ワイルド・ワールド
沢田先生との放課後から、土日休みを挟んで月曜日の朝、僕は学校へ行くのを嫌がる体をひきずって登校した。
家から700mほど歩いて横断歩道に着いたとき、天気が良かった青空は薄暗く曇り、少し粉塵が降り始めた。
灰色の雲に覆われた空を見上げると、巨大な全長50Kmほどのタイタニックを思わせるような船が、一隻浮かんでいた。
その巨大な船から、黒い小型のエンジンが着いたリュックを背負い、同じく黒のウインドブレーカーのような服とフルフェイスのヘルメットを被った人々が、何百人と降りていた。
船から降りて来た人々は機関銃を持っており、着地すると同時に乱射し始めた。
大勢の人々の悲鳴があちこちであがり、殺されている感じだった。
僕は、わけがわからずその場に立ちすくんでいると、迷彩服を着て機関銃を持った沢田先生が、横断歩道の向こう側から叫んでいた。
沢田先生「伏せろ!!」
僕はとっさにうつむせになって、地面に伏せた。
ダダダダダ!!
沢田先生は機関銃を乱射して、僕の背後にいたと思われる船から降りて来た2人を撃ち殺した。地面に伏せている僕を見て、沢田先生は腕時計のような物を見ながら言った。
沢田先生「この反応は!!お前はこの世界の人間じゃないな!!命が一つしかないタイプの人間だ。ごく稀に現れるんだ、お前みたいなタイプの人間が。今回は、お前がいるから楽勝だ。」
沢田先生は、腕時計ような物を僕の方に向けて、空間に現れる画面を見て言った。
沢田先生「あの船の中だな、お前も一緒に来てもらうぞ。」
そう言うと、さっき殺した2人のうちの1人のリュックと服、ヘルメットを剥ぎ取った。
沢田先生「お前もそいつのヘルメットと服を剥ぎ取って着ろ!!」
僕「服?ズボンもですか?」
沢田先生「つべこべ言うな!!早く着ろ!!」
白のブリーフ姿で、フラフラしながら空から降りて着た人の黒ズボンを履きながら、沢田先生が叫んだ。
僕が服を着替え終わると、沢田先生は僕の背後に回り、僕の両脇を持った。
そして、あの灰色の空に浮かぶ巨大な船を目指して上昇した。
上昇しながら僕は聞いた。
僕「沢田先生ですか?」
沢田先生「そうだ。」
僕「ほんとに、あの物理学の沢田先生ですか?」
沢田先生「物理学?俺は兵士を育成する教官だ。毎月、月末になると、わけの分からない連中が攻めて来やがる。先月、魚類の化物が現れて退治したと思ったら、今月はクラゲと人間のコラボだ。見ろ!!あの巨大なクラゲを!!あいつの陸での倒し方は、今のところ分からない!!」
沢田先生が見ている方を見ると、20匹ぐらいの巨大な高さ100mほどあるピンクのクラゲが、立って街を歩いていた。
ピンクのクラゲ達は、触手で何人もの人間達を巻きつけて口の中に放り込み、モグモグと食べて人間達の着ている服を吐き捨てながら歩き回っていた。
僕「命が一つしかないタイプって何ですか?沢田先生は幾つも命があるんですか?」
沢田先生「ああ。この世界の人間は、少なくとも3000は命がある。あのクラゲに食べられた連中も、20分もすればまた、元居た場所で生き返る。生き返った瞬間、また化物に食われて100ぐらい命を落とす奴もいるがな。お前みたいに平和な所で育った奴らは、命が一つしかない。ごく稀に現れるんだ、お前みたいな超レアな人間が。そしてお前らみたいなタイプの人間は、超強力な武器になる。」
僕「僕が強力な武器に?僕はめちゃくちゃ力もないし、弱いですよ。」
沢田「なあに、今に分かる。」
沢田先生と担がれた僕は、船から降りて来る人達が出入りする、船の底に開いた穴へ入って行った。