銀の髪の少年は王宮で王女になる
淡いクリーム色の壁に白いライディングデスク、ソファー2つの応接セット、少女らしい部屋ではあるが、余計な飾りはなくすっきりとしていた。
本棚には少女の読みのもとは思えない歴史書や経済関連の書籍、外国語の辞書など見るからに難しそうな本が並んでいる。
隣の部屋は寝室になっていてそのベッドの上にジルはいた。
王女が出入りしている王宮からの隠し通路から、入り込んでエリアンヌと入れ替わったジルと、カールに連れられて正面から乗り込んだアルと二人で部屋にいた。
「まったく、なんでこんなことに。」
頭を抱えるジルに、メイドのお仕着せを着たアランが腕を組んでふんっと鼻を鳴らした。
「迂闊に引き受けるから、こんなことになってんじゃないの。俺までこんな恰好させられて、どうしてくれんだよ。」
「付き合わせて悪かったよ。・・・でも、お前似合ってるよ。」
ぶふーっと吹き出してジルは肩を震わせ、ベッドの中に潜り込んで爆笑した。
コンコン、ドアを叩く音がした。
「昼食の用意ができました。お部屋に運んでよろしいでしょうか。」
少し咳払いして、のどを整えて、声を高めに調整してどうぞと、入室を許す。
「アルーシュさんと二人分用意しています。あの・・・アルーシュさんはほんとにこちらで殿下と一緒に召し上がりますか。」
アルーシュとは、あるのことである。
普通、侍女は王女と侍女は食事を共にすることはない。
昼食を持ってきた侍女、カラは、ベッド脇の椅子にふんぞり返っているアルーシュに尋ねた。
「殿下の容体が急変したらすぐに対処できる者がいるのです。だから、多少医術に心得のある私が付き添うのです。問題ありません。」
「アルーシュさんは、リンツ商会からの推薦があったと聞きました。どこの貴族の方でしょうか。」
城の侍従や侍女たちに、ろくな紹介もなく突然現れ、王女に付き添っている侍女に不信感を露わに、その侍女は食い下がった。
「カラ、アルーシュは貴族ではないのよ。でも信用のおける者ですから、あなたが心配しなくても大丈夫よ。」
ジルは、カラという侍女は初対面だが、この部屋に来る侍女はカラだけということにしてもらっていたので、難なくその名前を呼んだ。
「殿下がそうおっしゃるのでしたら。承知しました。何か御用がありましたら、ベルでお呼びください。」
カラと呼ばれた侍女は、しずしずと下がっていった。
「王宮の昼食ってどんなだよ。楽しみだな。」
運ばれた昼食は、新鮮なサラダ、野菜のスープに、柔らかそうなパン、こんがりと焼かれた鶏肉のグリルにハーブの効いたソースがかかり、フルーツの盛り合わせと、果汁を絞ったジュースが付いていた。
「昼間っからこんなごちそうが食えるなんて、さすが王宮だよな。」
「あら、アルーシュ様。お行儀よくなされませ。」
大きく口を開けて肉をほお張ろうとしていたアルが、噴き出して、ゴホゴホとせき込んだ。
「うわっ、汚いな。こっち飛ばすなよ。」
「ジルが変なこと言うからだろ。」
「なんか、お互い役者になれるよな。」
「おお、お前もなかなか堂に入ってたぜ。」
ジルとアルは腹を抱えて笑い出した。