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銀の髪の兄妹   作者: 銀狐
24/27

銀の髪の少年は命拾いする

疲れを引きずったたまま夜を明かし、戦端が開かれて3日目の朝を迎えた。

きっと、次の攻撃で体勢をしっかり整えて、雌雄を決する覚悟でやってくるに違いない。

「次の攻撃は、防ぎきれないかもしれない。」

腕と足に包帯を巻いたアランの表情に焦りが見える。

「援軍はまだ来ないのかなあ。」

防壁の上で東の敵軍をにらみながら、アルが剣を杖代わりにしながら、足を引きずった。

さしもの3人の表情も暗い。

「西から軍勢が接近。・・・軍勢が接近。」

物見の味方の兵が大声で叫んだ。

ジルたち3人は顔を見合わせて物見に急ぐ。

螺旋状の階段を体をぶつけながら駆け上がった。

遠目に軍勢が進んでくるのが見える。

アルは、望遠鏡を覗く。

「大群だ。」

軍勢がその全貌を表そうとしていた。

「あ・・・あれは・・・。」

「なに、兄さん。何が見えるの。」

「・・・フックス宰相の私兵の旗だ。」

アランから望遠鏡を奪い取ったジルが見たものは、軍勢の上に翻る赤地に黄色の鷹のマークの入った旗だった。

「あの鷹の旗は、フックス宰相の旗なの。」

ジルは、半ば絶望してアランに問いただした。

このまま、アルカイド軍とフックス宰相率いる軍隊に挟撃されてはひとたまりもない。

アルカイド軍からは鬨の声が上がり、軍勢が砦へと押し寄せてきた。

呆然と防壁の上で軍勢を見つめる三人の後ろに立つ人影があった。

「よく頑張ったな。」

ハッとして振り向くと、そこにはありえない人物が立っていた。

「殿下。」

アランが驚きのあまり大声で叫ぶ。

なんと、ジークフリート王子殿下が立っていた。

「ジル、君は宝石のついた短剣を持っているだろ。」

どうやら、城に滞在中に護身のために持っていた短剣を王子に見られていたようだった。

「はい、ここに。」

腰から抜き放った短剣をジークフリートに渡す。

すると、ジークフリートはその剣の赤い宝石をジルに向けなにやら唱えだした。

宝石は、次第に赤い光に包まれ、その光はジルの眉間に向かい、弾けた。

「ジル、君の魔法はこれで解除されたはずだ。さあ、出力最大で炎魔法を放つよ。反撃だ。」

マントを後ろになびかせ、不敵な笑みを見せつつアルカイド軍を指さした。

体に廻る魔力が今までの比ではなく、強力なことに驚きつつ、ジルは魔法を放つ。

ごうっと唸りを上げてジルの手から業火が噴き出し、同時にジークフリートが風魔法を放つと業火にうねりが加わりさらに勢いを増して、敵軍へと襲いかかった。

敵軍の魔法士も水魔法を放つが、全く太刀打ちできずに霧散してしまい、勢いを止めることができなかった。

炎は、敵軍全体を覆い嘗め尽くし、たった一度で、もはや生存者はいないのではないかというほどの被害をもたらした。

そこに、フックス宰相軍と思われた軍勢が押し寄せ、アルカイド軍残党を殲滅にかかった。

ジルの魔法の威力に呆然となったが、さらにこの状況に驚く。

「なぜ、宰相軍がアルカイド軍と戦っているのですか。」

アランは開いた口がふさがらない様子。

「城に残った私が、わが身の安全を確保するだけの働きしかしないとでも思ったか。見くびってもらっちゃ困るな。フックスなど、夜陰に乗じて捕縛し、軍権はすでに私が手にある。」

ふっと鼻で笑うジークフリートに今までの心配が全くの杞憂であったと有能さに脱帽した。

「は、ははは・・・・。」

ジルも何が何だかわからずに、力なく笑う。

この王子を敵に回したことこそがアルカイド軍の敗因なのだ。

砦の中は、アルカイド軍を打ち破ったことに歓喜してそれぞれの兵士たちが雄たけびを上げ、仲間同士で勝利をたたえ合っている。

「お、にーいーさーまーー。」

カールを伴ったエリアンヌが転げるように駆けつけ、髪を隠していた兜を脱ぎ、銀髪をひらめかせ、ジークフリートに取りすがり、おいおい泣き始めた。

「エリアンヌ、無事だったか。」

「もう・・・もう、無事だったかでは、ございません。・・・どれほど、どれほど、お兄様のことを案じたことか。・・・私、気が狂いそうでしたわ。」

「ああ、済まなかった。私もこうして怪我一つなく無事だよ。さあ、元気な顔を見せておくれ。」

えぐえぐと泣きはらした顔を仰向けさせられ、エリアンヌとジークフリードは見つめ合って、微笑み合った。

「ジークフリート殿下、ヴィルヘルム・ドラガ、こちらは息子のグスタフでございます。此度はご助勢感謝いたします。」

ドラガ伯爵親子もジークフリートの前にやってきて、膝を折った。

「ドラガ伯爵殿、エリアンヌを守っていただき、感謝する。面倒を掛けた。」

「殿下のお知恵で、1万5000もの軍勢を魔物と火の罠によってかなり削れましたから、だいぶ助かりました。あれがなければ、ここまで、持ったかどうか。」

「いや、あれほどの軍勢を前に、エリアンヌを差し出す選択をせず、よく戦ってくださった。この恩には必ず報いましょう。」

ジークフリートも膝を折り、腰を落としてドラガ伯爵と目線を合わせ、伯爵の手をとった。

ヴィルヘルムは、この知恵が回るだけでなく、高潔な王子に味方した自分の幸運に打ち震えた。


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