お手並み拝見です?
……頼みたい事は2つ、この世界に散らばった私の欠片と%&#$#を集めてもらう事だ。
それをする事での見返りは?
……正直に言ってしまえば何もないね?私は創造神ではあるけれど万能神ではないからね、精々君が望む技能を授ける程度かな?
ここで断ったら?
……元いた世界の方向へ飛ばす事はしてあげる、但しさっき言ったとおり私は万能ではないからね、もしかしたら違う世界へ又飛ばされるかもしれないよ?
受けるか断るか…迷うまでもないか、手間は掛かっても確実に帰れる方法があるならそっちを選ぶよな。
……賢明な判断に感謝を、差し当たって君に渡せる技能についてだけど
「…オウル様?大丈夫でしょうか?」
テントに響く声にふと意識が戻る。干草のベットから身体を起こす。
入り口には白いヘアキャップに黒で統一されたロングスカートのワンピース、その手には木で出来たお盆になにやら暖かそうな物が乗っているのが見える。
「あぁすまない、干草の具合を見ようと横になったらそのまま眠っていたようだ」
「左様でございますか…大隊長殿より、夕餉の準備が出来たのでお持ちするよう言いつけられたのでお持ちしたのですが…こちらのテーブルに置いて大丈夫でしょうか?」
彼女は部屋の中を軽く一瞥し、置けそうなテーブルに夕飯を載せて大丈夫か確認をしてきた。問題ない事を伝えると持ってきた物をテーブルに並べる。
「もし、ほかに必要な物がございましたら、こちらの近くに兵か我々のような作業員が居ると思いますので大隊長の名前と共に申し付けください」
そういうとスカートのすそを軽く持ち上げてお辞儀をしてテントを後にした。
テーブルの上に乗っている物を確認する。麦で出来た粥とこぶし程度の塊、恐らく干し肉のブロックなのだろう。粥を一口食べてみるが薄く塩で味が付いただけのものだ、干し肉も味をつけたりした様子もなく必要なものを食べる為に作られた物…という感じがする。…この食生活は続けていこうとは思えないな。早めに改善できるように頑張ろう。
流し込むように…とは言わないが粥を素早く食べながら干し肉を半分消化し、残った分を口慰めの様に食べながら何の肉なのだろうと考えているとテントの入り口が開いた。
そちらに目をやるとそこにはメルトさんが居た。
「夕食の方は…食べ終わったようだな、丁度良い貴殿の荷物についてだが」
肩掛けで背負ってきた荷物を自分の前に差し出す。それを受け取ると予想以上に軽かった事に少し疑問に思った。
「貴殿には悪いと思ったが、ここの錬金術ギルドがヘルウルフのほぼ無傷の頭部を見てすぐに寄越せと騒がしくてな…私ではどうしようもなかった為に買い取ってもらった」
そういうとテーブルの上に麻袋を1つ置く。ジャリッという音とそれなりの重さが感じられる音がテーブルから響く。
「それと同様に冒険者ギルドがな、手足の部分がない事を目を瞑ったとしても、この大型のヘルウルフの毛皮は中々に貴重だという事、またジョウ殿が本来達成する筈だった依頼を成り行きとはいえ代理で履行したのでその事についても契約書を渡してきたので一度目を通して欲しい」
先ほどの麻袋の隣に丸められた羊皮紙が置かれる。
「そしてジョウ殿の装備についてだが、ギルドの方で管理する事になったので武具類は冒険者ギルドの方へ届けてくれ…私から伝える事は以上だが、何かあるか?」
「……いえ、大丈夫です、荷物が減ったのは少し驚きましたが、学者研究者といった方々は一度暴走すると止まらないですからね」
そういうと彼女は苦笑いをする。
「そちらの方はしっかりと支払いはされているので問題ないですよ、冒険者ギルドには明日にでも行って色々とやってくるので今日の所は何もないですね」
「そうか…分かった、もし何かあれば付近の誰かに尋ねるといい…とはいえ既に日は落ちたし、歓楽街はこの町にはないので後は寝るくらいだがな…では失礼する」
そういって彼女は去っていく。テーブルの上に置かれた麻袋を開けてテーブルに並べてみる。
…銀貨が20枚と大銅貨が10枚入っていた。あの頭1つでこれだけの稼ぎになるとは思っても居なかった。取り出した硬貨を袋に戻して手紙を開く。内容は薬草袋を回収して助かったという事と元々そのクエストで支払う予定の銅貨を自分に支払うという話、そして件の冒険者の装備を預かるという事。
どちらも予想は出来る範囲の話だった。どちらにしても明日、朝から冒険者ギルドへ向かい、手紙の件を片付ける事にしよう。
予定をまとめ、手紙を籠の中にしまい干草のベットへ倒れる。どうなるか分からないが、とりあえず明日だ。
翌朝、日が昇るかどうか時間に目が覚める。寝たまま身体を左右に軽く捻った後、起き上がる。身体を伸ばして深呼吸を繰り返す。身体が落ち着いた所で背負い籠を肩で担いで外に出る。
「おや、オウル殿お早いですね」
「夕餉の前にも軽く寝てしまいましたし、その後も特に何もせずに寝てしまったので目が冴えてしまいましてね…えーっと…」
「おっと失礼しました、私はガルドと申します…しかしなるほど、そうでしたか…今からですとギルドも市場もまだ開いておりませんよ?」
「あらら…そうですか…どうしましょうかね…」
うーむと悩んでいると、もしよろしければと声をかけられる。太陽が大地から昇りきるまでの時間まで、模擬戦に付き合ってもらっても良いかという話だった。
「お誘いは嬉しいのですが、私はしがない一般人ですよ?型も知らなければルールも知りませんよ?」
「訓練で使うのは木剣なので怪我をしても精々骨折程度ですし、それ位なら低級ポーションで十分治療可能ですので心配は無用ですよ、それに経緯はどうあれ…ヘルウルフを単機で討伐できるような人物が一般人というにはどうにも信じられないのですよ」
彼の双眸がすっと細くなる。うーむ、昨日からどんどんと外堀を埋められてる気がする。まぁ、多少の怪我なら受けてもすぐに治療できるし、市場諸々はまだ開いていない訳だ。
「…分かりました、満足できる相手になるかは分かりませんが模擬戦の方付き合いましょう」
「おぉ!ありがとうございます、それではこちらの方にどうぞ」
彼に案内されるままに駐屯地の中心辺りに来る。掛け声と共に鉄剣を素振りしている部隊、2人1組で防御訓練をしている一団、その中心に円形に空いた広場があった。
「部隊長、この者は?」
練習をしていた団体の中の一人が駆け寄ってきた人物に案内されながら広場の一角へ案内される。
「昨日大隊長殿が連れてきた冒険者だ、今から彼と模擬戦を行うので準備の方を頼む」
なるほどという顔をして案内を始める。
「お客人、荷物に関してはこちらへ置いていただければ騎士団の名の下の保管させていただきます、武器防具に関してはこちらに並んでいるものをご自身の好みで選んでいただいて構いません」
案内された場所には皮鎧から重装甲鎧まで揃っていた。武器に関してもダガーからバスターソードを模した木剣が並んでいる。一瞥して武器棚にあった一本を選ぶ。
「…おや、それを選ぶとは珍しいですね…それは海を越えた先にある島国で伝わる剣だそうですよ」
説明を聞きながらそれの様子を確認する。木剣なので軽いのは仕方ないがすらりと細く長い剣…刀と呼んだ方が正しい見た目をしていた。個人的にはお土産屋にある木刀を思い出す。
「…うん?お土産屋の木刀…ってなんの事だ?」
ぼそりと呟く。それは良しとして防具の方を見るが、どれを見ても欲しい…というか着けたいと思える物が無かったので、そのまま一角を出る。
「オウル殿!防具はよろしいのですか!?」
驚いたようで呼び止められた。
「あぁ、大丈夫ですよ、これといって着けたいって物がなかったので…それに多少怪我をしても問題ないんですよね?」
それはそうですが…とどうも納得できない顔をしている。模擬戦とはいえ防具をつけるのは無駄な怪我を避けるため当然な話である。もっとも、自分は怪我を前提で動いている訳だが。
「……相手が降参又は気絶、武器を手放した時点で試合終了、もし相手を死傷させた場合は犯罪者奴隷として引き取られる…お互いに相違はありませんか?」
向かい合った部隊長と頷き合う。木刀を左側にツェルで作ったベルトに通して左足を半歩引いて上半身をかがめる。右手を柄に添えて抜きやすいように水平に近い角度まで倒す。
対するガルドはバスターソード型の木剣を正面に構える。
しんっとした空気が広場を覆う。どちらも動かない。否、動いた時点で試合が決まる。誰もがそう感じていた。
その静寂を破ったのはガルドだった、大きく踏み込み袈裟切りを仕掛ける。それを見て1歩前に出る。その太刀筋から目を離さず、自身の右肩に刀身の根元が当たる様にする。西洋剣はへし切る事が前提だ、その為剣先の方が威力が高い。しかし柄に近くなればなるほど当人の腕力がダメージに直結する。それが分かっていた為にあえて剣戟を浅い所で受ける。
その結果どうなるか、密着に近い状態…つまり、俺の射程内だ。
右手で真っ直ぐ木刀を抜き出し、柄の底で胸部を居合いの勢いでぶっ叩く。耳元でカハッと空気が漏れる音が聞こえる。そのまま半歩ほど相手が下がったと同時に左手も木刀の柄を握り切り上げる。
カンッと小気味良い音が響き、数秒後にどさっという重そうな音がガルドの後ろから響く。
「しょ、勝負あり!」
一瞬何が起きたのか理解できていなかった審判の兵士が、弾き飛ばされた木剣の落ちる音を聞いて我を取り戻す。
「…いやはや、お見事ですな」
叩きつけられた胸を押さえるガルド。
「いえいえ、貴方の剣筋も中々でした、戦慣れしていない人ならばその一手で既にこの世からおさらばしているでしょう」
「かわす事も出来たというのにあえて受けた人間の言う台詞かね?」
ニヤリと彼は笑う。それにただただ苦笑いを返すしかなかった。