バイオロジスト・ティーチャー
僕にそっくりな若者は、僕の前で立ち止まると、握手をしようって感じで右手を差し出した。
僕が握手をするのをためらっていると、沢田先生が叫んだ。
沢田先生「お前、なにを戸惑ってるんだ!!さっさと握手をしろ!!そうすることで、この世界が救われるんだ!!」
僕「・・・・。」
中高年の男1「お前とソイツは同一人物だ。この負の世界で、お前は正の人間。お前とソイツが接触すれば大爆発が起こり、あの船群を一掃できる!!」
沢田先生は、中高年の男1に向かって怒鳴った。
沢田先生「バカ野郎!!余計な事を言うな!!」
そして、僕の方を見て言った。
沢田先生「さっさと握手をしろ。さもないと、これでお前を殺す。お前の代わりぐらい、捜せば幾らでもいるんだ。」
沢田先生は機関銃を僕に向けて、さっきとは反対に静かな口調で言った。命が3000とかある世界の住人だから、例え1しか命がない人間に対しても、その命を奪うことなんて、なんのためらいもなくできるだろう。
僕は、僕にそっくりな若者に右手を差し出し、握手をする素振りをした。
場面が変わって気がつくと、僕は学校の屋上にいた。
屋上には、何人かの生徒と教師がいて、その中に沢田先生と森の姿があった。誰もがグランドの方を見ていたので、僕も見てみると、巨大な黒いチャボのような鳥が、3人の男子生徒達の腹を嘴でつついて穴を開け、内蔵を取り出して食べていた。
3人の男子生徒達は、いつも僕を屋上に呼び出していじめる、いじめっ子3人組で、大きな悲鳴をあげながら、巨大な鳥たちに食べられていた。不良っぽい生徒の1人が、森に話しかけた。
不良の生徒「総長、アイツらですか。下級生からカツアゲをしていたというのは。」
総長・森「そうだ。だから俺がボコって、沢田先生に鳥の餌にしてもらった。」
この世界の森は、前髪を赤く染めていて総長だった。
沢田先生「餌といってもただの餌じゃありませんよ。さあ、
まもなくですよ。」
沢田先生がそう言うと、突然2匹の鳥達がピーーッと高い鳴き声をあげ、前のめりに倒れこんだ。
総長・森「沢田先生、これは一体、なぜ?」
沢田先生「君達がこの生徒達をボコボコにして気絶しているところに、私がこの香水をかけたんです。」
そう言うと、沢田先生は白衣の内ポケットから緑色の小瓶を取り出して見せた。
沢田先生「この香水をかけられた者は、毒性の体になってしまうんです。そして、その毒性の体を食べてしまった巨大鳥達は、毒がまわって死んでしまったというわけです。」
総長・森「おお!!凄い!!銃弾やミサイルをくらっても死ななかった巨大鳥達を、こうも簡単に倒すなんて!!さすが生物学者だ!!」
どうやら、この世界の沢田先生は生物学者のようだ。
それにしても、森と沢田先生のコラボの意味が分からない。
しかし、今度はグランドに穴が空き、その穴から何十匹もの巨大なミミズや蟻、ムカデ、ゴキブリが出て来た。そして、生徒達と巨大鳥達の死骸に群がり食べ始めた。
ボリボリボリボリボリボリボリボリ!!
巨大なミミズ達は、生徒達の穴が開いた腹の中へ入り始めた。
チュルチュルチュルチュルチュルチュルチュルチュル!!
屋上のあちこちで、その光景を見た生徒や教師達の嗚咽が聞こえてきた。もちろん、僕も嗚咽が止まらない。
オウエッオウエッオウエッオウエッ
毒性を帯びた死骸を食べても虫やミミズ達は1匹も死なず、元気に死骸を貪り食べていた。骨の髄まで勢いよくボリボリチュルチュルと。
その光景を見た沢田先生は、ポツリと一言呟いた。
沢田先生「まだまだ課題がありますね。」
そして、僕の顔を見て指差した。
沢田先生「あなたから正の陽子の反応があります。森君、次は彼を餌にするので、早速ボコって下さい。」
総長・森「了解、先生。コイツは弱そうだから、俺一人で十分だ。」
森は、両手の関節をボキボキと鳴らして、僕に近づいて来た。