銀の髪の少年は王子に出会う
すると、また入室の許可を得ようと扉がたたかれた。誰何すると、ジークフリート王子殿下らしい。
ジルは慌ててベッドに潜り込んで、布団をかぶった。正体を見破るとしたら、兄王子だろうから気を付けるように言われていたのだ。
「エリアンヌ。具合が悪いと聞いていたのだが、大丈夫かい。」
「お兄様、頭が痛くて少し気持ち悪いんです。お兄様にうつすといけませんから。どうか、お部屋にお戻りください。」
「確かに、声がちょっと変だね。少し顔を見せてごらん。」
布団に手をやって、はがそうとした。
「いけません。お兄様にうつしてしまします。」
はがされないようにしっかりと布団の端を握りしめ、顔に押し付けた。布団の隙間から、銀の髪がのぞいている。
ジークフリートはその手にそっと触れた。
「・・・お前は、誰だ。」
優しげな声が、突然低くなった。
(ギクーーー。まずーーーーい。なんでばれた。)
ジルもアルも冷や汗をたらたら流した。
「な、なんのことでしょう。」
「エリアンヌの手は、そんなに固くない。」
「・・・・・・・・・。」
「あっ、あのう・・・。」
観念したジルは、布団を下げて顔を出した。
ジークフリートは、ジルの顔を見て驚きの表情を見せた。
ジルはほうっと息をついた。
ジルと同じ銀の髪に思慮深さを感じさせるトパーズの瞳。
がっちりした体躯に長身の男性にもかかわらず、肌はしっとりときめ細やかで陶器のようだ。
なんて、美しい青年だろうと、つい見惚れてしまった。
細かく震える指がジルに伸ばされ、頬を掌に包まれた。
「名は何という。」
「ジルといいます。エリアンヌ殿下に言われて、代わりをするように言われました。」
「エリアンヌは、どこへ行ったのだ。」
「レント地方、ドラガ伯爵のところに・・・。もしばれたら、そういえば分かると、言われました。」
「勝手なことを。しかし、カールと一緒か。・・・ところで、ジル。エリアンヌとどこで知り合った。」
「カールさんが賊に襲われているところに、偶然出くわしまして、エリアンヌ殿下と似ているからと、依頼を受けました。」
「そうか・・・。」
ジークフリートと話している間中、頬に手が置かれて、至近距離で見つめられて、ジルの神経はごりごりすり減っていった。
「あの、あの・・・その、手を・・・。」
「はっ、済まない。・・・あまり、エリアンヌに似ていたものだから。驚いてだな。」
頬から手を引いてくれたので、ほっとしたが、その両手が今度はジルの手を包み込んだ。頬よりはましだが、王子だという美麗で高貴な青年に手を握られているというのは、なかなかに神経に響く。
内心、もうやめてくださいと思うが、優し気な瞳に、この手の温もりになぜか心惹かれるものがあった。
この国には珍しい銀髪に自分の同族を見つけたような気がして、この美しい王子に親しみを感じた。
「固いな。この固さだと、剣でも使えるのか。」
「父と冒険者をしていますので、剣も弓もそこそこ使えます。」
「ところで、ここへはどうやって入った。」
「隠し通路がありまして、そこから・・・。」
「ほう・・・隠し通路か。なるほど。」
ジークフリートは、にやりとなんだか悪い笑みを浮かべた。ジルはその笑みに物凄く嫌な予感を覚えた。
「夕食は私も、ここで食べよう。」
「へっ・・・。」
「では、夕食のときにまた・・・。」
無駄にさわやかな笑顔を向けて、ジークフリートは去って行った。
「なんだよ、なんだよ。」
あっけにとられて、一言もしゃべれなかったアルがジルに向かって突進してきた。
「速攻バレたと思ったら、あの王子の態度なに・・・。もーう、意味不明なんですけど。なんかさあ。王子の後ろに尻尾が見えた気がしたんだけど・・・。もうブンブン振ってる感じの。」
「俺、夕飯、たぶん味がしないと思う。」
「俺も・・・。」
約束通り、王子が現れ、部屋で一緒に食事をした。ものすごく機嫌のいい話好きの王子と、首を縦にしか降らない緊張気味の引きつった笑みを浮かべた二人は、王子が自室に戻った後、天井を見上げ疲れた顔をしていたのは言うまでもない。