銀の髪の少女と少年
ドラガ伯爵邸に身を寄せてから、一週間がたった。
伯爵邸では、主だった信用のおける家に密書を送り、武器を整え、糧食の準備にと忙しくしていた。
密書によると、王都ではジークフリートが亡くなったという話も捕まったという話も聞かないということであった。
それと、方々でエリアンヌの行方を必死に探している様子が伝わってきた。
ジークフリートが捕まって監禁されているという線も捨てきれない。
だか、亡くなったという発表がないのなら、生きている可能性が高いと判断できた。
その知らせに安堵の息をつきながら、エリアンヌは庭で花を眺めていた。
遠目に池が見えるが、そこに人影がある。
あれは、ジルではないだろうか・・・エリアンヌは近づいてみることにした。
「えーっと、体の中の魔力を廻らせて・・・こうだ。」
ジルは、池に向かって、手を前に突き出し魔力を放出する。
しかし、以前ジークフリートに手伝ってもらって、放出できた炎とは似ても似つかない、しょぼい炎しか出なかった。
「おかしいなあ。・・・どこがダメなんだろう。」
「ちょっと、あなた。魔法が使えるの。」
急に後ろから話しかけられて、びくっと体が震えた。
「殿下。以前ジークフリート殿下に魔法を教えていただいたんですが、自分でやろうとすると、うまくできなくて。」
「まあ、お兄さまがあなたに魔法を・・・。」
他人をなかなか信用しない兄が珍しいことだ。まあ、妹とそっくりなこの男の子だからなのかも・・・。
「もう一度、やって見せて。」
エリアンヌは、腕を組み、仁王立ちになって胸を張って見せた。
ジルは、さっきと同じように腕を前にして構え、手から炎を出して見せた。
「手を出して。」
言われた通り、手を出して見せるとエリアンヌは、その手を取って、ジークフリートがやったときのように
魔力を流し始めた。
「ああ、そう、これこれ・・・。」
ジルは、集中して手を前に出しすと、巨大な炎を噴出させた。
「すっげー。」
「魔力の練り方が悪いよ。ほら、まずお臍のあたりに意識を集中して、そこから渦を描くように魔力を高めていくのよ。十分に高まってから、腕に向かって放出よ。」
「なるほど・・・。やってみます。」
なかなか素直な子じゃない。
魔法が使えるなんて、やっぱりお母さまがエルフなのかしら。
「王女殿下も魔法が使えるんですか。どんな魔法ですか。」
「あなた、剣は使えるの。」
「はい。・・・とはいえ、ジークフリート殿下に負けましたが。」
勢い込んで返事をしたものの、そういえばエリアンヌ王女の兄であるジークフリート王子に完敗だったと思い出した。
「あなた、お兄さまとそんなことまでしていたの・・・。そういえば、カールを助けてくれたんだったわね。じゃあ私があなたに魔法をかけてあげる。」
そういうと、エリアンヌは集中するそぶりを見せ、手をジルに向かって突き出した。
すると、ジルの体がほんのりと輝きだした。
「どう、剣を振ってみて。」
ジルは、素振りをして見せた。
「あれ、体がものすごく軽いです。」
「そうでしょう。私は、人に対して能力を上げる魔法が使えるの。他にも防御魔法も使えるわ。でも、このことは内緒よ。」
「はい。誰にも言いません・・・。アラン兄さんもだめですか。」
上目遣いにアランに告げたいと訴えてくる。
「・・・アッ、アランはいいわよ。」
「ありがとうがざいます。」
明るい笑顔でお礼を言われた。
なんだか、この子調子狂うわね。この私がこうやすやすと秘密を教えるなんて。
私に似てるし、親近感がわくのかしら。それに、アラン様の弟なんだし・・・。
「ところで、アラン様とあなたって似てないわよね。」
エリアンヌはいきなり気になっていたことを聞いてみた。
すると、今まで元気いっぱいだったジルが途端に顔を曇らせた。
「・・・は、話したくないならいいのよ、別に、ちょっと気になったものだから。」
ジルの表情を見て、あまりにも不躾なことを聞いてしまったと、話さなくていいと言った。
「いえ、俺はアラン兄さんとは血のつながった兄弟ではありません・・・。俺が小さいころ、母親がアラン兄さんの家族に俺を預けたそうです。俺は、母親がどんな人だったのか知らなくて。」
「まあ、そうだったの。ごめんなさい。辛いことを聞いたわね。」
「でも、兄さんも父さんもすごく俺をかわいがってくれますし、大丈夫です。・・・でも、ときどき俺の実の母や父は誰なんだろうって、自分の存在が不確かで不安になります。」
「そうなのね。お父さんには聞いてみたの。」
「今はまだ、話してくれません。・・・そのうちって・・・・。」
「どんな話を聞いても、アラン様が、あなたのことを大切に思ってくれているのは、はたから見ていてもわかるわ・・・。行きがかり上、こんなことに巻き込んでしまったけれど、私もあなたのことは、いい子だと思っているわ。・・・・そうね、友達になりましょう。」
「友達ですか。」
「そうよ、特別よ。」
「はい。」
エリアンヌとジルは照れ臭そうに微笑んだ。
なんだか、この子調子狂うわね。この私がこうやすやすと秘密を教えるなんて。
私に似てるし、親近感がわくのかしら。それに、アラン様の弟なんだし・・・。
その姿を物陰から伺うものがいた。
「王女を見つけた・・・。」
声を潜めてつぶやいたその男は、またどこかへと消えていった。




