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銀の髪の兄妹   作者: 銀狐
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銀の髪の少年は王城に招かれる

 王子と王女の後ろを歩いていく、国王に会うために、着慣れない服を着せられた。

白のタイが俺の目と同じ色のサファイヤで留められ、クリーム色のジャストコートを着せられた。

髪もきちんと整えられ、なんだかすごく肩がこる。

それ以上に、自国の国王にお目にかかるのだけでも緊張を強いられるのに、その国王が実の父だというのだから、今日のことを考えると、夕べは一睡もできなかった。

扉に近づくと、侍従が頭を下げながら扉を開けてくれた。

どうやら、国王の寝室に通されたらしい。

周知のとおり、国王はもう長いこと病に臥せっている。

金の刺繍糸で縁取られた臙脂の幕のひかれたベッドに近づいていく。

俺は、ごくりと唾を飲み込んで、細く息を吐いた。

部屋の中は、薬品の匂いと、腐臭が漂っていた。

「父上。」

「ジークフリートか。」

やっと聞き取れるほどの弱弱しい声が聞こえた。

「エリアンヌの双子の兄、ジルベルトを連れてまいりました。」

ジルの肩に手を置いて、ジークフリートの前に押し出した。

間近に見る国王の顔は蒼白で、頬はコケ、目は落ちくぼみ、実年齢よりはかなり年取って見えた。

茶色の髪にジークフリートと同じ琥珀の瞳。

ジークフリートの目は、意志の強さと、聡明さをたたえていたが、この王の目はひたすらにやさしさをたたえていた。

「なるほど、エリアンヌとそっくりだな。知らなかったこととはいえ、苦労を掛けた。」

「・・・・。」

国王のあまりの状態の悪さに、何を言ったらいいのかわからなかった。

「ジークは毒を盛られ、ユリアを失い、そなたまで身を隠さなければならなかったのは、この父がふがいなかったからだ。すまなかった。」

国王は、ベッドに横になったまま、頭を下げてきつく目を閉じた。

「頭を下げないでください。あなたは何もご存じなかったのだから、仕方ありません。」

「私を許してくれるのか。」

「許すもなにも、養父のヨハン・グラフと兄のアランがよくしてくれましたので、今まで何ほどの苦労などしておりません。どうか、お気になさらないでください。」

「そうか、グラフ卿にもよくお礼をせねばな。」

国王は、震える手をジルの前に差し出した。

思わず、手を取ったが、細く、枝のようにしなびれ、皮膚も潤いをなくしていた。

実の父のあまりの状態の悪さにジルの目から思わず涙が流れた。

その姿を、横合いからエリアンヌが何も言わず見つめていた。

「ユリアにも大きくなった姿を見せてやりたかったあ。ジーク、後は頼んだぞ。良きに図らってくれ。」

ごほごほと咳をはじめ、表情に苦悶の色が浮かぶ。

「かしこまりました。もう、お疲れでしょう。さあジル、退出しよう。」

「はい。では、また来ます。」

後ろ髪をひかれる思いで、部屋を辞した。


「国王様の容態は、どうなのですか。」

「ああ、見ての通りかなりお悪い。今日、明日とは言わないまでも、もう長くはないだろう。ジルに会わせられてよかったよ。」

「会わせていただいたこと、感謝します。」

頭を上げると、優しく微笑むジークフリートの姿があった。

今まで、この銀の髪で、どこへ行ってもよそ者と誹られているように感じ、疎外感を味わってきたが、ここにいる、ジークもエリアンヌも銀髪で、自分が兄弟であるという証を突き付けられているように感じた。

「エルフのこともあるし、しばらく様子を見て、お前のことを公表しよう。」

「あら、じゃあジルもこちらに住むの。」

エリアンヌが顔を輝かせた。

「ヨハン殿も王城に来ていただいて、それなりの地位につけ、褒美を取らせないといけないし、アランはすでにこちらにいることだし、二人で王城に移るといい。」

「アランも一緒にいいのでしょうか。」

「アランは、信用のおける私の護衛として、これからも勤めてもらう予定だし、ひとまず王城でそれなりの住まいを用意させよう。」

「ありがとうございます。」

「ジル、安全のためとはいえ、今まで会いにも行かず、すまなかった。だが、エリアンヌとともに生まれてきた君のことは忘れたことはなかったよ。ヨハン殿に抱かれて連れていかれる君を見送った日は、ほんとにつらかった。よく今まで無事で健やかに育ってくれたね。」

同じ銀の髪が光を弾いてきらめき、トパーズの瞳が優しく細められ、慈愛の表情を浮かべた。

もとより、ジークフリートのことは尊敬していたのだが、実の兄だと思うとどういう態度を取っていいのかわからなかった。

「いえ、殿下が会いにいらしたら、俺も暗殺の対象になったかもしれませんので、当然のことだと理解しています。」

「兄とは、呼んでくれないのかい。」

「・・・・・恐れ多くて。」

「恐れ多いものか。さあ、兄と呼んでおくれ。」

「あ・・・兄上。」

兄と呼ぶと、ジークフリートはまるで、そこに日の光が当たって輝くような、満面の笑みを見せてくれた。

しかし、呼んではみたが、居たたまれない気持ちになった。

「うれしいよ。今までできなかった兄らしいことをさせてくれ。」

「私も、双子の弟ができて、うれしいわ。偶然とはいえ、私の身代わりに雇うなんてことをしてごめんなさいね。」

エリアンヌも会話に加わってきた。

「俺は、弟、なんですか。」

「えっ、どう見ても私が姉でしょう。」

「・・・・そういうことにしておきますかね。」

「なに、それって私を妹だと思ってたってこと。」

「・・・・。」

エリアンヌは、頬を膨らませて胸を張って、ジルの前に立ちふさがった。

「まあまあ、同時に生まれたんだから、どっちでもいいじゃないか。」

シリアスになっていた雰囲気が霧散し、ジークフリートは声を立てて笑いながら二人の間に立って、肩を抱いた。



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