大人しく終わらないそうですよ?
冒険者ギルドを出た後は夕食時だったので、出店で串焼きやコッペパンのような物に焼いた肉と野菜、ソースをかけたサンドを食べながら穂草の宿へ向かう。
大通りを真っ直ぐ行くだけでの簡単な道だ、すぐに小麦を模った看板が見えてきた。迷わずその店へ入る。
「いらっしゃい、穂草の宿へ…宿泊かい?」
それなりの恰幅の…三角頭巾を巻いたおばさんがカウンター越しに聞いてきた。
「はい、とりあえず3日ほどお願いしたいのですが…」
「部屋は雑魚寝式の大部屋と個室とあるがどっちが良いんだい?」
「個室で…荷物に気を使いたくは無いので」
「ふーん…そうかい」
カウンターの後ろにある棚から鍵を取り出しながらぶっきらぼうに答える。
「部屋は3階の奥の部屋だよ、3日で大銅貨6枚…今日は片付けちまったから用意は出来ないが朝と晩に1食ずつ別サービスで付くが、これで1日銅貨3枚、湯桶は1回銅貨1枚だ」
「3日分の大銅貨6枚と…明日と明後日分の飯と湯桶代の銅貨8枚だ、確認してくれ」
来るまでの間に屋台で大銅貨を1枚使ったので小銭はある。
「…問題ないね、湯桶は今日からかい?」
「いや、朝食前と夕食後に持ってきてくれると助かる」
そういって銅貨を1枚足す。これくらいのチップなら良いだろう。朝食前と夕食後だねと機嫌良さそうに再確認した後で部屋に向かう。
部屋の中は簡素なベットが1つとベットテーブルが1つ、オイルランプがその上にあった。ふかふかである。
「1泊素泊まりとはいえ大銅貨2枚の宿なだけはあるなぁ…ベットが気持ち良い…」
この辺の宿街で見ると気持ち高めである。料理の方も期待しても良いかもしれない。
今後の行動はあの貴族の出方次第で変わる、大人しくこちらの要求を飲むのであれば冬支度をして王都方面へ向かう。出し渋りや交渉を持ちかけてくるのであれば一応対応はしよう。その上で気に入らなければ最初に言った通り、武具屋にでもあの素材を持ち込んで防寒具なり防具なりを仕立ててもらおう。
ベットに大の字にうつ伏せで倒れ、そのふかふかに包まれながら今日は休む事にした。
「……それが出来たら苦労はしねぇよなぁ」
溜息混じりに猿轡を噛ませ、後ろ手に縛り上げた黒い外遁にフード、バンダナで顔を隠していた男が数人床で転がっていた。
窓の外には月が2つ、天辺を過ぎた辺りを漂っていた。時間にして深夜2時…といった所か?
外で動く気配は殆ど無く、夜行性生物の声がたまに聞こえる。…森で使い道がありそうだなぁと思ってツェルの蔦をある程度採取しててよかった。ちなみにこの蔦はこの辺の生活でも紐代わりに使われる程度には普及しているようだ。
「さて…どうしたものか…」
窓枠に座って外を眺める、小さな赤い月と象牙色の月が2つ宙にある以外普通の夜空だ。町を一瞥すると数軒程灯りのある家と動く灯りがあった。動く方は見張りの衛兵だろうな…
宿の近くを見ると丁度曲がり角から灯りを持った衛兵が現れた。丁度良いな、こいつらを引き取ってもらおう。
窓の近くまで来たのでそのまま声をかける、賊の人数を伝えると1人では連行は出来ないそうで一旦応援を呼んでくるとの事。その間に連中の装備を一式剥ぎ取ってひとまとめにしておく。…この辺のダガーとか皮鎧って貰えるんだろうか?
そんなことをしている間に部屋にノックの音がする。先ほどの衛兵が応援をつれてきたそうなので入れて欲しいとの事だ。鍵を開けて中へ入れる。事情説明をした後簡単な書状が渡される。明日以降、ギルドか駐屯地の方へ顔を出していただければ連中の報酬が貰えるそうだ。犯罪奴隷として処理されるそうでその際の利益がいくらか貰えるそうだ。
連中が装備してた物に関しては自由にして良いとの事。自分で使っても良し、質屋に流しても良し。駐屯地では武具に関して困ってはいない為、今は不要だそうだ。ふむ、ならば4人の装備全部貰う事にしよう。
衛兵に全員を引き渡した後、剥ぎ取った装備を検分する事にした。夜は遅いが眼が冴えてしまった。
まずダガーが8本、人数の倍の本数があった。鉄製のいたって普通のナイフである。2本貰って使い、残りは売ってしまおう。皮鎧の方は篭手、具足、プレートと一式揃って4人分である。結構な重量である…
頑丈そうな皮…恐らくなめして加工した魔獣の皮だろう、それを表面に張り、その内側に薄く延ばした粗鉄で補強したシンプルな物だ。腹部から胸部を守るシンプルなもので、皮と鉄板を張る為の鋲以外に飾り気などは無い。まぁ普通の剣戟や魔獣を相手にする分には即死する事は無いだろう。
アイテムポーチの方には4人で銀貨20枚もあった。恐らく雇われ賊か何かだろう思い当たる件は1つある。他にはコルクの様な物で蓋をした短い試験管の様なガラス瓶が数本あった。じっと調べてみると赤っぽいのがHPポーション、紫のがポイズンポーション、透明なのがアンチポーションとの事。…何気なく使ってたけどこの鑑定っぽいスキル便利だなぁ。
HPが2本、ポイズンが1本、アンチが1本、それが4人分である。使わないポーチ2つをナイフである程度のサイズに切り揃えてポーションそれぞれに巻き付ける。一応保険だ。それを作ったベルトケースに8本ずつ並べる、1つはHPポーション8本、もう1つはポイズン4本とアンチ4本、見た目で分かるが一応真ん中に仕切り布を挟んでサイドテーブルに二つとも置く。
一通り検分が終わり、外を見るがまだ日が昇る様子は無い。このままもう一眠りするか。
程よく疲れた身体を再びベットに預けて朝が来るのを待った。
少々荷物が増えたので一覧
オウルの装備・所持品
銀貨40枚・大銅貨3枚
ダガーナイフ:個人防衛用の刃渡りの短い刃物、魔法使いや弓使い等のサイドウエポン(装備2本/余り6本)
皮の篭手・具足・鎧;一般的に売られている安価な鎧、初心者セットとも言われている(装備1セット/余り3セット)
ツェル蔦のベルト:森で作った簡素なベルト
ツェル蔦のケース:小枝で枠を作りツェル蔦で編んだ簡素なケース(2つ)、HPポーション8本/ポイズンポーション4本・アンチポーション4本
ツェル蔦の籠:ケース同様の簡素な背負い籠、そこそこの量が入る(20L程度)
ヘルウルフの皮:個体としてはかなりの大型らしく、加工を通せば防寒具やカーペットなど比較的幅広い用途がある
ヘルウルフの肉:解体する際に大量に出来た物、魔獣特有の効果で1週間程度なら問題なく食べれる程度の保存性を持っている(4日目経過)
ヘルウルフの魔核:解体の際に心臓付近で見つけたこぶし大の石、鑑定術で魔核という事は分かっていたが使い道が無いので籠の底に眠ってる
ツェル蔦:使い道がありそうと思って森から出る道中それとなく集めておいた、総量として20mほど、籠の底に眠っている
アイテムポーチ:4つあった内2つを布切れにして、残りの2つに銀貨と銅貨を分けて入れている
本人が自然と使っているスキルなどについては後ほど…