材料が使われ、凝った調理法で味はいいが、冷えて温かくはなかったなと、思い至った。

それにしても、王子ともなると食事も毒見をされるのかと、驚いて、ジークの顔を見る。

「ジルも知っていると思うけど、王が病で長いこと臥せっているというのに、我が国は、まだ王太子を立ててはいない。私と、腹違いの弟と跡継ぎ争いをしてるってことさ。」

「今までにも、食事に毒を盛られたことが・・・。」

その質問に答えることなく、隣に立つジークは、力なく笑った。

その寂し気な笑みにぐっと胸を突かれた。

「町のことなら任してくれよ。おいしいとこ知ってるんだ。」

ジルは勢い込んで、ジークの手を引っ張って、出店の並ぶ通りに向かった。

小麦を薄く焼いた生地に果物を煮詰めたソースをかけたもの、川でとれた魚を炭火で焼いたもの、芋をふかしてバターを乗せたもの・・・色々なものを二人で食べた。

王宮で食べるものと比べたら、粗末なものだが、ジークはさも嬉しそうに、うまそうに食べた。

「ジル、あそこによるぞ。」

ジークが指さしたのは、武器屋だった。

店の中は、短剣や長剣、やりや弓、鞭やアックスにナックルといろいろな武器が所狭しと並んでいた。

なかなか、いい武器があるじゃないか。

ジークは喜々として武器を眺めていた。

「これなんか、いいんじゃないか。」

ジークが手に取った剣は、鞘も細かな細工のかなり値が張りそうなものだった。

「お客さん、さすがお目が高い。それは、東方の国から取り寄せたオリハルコンを使った特別な剣ですよ。大きさの割に片刃なので軽く扱いやすいでしょう。そこの坊ちゃんだと、ちょうどいい片手剣だと思いますよ。」

店の店主が、やってきて剣を勧めてきた。

「なるほど、ジルちょっと持ってみて。」

えっ、俺が。とは思ったものの、抜身の剣の刃紋の美しさも心惹かれるものがあった。おずおずと手を差し出し、触れてみた。

通常の剣より細身のため、そんなに重くないが、オリハルコンが使われているので、細いわりに強さも保証されている。

成長途中のジルが扱うにはちょうどいい重さと長さの剣だった。

試しに、素振りをしてみる。

「ああ、なるほど、片手で扱うにはちょうどいいかも。」

「気に入った。・・・では、これをもらおう。」

・・・・どいういうこと。

俺が豆鉄砲食らったように目を見開き、口をあんぐりと開けていると。

「毎度あり。金貨6000枚になります。」

俺は、顔をグルンと店の亭主に向けた。

金貨6000枚って、王都でかなり立派な家が建つ金額だよ。

「じゃあ、この指輪でどうかな。」

なに、とばかりに今度はジークのほうにグルンと顔を戻した。

「はあ、これはかなり珍しい宝石ですね。細工も丁寧で、大きさもかなりある。いいでしょう。

では、お支払いは、この指輪で。」

おいおい、待てよ。いくら王子とはいえ、こんな簡単にこんな高価な剣を買うのかい。

額からつーっと汗が伝った。

見開かれた俺の目は、さらに見開かれて飛び出しそうになっていることだろう。

「ほら、ジル。」

その剣を、さっき買った串焼肉でも渡すように渡してきた。

「えっ、ひょっとして、俺に買ってくれたの。」

「そうだけど、気に入ってたよね。」

「・・・・・いやいやいやいや、こんなものもらえませんよ。」

目の前で両手をブンブン振って、受け取れないことをアピールする。

「ジルは、私が危険な目にあったときは、助けてはくれないの。」

「はあ。もちろん、助けるけど。」

「私を助けるためには、ちゃんとした武器を持ってもらわないと、ね。」

ジークは片目をつぶってウィンクをかまして来た。

ここに妙齢の女性がいれば卒倒すること請け合いの爽やかな笑顔付きで言われれば、断ることもできない。

「・・・わかりました。全力でお守りします。」

気分的に、実際の重量以上の重さを感じながら、その剣を受け取った。



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