もう一つの放課後
今日の放課後は、物理学の沢田先生に呼び出されたため、いじめっ子達の呼び出しから逃れることができた。
沢田先生は30代後半で、見た目は年齢より若く見られ、身長も僕と同じぐらいの小柄な男の先生だ。
僕は生物学を専攻しているので、物理学は全く分からない。
なのに沢田先生は、いつも何か新しい法則的な公式を見つけると僕を呼び出して、説明をし始めるのだ。
教室に入ると、黒板いっぱいにわけの分からない公式を書いた沢田先生が、満足げに教壇に立っていた。
沢田先生「おお、来たか。早速この公式を見てくれ。パラレルワールドを自由に行き来している住人が来るとしたら、そろそろでしょ!!」
僕は見ても分からない公式を見つめた。
沢田先生は、だいたい月に2回ぐらい何故か僕を呼び出して、パラレルワールドの公式の説明をするのだ。
そして、僕はいつもこう答える。
僕「あの先生、毎回言ってるんですが僕は生物学なので、物理学は全く分かりません。」
沢田先生「おお、そうだったそうだった。君は生物学を専攻しているんだったね、まあ、いいや。とにかく聞いてくれ。さらにこの公式を解き続けると・・・・。」
沢田先生は、ポカンとしている僕を無視して1人、黙々と黒板にわけの分からない数式を書き始めた。そして書き終わると、スッキリとした表情で僕を見て言った。
沢田先生「今日から3日~300年の間に、この世界にやって来ることでしょ!!」
沢田先生は、黒板の右下辺りの3~109500と書かれた部分に、チョークで2重線をひいた。
僕「3日から300年ですか・・・・範囲広いですね。来るとしたら何をしに来るんですか?」
沢田先生「う~ん、単なる旅行か観察か。あるいは、資源の強奪とか。」
僕「それって、戦争になったりするんじゃないですか?」
沢田先生「相手によっては、そうなることも。」
僕「そうならないためにも、沢田先生の公式が違っていてほしいです。」
沢田先生「戦争は今でも起こるかもしれないし、どうせ戦争するなら、パラレルワールドの住人と戦った方が面白そうじゃない?」
僕「いやあ、戦争はしたくないです。」
沢田先生「君の言うとおりだね、確かに戦争はダメだね。いつも私の講義を聞いてくれてありがとう。じゃあ、私はこれで。」
僕「いえいえ。でも、なんで先生は生物学の僕に、こんな話をするんですか?」
沢田先生「そうだねえ・・・・君は話しやすいからかな、じゃあ。」
僕「そうなんですか?」
僕は、教室から意気揚々と出て行く沢田先生の背中を見ながら思った。
僕『沢田先生は、自分の公式を誰かに聞いてもらいたいだけ。別に僕じゃなくても誰でもいいんだ。だいたい、僕の名前を知らないだろ、僕は生物学なんだから。』
こうして、僕のもう一つの放課後が終わるのであった。