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魔界な人々

ハズレた下級魔族の俺と残念魔令嬢な彼女

お久しぶりで申し訳ありませんm(_ _)m

 こっちも美味しいですわよ。

 麗しき金の瞳の美女が甘い……文字通り甘い誘惑をスプーンに盛った。


 俺はちょっとハズレた下級人型魔族なだけなのに……どうしてこーなった?


 高級感あふれる居間のソファーで美女にあ~んされながら俺は遠い目をした。


 俺はリゼル•キッアルというちょっと基準からハズレた下級人型魔族だ。


 普通の下級人型魔族と言うもんは男でも人族の平均かやや小柄くらいなのだが、俺はやや高すぎるらしい。


 それなのに、姉さんとそっくりの女顔……どんだけ婿入りとかが流れたことか……両親とか楽させてやりたいのに……


 だから姉さんみたいに人界でアルバイトをすることにして数年……俺はとんでもない事を聞いちまった。


 とある二毛作が盛んなニホンの地方都市は粉食文化が盛んで、なぜかパン屋がいっぱいあるんだよな。


 そのなかでも『こむぎの熱愛』という天然酵母パンとか無添加パンとか作ってる超うまいパン屋で俺は()()()()()をしていた。


 本当は正社員になりたいんだけどな、()()()()()()には就労許可が降りないんで、観光ビザで働く不正就労外国人……いや魔族として日々、がんばって働いて仕送りしてたんだ。


 「いらっしゃいませ〜」

 今日も美味そうな匂いが店内にただよってる。

 木製でガラスがはめ込まれた扉が開いて女性客が二人入ってきた。


 トレーを手に持ちトングで何にするとか言いながらパンを選んでる。


 そのあんバタバンズうまいよな、うんライ麦パンも天然酵母使っててうまいんだ、ああ、魅惑の焼きカレーパン……ラタトゥイユパン、卵サンドにパン屋のピザ……生クリームホイップパンはモカがおすすめで……みんな食べたい……


 「リゼ君、よだれ」

 「すみません」

 パンを陳列しに来た大将に注意された。


 大将はごついおじさんで内海(ウツミ) (サトシ)さんという腕のいいパン職人でナゼか嫁が来ないらしい。


 こんなにいい腕前の職人なのに、俺が女で人族なら嫁になりたいくらい、筋肉質で良い男なのになぜなんだぁ〜


 とか騒いでたら、大将のお母さんに、リゼ君みたいにカッコ良ければすぐにお嫁さん来るんだけどねと遠い目をされた。


 え? 俺、良い男じゃないですよ、顔立ちは女顔な優男でナゼか身長は178センチもあるし……ああ、168センチくらいなら婿の貰い手があるのに……それかいっそ、大将みたいに筋肉質ならそれはそれで需要があるのにと思いながらレジに来たお客様に愛想笑いを浮かべた。


 「ありがとうございました」

 こむぎの熱愛と書かれた緑色のビニール袋を渡して愛想笑いを継続しつつ頭を下げると客にちょっと見られてる。


 「お釣り違いましたか? 」

 レジが計算した通りに渡したつもりだがと思いながら客に微笑んだ。

 「大丈夫です」

 客は少し顔を赤くして袋を持って帰っていった。


 何だったんだ一体? 時々いるんだよな、魔族というか、外国人が珍しいんか?


 リゼ君もにぶにぶさんがとりついてるのかぁと大将のお母さんにため息つかれたけど……にぶにぶさんってなんかの従魔か?


 何はともあれ充実した毎日を送ってたんだ。


 今日の売れ残りは何だろう、米粉アンパンとか残るといいなぁとか思いながら……


 そんなある日、両親に手紙を送ろうと魔族連絡会、通称魔連のニホン本部の扉を潜った。


 魔連は案外人の住んでる町中にあって普通の人族には気づかれないように阻害の術がかかってるらしい。


 魔界に帰る転移門があるので出入界や手紙は魔連に行くことになる。


 支部もニホン各地、世界各地にあるらしいけどね。


 「あ、久しぶりだな、魔界に帰るんだろ? 」

 警備員のトロルのエイダンさんが太い腕を上げた。

 「え? 嫌だなぁ、手紙ですよ」

 「そうなのか? あれ? 」

 聞いてねぇのか? とエイダンさんが首を傾げてるのを尻目に窓口に向かった。


 窓口で書き物をしていた犬型獣人魔族のダイアスさんが顔を上げた。

 お姉さんのケイアさんはいないらしい。

 「魔界に帰界ですよね」

 「え? どうしてみんな、俺が帰ると思ってるんですか? 」

 カバンを探りながらダイアスさんをみた。


 もふもふな犬耳が少し動いた。


 「……ミゼルさんとは? 」

 「しばらくあってませんよ」

 彼氏ができたらしいから、遠慮してるしな。


 そのうち見極めて姉さんにふさわしいのか確かめないと……まあ、あの人は抜けてるし、魔界でフラフラ働いてるくらいの中位魔族がちょうど……


 「……となりました」

 ダイアスさんが言ってたことを聞き損ねた。

 「すみません、もう一度お願いします」

 「……ミゼル•キッアルさんは魔王陛下がお召しになりました」

 ダイアスさんが硬い顔で告げた。


 か、可愛い犬型魔族の硬い顔……レアかもしれない……ってお召しに……魔王陛下が? えーと……


 うわぁぁぁぁ、姉さんが残虐にメッされてるのしか頭に浮かばない〜。


 あののほほん下級人型魔族、一体何やった……


 諦め……られんから……


 「魔界に帰界します」

 「そのほうがいいです」

 た、大将に姉が急病なんでしばらく休みますと電話しないと〜

 携帯電話(もちろんガラケー)を出して電話すると涙もろい大将がしっかり看病してこいと電話口でも泣いてるのがわかった。


 なんか、良心が……いや、姉さんが滅されてたらもっと休まないとだし……


 申請をだして、帰界のために魔力が渦巻く転移門に飛び込んだ。


 

 帰った魔界は初夏らしく青紫色の空をしていた。

 ごく近くに立派な魔王城が見える。


 「えーと、なんだって俺は魔王城に入れると思ったんだろうなぁ」

 困り果てて門番の中級魔族に不審がられないぎりぎりの位置でため息をついた。


 魔王都にもちろん転移門は集中している。

 普段はそこから乗り合いの地駆竜(アースランナー)車に乗ってテコテコ黒地方まで数日の道のりを帰るので魔王都観光なんてしない。


 よって魔王都につても知りあいもいない……。

 

 「うーん、姉さん生きてる? 生きてないか? 」

 大体、下級人型魔族なんて下層も下層で……仕事はまあ一応できるけど、魔王都だとウフフな水々しい仕事くらいしかないって婿にしてくれそうだった中級魔族のラミア族のお嬢様が言ってたけど……



 クソッ嫌なこと思い出した。

 顔は可愛いけどもっと小さい方がいいわって隣のユリオンに取られたんだ。


 ケットシーの姫さんも妖精族のお姉さんもみんな俺がでかすぎるのが……



 「今日はベリータルトにしましたわ~」

 よくイルギスが一人で出しましたわね〜と後ろから抱きつかれた。


 ひ、ひえ滅される〜

 圧倒的な魔力と気配に震えと冷汗が止まらない。


 「……あら? 成長期かしら? 」

 「でかくて悪かったな」

 思わず反論してヤバすぎると冷汗がダラダラしだした。


 ミゼル姉さんを助ける前に俺がこのおんぶお化け? な高位魔属に滅される……自制心はどこに消えた〜


 くるっと回って俺を見上げたのはオレンジ色髪とかオレンジ色がかった肌のかごを腕にかけたワンピース姿の美女だった。


 印象的な金色の瞳が俺を見てる。


 「ミゼル様? じゃないですの? 」

 「み、ミゼルは俺……いえ私の姉でごさいます」

 震えが止まんねぇと思いながら下級人型魔族集落の学び舎で覚えた礼儀を思い出しながら愛想笑いを浮かべた。


 これができれば生きていける、これがみんなの生きる道だぁ〜と教えてくれた熱血教師は元気かな?


 俺は先に逝きます……


 「まぁー、ミゼル様の弟君ですのね? お姉様に会いに来ましたの? 一緒に参りましょう」

 高位魔族は俺に抱きついたまま腕を上げた。


 オレンジ色の光に包まれて目をつぶったつぎの瞬間、気がつくと重厚な石造りの床の上に立っていた。


 そして周囲から魔力の圧迫に息が止まりそうで怖くて頭が上げられない。


 「アールセイル何用だ」

 「イルギス様なんて用はありませんわ、ミゼル様〜、ご機嫌いかがですか〜」

 不機嫌そうな美声にオレンジ色の美女の能天気そうな声が答えた、その声のあとに小さくリゼルと驚いたような聞き覚えのある声がしてやっと顔を上げた。


 「アールセイル、そのものは……ミゼルの双子か? 」

 「可愛いでしょう? ミゼル様の弟君ですわ」

 膝に姉さん(ミゼル)を捕獲して優雅に腰掛ける金髪碧眼の美青年が俺を面白そうに見てる。


 圧倒的な魔力と圧力に失神しそうになった。

 つーか姉さん〜なんで明らかに魔王様らしき人に大事そうに抱きかかえられてる〜。


 リゼル……とものすごく滅しそうな顔色で、でも明らかに高級感あふれる濃紺のレースのドレスを着た姉さんが俺をみた。


 どう見ても姉さんだ、中途半端な焦げ茶な髪に俺と同じ緑色の瞳の平々凡々の下級人型魔族の……なんで魔王様らしき魔族に抱きしめられてるんだぁ〜


 「弟か……それなら、私の義弟だな、めん」

 「私がエクセレントなおもてなしいたしますわ」

 イルギスばかり可愛い方を独占させませんのとオレンジ色の美女、アールセイル様が俺の周囲に魔力盾(シールド)をめぐらせた。


 お前には縁もゆかりもないだろう、俺が面倒見るのが筋だ。

 うるさいですわね、私が見つけたのですわ。


 イルギス様は姉さんを抱えながら立ち上がりアールセイル様に電撃を浴びせかけシールドで防御されてた。


 え? え? え~?


 アールセイル様がオレンジ色の魔力をイルギス様に叩きつけ避けられる。


 美しい壁が爆発して穴が空き 向こうに中庭が見えた。


 は、反逆? 巻き込まれて惨殺?


 魔王陛下の右後ろに立つ、真紅の軍服の青白い鱗の竜人の護衛官が槍を握り直したのが見えた。


 でも、止めには入らないところをみると、いつものことなんかもと思っているうちに決着がついたらしい。


 「ミゼル様と弟君は私がエクセレントゴージャスなおもてなしをいたしますわ」

 アールセイル様が姉さんの手を握りさあ、参りましょうと手を上げた。


 その向こうでま、まてと片手を伸ばし、もう片手で腹を押さえる推定魔王(イルギス)様を見えた。


 次の瞬間にさっきとまた違った高級そうなお屋敷に転移していた。



 居間でくつろいでた、びっくりした顔を一瞬したオレンジ色の高位魔貴族の中年が俺たちを見たとたん嫌な笑いを浮かべた。

 「アールセイル? よくやった! さあ」

 「ええ、早速エレガントでストロングなおもてなしですわ〜」

 お父様、私、頑張りますわ〜と叫んで使用人に東屋にお茶の準備をするように命じた。


 「普通のもてなしか? 」

 「普通ではありませんわ」

 迫力満点のオレンジ魔中年貴族に平然と返すアールセイル様。


 やっぱり惨殺か? なんか恐ろしいことがあるのか?

 手をつながれた姉さんを見るとガタガタ震えてるのが見えた。


 「エレガントでエクセレントでデラックスな最高のケーキでおもてなし致しますの〜」

 キラキラした金の目でアールセイル様が宣言した。


 オレンジ魔中年貴族は立ち上がり、居間の掃き出し窓を開けた。


 「なんで、なんで、なんで、なんでわかってくれないんだぁ〜」

 美しい庭園にオレンジ魔貴族の絶叫が響いた。


 だから、丁寧なおもてなししますわと的を外れたことをアールセイル様が答えて美しい庭園に移動して美味しいケーキの山をごちそうになった。


 この日得たことはこのお嬢様がアールセイル•(トウ)•オランジャスという橙本家の高位魔貴族でやっぱり魔王様だった、イルギス様を勝るとも劣らない魔力の持ち主と言うこととミゼル姉さんがその魔王様の嫁……魔王妃になったということだった。


 姉さん、強く生きろ。

 なんで、ニホンにいて魔王様を引っ掛けてるんだぁ〜。

 このうかつ姉〜。


 そしてこの日から俺の不幸? と困惑が始まったんだよな。


 とりあえず、姉さんが魔王様の嫁になりましたショックを乗り越えて人界に無事帰還した俺は今日もこむぎの熱愛でアルバイトをしていた。


 香ばしいパンの香りにうっとりしてると扉が開いた。


 「いらっしゃいま……せ」

 入ってきた、美しい客に俺は、固まった。


 ヘーゼルの瞳にオレンジがかった金髪……人族に見えるように色を変えたらしいって、なんでこんなところに魔貴族令嬢(アールセイル)様がいるんだぁ〜。


 ね、姉さん、姉さんはどこだ……いねぇ〜。


 「リゼルさん、ごきげんよう、美味しそうなパンばかりですわね」

 エレガントな人界のブランドものらしいツーピースを着た魔貴族令嬢が小さなバッグを手に微笑んだ。


 よく見るとおつきの俺より確実に強い魔族の女性が鋭い眼差しで俺を見た……あれは戦闘職だ、恐ろしい。


 「あ、ありがとうございます」

 少しだけビビりながら愛想笑いを浮かべた。

 厨房から覗きに来た大将が、好奇心いっぱいで見てる。


 あとで酒盛り(尋問)ですね、はい。


 「このデニッシュの見事なこと、美味しそうですわ」

 「姫」

 大丈夫ですわとウキウキしながらアールセイル様はこのお盆にトングでおいていくのですねと微笑みながらシナモンロールとか果汁いりメロンパンとかいちごデニッシュとかアンパンとか、あんバタバンズとか甘めのパンを次々に乗せていった。


 甘党なんだろうなぁとこの間のおもてなし? でのケーキ攻めを思い出した、ミゼル姉さんは、迎えに来た魔王様に抱き上げられて回収され、オレンジ色の魔貴族は、なんでわかってくれないんだぁと屋敷から叫んではいはい、お父様、リゼル様もしっかりおもてなし致しますわ~とアールセイル様がかえしていた。


 俺も惨殺とかされず、無事に解放されもう二度と会わないと思ってたんだけどね。


 気がつくと山盛りのトレーを2つも持った護衛さんと一つ持ったアールセイル様がレジに来てた。


 そ、そんなに食うんですか?

 大将が補充方々覗いて目を見開いてるのが横目で見えた。


 「こちらをお願い致しますわ」

 「は、はいありがとうございます」

 あわててトングで一個、一個ビニール袋に個装していく、多すぎて間に合わないので大将に手伝ってくれた。


 こむぎの熱愛と書かれた袋2つに分けて会計してもらい渡すとアールセイル様が満面の笑みを浮かべた。


 「みんな美味しそうで迷ってしましたわ、リゼル様、この間は楽しかったですわ、ぜひまた来てくださいませね」

 「あ、ありがとうございました」

 美しい笑みと護衛の鋭い眼差しに動揺しながらお辞儀をした。


 高位魔貴族の屋敷なんてホイホイいけるか〜。


 もちろんその夜は絡み酒の大将に根掘り葉掘り聞かれてごまかすのが大変だった。


 そして、しばらく平穏だったのに……


 今日も平穏無事だったと売れ残りのパンをもらってほくほくと田んぼの脇の細い田舎道を中古自転車をこいだ。


 俺の借りてるのは風呂なし、トイレ付の古いおばあちゃんが大家さんのマンションで超安いんだけど、おすそ分けとか、結構あるし、このへんは銭湯がない代わりに銭湯みたいに手軽に入れる温泉施設がいっぱいあるんで、仕事帰りに寄って帰るの最高なんだ。


 「リゼルさん来てしまいましたわ」

 古いマンションの管理人件大家さんの居間にニコニコと麗しい魔貴族令嬢が座卓に座ってお茶をもらっていて、俺は大事な食料様を落としそうになった。


 「恋人がいたんだねぇ、リッちゃん」

 「まあ、嬉しいですわ」

 人族に変身中のアールセイル様が両頬に手をあてた。


 座卓に美しいチーズケーキが……わいろかい?

 大体どうやって俺の安マンション見つけたんだぁー


 「美味しいケーキを沢山持ってきましたの、参りましょう」

 腕を組まれて部屋に連行された。


 俺の万年床の前の折りたたみテーブルにショートケーキが、チョコレートケーキが、シュークリームが並んでる。


 安い百均の皿に美しいマカロンの山が……


 「召し上がれ」

 「い、いただきます」

 アールセイル様にニッコリ微笑まれて俺は掃除を決意した。

 「お、美味しいです」

 美味しいけど……甘いもんは夕飯になりませーん。

 「リゼルさん、あーん」

 百均のスプーンにチーズケーキが盛られ美しい指で目の前に運ばれた。

 「あ、あの……やめ……」

 口をあけて受け入れたチーズケーキの美味しさにうっとりと目を細めるとものすごく嬉しそうに微笑まれてドキッとした。

 

 なんて美しい魔貴族令嬢なんだろう……

 

 きっと姉さんにそっくりだから気になってるだけなんだろうなと思いながら安いティーパックの緑茶をすすった


 こんどエレガントでグレードなケーキをお持ちしますわ〜リッちゃんさんとはしゃぐ魔貴族令嬢にもう来ないでくれ〜と内心思ったけど微笑んどいた。


 うん、余分なことは、言わないのが生きる道だよな。


 それがいけなかったのか、以来、アールセイル様……セイルさんが年がら年中くるようになった。


 大家のばあちゃんも公認で若いっていいねとポンポン背中を叩かれ、同じマンションの学生にはやっぱりイケメンハーフがいいのか〜と騒がれた。


 イケメンハーフって俺は純粋な下級人型魔族で平々凡々でちょっとでかすぎるのがたまの傷なだけだぜ。


 「リッちゃんさん、あーん」

 今日も元気にアンコが好きと言ったら焼いてきたどら焼きをあーんしながらさり気なく膝に乗ってくる魔貴族令嬢を支えながら、これでいいんだろうかと悩み日々だ。


 え? リア充爆発しろって何のことですか? お隣りのコンビニ店員さん? 爆殺される予定はないが?


 

 今日も仕事が終わり空の月をみあげた、温泉上がりでほこほことマンションについたので自転車から降りると薄暗い街灯に浮かび上がった見覚えあるオレンジ色の魔力たっぷりの男性が腕組みして立っており、俺は大事な食料様を落とした。


 「……あ、あの……」

 「リゼル•キッアルだったな」

 どうしてわかってくれないんだぁと叫んでたオレンジ色の中年魔貴族様が一歩近づいてきて思わず後ずさりする。


 惨殺か? 残虐に滅されるのか?


 「なるほど」

 中年魔貴族が腕を伸ばした。

 こ、ここで終わりか? 婿入りして親孝行したかった。


 思わず目をつぶった。


 「リッちゃんさん、来ましたわ~」

 能天気な声が聞こえた。

 「アールセイル」

 オレンジ色魔貴族が後ろに視線をそらした。


 「お父様? どうしてここに? 」

 「もちろん……婿殿をさらいにだが? 」

 オレンジ色中年魔貴族が俺の肩に手を置いた。


 とたん周りにオレンジ色の光が渦巻いて俺と魔貴族にまとわりついて……ふわっと……意識が……



 気がつくといつか連れて行かれたセイルさんの屋敷の居間で俺よりでかいオレンジ色の中年魔貴族に支えられててその整った顔に寒気を感じた。


 「うむ……魔王陛下や我が娘が夢中になる美貌だな」

 「お、俺……わ、私は平々凡々……」

 滅される? 惨殺される? 食われる?


 「婿殿、私はアールセイルを魔王妃にして次代魔王を我が橙家(トウケ)から出したいと思っていた」

 「そ、そうですか……」

 迫力の美中年の顔が迫って思わずのぞける。


 「だが……婿殿の姉上がその地位についたのでその野望もついえた、だから責任を取ってもらおうと思う」

 徐々に近づく美しい中年魔貴族の顔に寒気を感じながら俺はせ、責任ですかと蚊の鳴くような声で答えた。


 「責任だ」

 後ろのソファーに足がつきそうになったところで空間が歪んだ。


 「お父様〜御無体はいけませんわ〜」

 アールセイルさんが金の瞳を爛々と輝かせオレンジ色の魔力を放った。


 「ちょっと待て、お前、婿殿と私を滅する気か〜」

 「大事なリッちゃんさんには最高のシールドを張ってますわ」

 オレンジ色の中年魔貴族が俺を抱き込んで腕を前に出して魔力を弾いた。


 オレンジ色の魔力はそのまま壁を破壊して大穴を開けながらどっかへ飛んでった。

 

 「うむ、極上の下級人型魔族……とはこういうことか」

 妙に納得したように腕におとなしく収まる魔貴族が俺を見た。


 先生が高位魔族から生き抜くためには逆らうな、おとなしく諦めて身を任せろーと教えてくれたし……俺がもっとちっちゃければ収まりもいいのにすみません、それでも、アールセイルさんよりちょっとはおっきいんですと思いながら頭一つ大きい魔貴族中年の腕の中からセイルに振り向いた。


 「私だってリッちゃんさんを抱き込んだことがありませんのにずるいですわ〜」

 「だから、私はお前のことを婿殿と……」

 「家を破壊するおつもりか! 」

 壁の穴から腹を押さえた若いオレンジ色の魔貴公子が飛び込んできた。


 「あら、ヤへツーサいましたの? 」

 「おお、いいところに、アールセイルの婿だ」

 なんかのほほんと親子は魔貴公子に顔を向けた

 「婿ってなんですか? 姉上、もう少し穏やかにもらえないんですか〜」

 「おじいちゃま、すごいのです〜爆発したの」

 貴公子そっくりな青緑の髪に青紫の翅を持った肌がオレンジがかっていて眼はオレンジ色の美幼女が瓦礫を飛び越えて飛んできた。


 ば、爆発〜ひい。


 「お父様、いい加減に(わたくし)のリッちゃんさんを離していただけませんの」

 「大っきいミゼルちゃんなの」

 「この大っきいミゼルちゃん、リッチャン殿? がヘルリアナの義伯父(オジ)さんだ」

 中年魔貴族が俺をアールセイルさんの方に押しやった。


 アールセイルさんがすかさず俺に抱きついたには嬉しいんだが……婿入り確定ですか?


 「姉上の婿が下級人型魔族……胃が……胃が……」

 魔貴公子が腹を押さえた。

 「ヤヘツーサ、考えてみろ、アールセイルなんぞ、政略結婚に使ったら橙家(トウケ)の評判がどんなに落ちるか……現に縁談はすべてパーだ、割れ鍋に閉じフタ……フタが美しすぎるのはご愛嬌だが、一応別邸も用意してある」

 中年魔貴族がポンと魔貴公子の肩を叩いた。


 つまり、胃痛の原因が……

 そうだ、頭痛の原因が……

 親子らしい二人がなんかキラキラした目で手を取り合った。。


 魔貴公子の足にヘルも手をつなぐの〜と幼女が絡みついてる。


 「リッチャン君、姉をよろしく頼む」

 「末永く幸せにな」

 「おめでとうなの〜」

 ギラギラした目の魔貴公子と中年魔貴族とついでに無邪気な幼女に祝福された。


 「え……えーと」

 思わず抱きつく高位魔令嬢……残念すぎる……でも優しいぶっ飛びな魔令嬢を見た。


 幸せにする自信なんて一つもない。


 でも、でも……


 「お、俺と」

 「リッちゃんさんは私が幸せに致しますわ、だから結婚してくださいませ」

 美しすぎる残念魔令嬢の男前なプロポーズに俺は敗北感を感じた。


 「よろしくお願いします」

 うん、下級人型魔族の生きる道は素直に受け入れることだよな。


 「ウェディングケーキは私が作りますわ〜」

 ぴったりと抱きついたアールセイルさんを抱きしめ返してきっとこの魔令嬢と結ばれるために俺は振られ続けたんだと思うことにして幸せを噛み締めた。


 これで、私の胃痛が少しは良くなるー

 叫ばずに済むぞ〜

 わーい、伯母ちゃまおめでとうなの〜


 となんか外野の声がうるさかったけど、今は幸せにどっぷり浸かるぞ〜


 その後、魔貴公子が幼馴染みの下級人型魔族で薬師のエゼルを側室にしてることが判明して、本当に黒地方って美形の宝庫なのねと、魔貴公子の正室様に妙な感心されたり

 こむぎの熱愛の大将に、みんな俺を裏切るんだぁ〜酒おごれ〜と絡まれたり、アールセイルの護衛の中級竜人に、大将のことを聞かれたり

 アールセイル以外の人たちがしばらく()()()()()が名前だと思ってたり

 なぜか魔王陛下に魔王城に呼ばれて、またアールセイルとの攻防を見たりしたけど……機会があったら話そうと思いなす。


 そして、こむぎの熱愛をやめて婿入りした俺は橙本家の別邸で暮らしている。


 今は専業主夫だけど、なんか水々しくない方で仕事が少しでもできるといいと思いながらトマト煮込みの火を止めた。


 使用人はもちろんいるので作らせてもらってるのは一品だけだ。


 プロの料理人が作るほうがうまいけど、愛情だけはたっぷりだぜ。


 別邸って言っても橙本家の広大な庭とつながっててよく当主な義理の父様の声が響いてるのが聞こえる。


 なんでわかってくれないんだぁ〜

 義理の父様の声が聞こえたと言うことは、愛する妻が仕事先の魔王城から帰ってきたってことだなと思いながら美しい庭の見える大きな掃き出し窓から玄関に向かった。


 「ただいまですわ」

 「おかえりなさい」

 飛び込んできたアールセイルを抱きしめる。


 いい匂いと微笑むアールセイルの肩をだいて部屋に入った。


 俺がふられつづけたんはこの幸せをつかむためだったんだ。

 へっぽこな姉さん、魔王陛下につかまってくれてありがとう〜

 と思いながら幸せを噛みしめる毎日だ。


 俺みたいなハズレ魔族を愛してくれてありがとう、幸せになろうと綺麗な奥さんの額にキスをした。

読んでいただきありがとうございますヽ(=´▽`=)ノ

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