銀の髪の少年は銀の髪の少女に出会う
王都にあるリンツ商会の一室、ソファーに腰を下ろし、出されたお茶に口をつけて、その香りにふうっと息をはいた。
ジルは、先日、賊に襲われているところを助けた商人のカールに招かれて、王都にあるカールの店にやってきていた。
「なんで、俺の家がわかった。」
ジルは、憮然として腕を組み、カールの前に座っている。
「君の鷲が飛んで行った方向が、トラビス村だったから、見当をつけたんだ。」
「まったく、油断も隙もあったものじゃないな。で、何の用だ。」
「実は、君に折り入って頼みたいことがあってね。10日ほど、ある方の身代わりになってほしいんだ。」
「背格好でも似ているのか。どこの野郎だ。」
カールは口に軽く握った手を当てて、笑いを逃がすように上目遣いになった。
「いや、実は君と同じ年の女性でね。なんと、君にそっくりなんだ。」
「はあ。なんだって・・・。俺に女装しろってのか。」
男性かと思えば、女性だという。
いくら、ジルが華奢だからと、無理があるというものだ。
「体調不良ってことにして、その間床についていてもらえれば、ごまかせると思うんだよね。
一人じゃ心配だっていうなら、君の友達のアルも一緒に。もちろん、報酬は弾むよ。金貨50枚でどうかな。」
金貨50枚といえば、3か月は遊んで暮らせるほどの額で、ヨハンの怪我の治療費として欲しいところではある。
「それだけの報酬となると、かなりやばい仕事ってことだな。」
腕を組んでどうしたものかと考えていると、部屋のドアがかちゃりと開いて、黒いメイドのお仕着せを着た少女が入ってきた。
ジルは、あんぐりと口を開けて目を大きく見開き、その少女の顔を凝視した。
「こりゃ驚いた。確かにそっくりだな。」
「フードを取って、顔を見せてもらえるかしら。」
鈴が鳴るようなよく通る涼し気な声で、その少女は、ジルに向かって言った。
ジルが、フードを下ろして少女を見つめると、珍しいはずの銀の髪色までそっくりの顔が二つ。
鏡をのぞいたように見つめあった。
ジルは、ぞくりと背筋が震えた。
家族はジルにこれ以上はないほどの愛情を注いでくれていたが、珍しく目立つ髪色と、容姿にどこか自分はみなとは相いれないよそ者だと孤独を深めていたのだ。
ところが、目の前にその自分と同じ髪色の少女がいて、やっと仲間に巡り合えたような感慨を覚えていた。
「あんた、家族は。」
「父と兄がいるわ。」
「みな、同じ髪色なのか。」
「亡くなった母に似ているのよ。父は違うけど、兄と私はこの髪だわ。」
同じ銀の髪がもう一人、ジルは、その少女の兄にも会ってみたいと思った。
ひょっとしたら、血の繋がりがあるのかもしれない。
「分かった。その仕事、引き受けてやるよ。」
花が綻ぶような笑みを見せて、その少女は手を差し出した。
「よろしくね。私はエリアンヌ。この国の王女よ。」
差し出そうとした手が止まって、まじかっと、自分の浅はかさを悔やんだ。
「あら、撤回は許さないわ。私の素性を聞いた時点で、引き返せないのよ。聞けば、家には怪我をしたお父様がいらっしゃるのでしょう。断れば、動けないお父様がどうなるか、察していただけるわよね。」
先ほどの笑みとは違う明らかに違う、邪悪さを纏った笑みを浮かべ、目を鋭くした王女の顔に選択の余地はないとばかりの威圧を受けて、ジルは顔は引きつった。