銀の髪の王子と少年は襲われる
その夜、ジルとアルがベッドでうつらうつらしていると、部屋の扉が乱暴に開かれた。
「ジル、すぐに出るよ。用意して。」
慌てた様子のジークフリートとアランが寝ぼけ眼のジルとアルを叩き起こした。
「ガウンを羽織って、ショールを掛けて。剣も持っていくんだよ。」
「いったい、どうしたんですか。」
「宰相が、私を暗殺しようと、私兵を差し向けてきた。ここにいては、危険だ。一旦、王宮から脱出する。」
よく見ると、アランとジークフリートの服は、ところどころ破け、怪我をしているのか、返り血を浴びたのかと思うほどの血痕があった。
ジルとアルは飛び起きて、身支度をする。
直後、鍵がかけられた扉が叩かれる。
「王女殿下、いらっしゃいますか。扉を開けてください。」
ジークフリートとアランが頷き合って、アルに目配せする。
「どなたです。王女殿下はもうお休みです。このような時間に何事ですか。無礼ですよ。」
アルが扉の前に向かって返答する。
「申し訳ございません。賊が王宮内に侵入しております。宰相閣下のご指示により、お部屋の安全確認をさせていただきたく・・・。」
「お待ちなさい。殿下にお話ししてみます。」
なんとか時間稼ぎに成功したものの、長く持ちそうにない。
「宰相の私兵たちだ。今のうちに隠し通路に逃げるんだ。さあ、早く。」
この部屋の暖炉に向かい、暖炉の奥のレンガを外し、人ひとりがやっと通れる隙間ができた。
「さあ、殿下、お入りください。」
アランがジークフリートを促すが、ジークフリートは動かない。
「私は、残り、ここを死守する。」
ジークフリートは、絶対ひかないといった眼差しでアランを見た。
「なにをおっしゃるんですか。」
「私が奴らの手に落ちれば、追手は緩むはずだ。そのすきに、お前たちは王都を脱出し、ドラガ伯爵に助けを求めなさい。」
王子を置いて行けるわけがない、何を言っているんだとばかりにジルはジークフリートに取りすがる。
「殿下も一緒じゃなきゃ行きません。」
「ジル、会えてよかった。私は君に生きていてほしい。お願いだ。エリアンヌを頼む。」
ジークフリートはジルの頭に手を置いて、慈愛のこもった笑顔を見せた。
「アラン、分かっているな。ここで二人とも捕らわれるわけにはいかない。ジルを頼む。なに、簡単につかまったりしないさ。案外、私一人のほうが逃げられるかもしれないぞ。」
おどけた感じで、肩を竦めてみせ、ヘラっと笑った王子に、体の横の握りこぶしを震わせて、アランは唇をかみ締めた。
「わかりました。どうかご無事で。」
「アラン兄さん・・・。」
ジルは、なぜそんなことを言うんだとばかり、ジークフリートにしがみ付いたまま、アランをにらみつけたが、アランの手刀がジルの首筋に落ちて、ジルの意識は刈り取られた。




