死と隣り合わせです?
……一応君は#&%$からの$%&#だから
ぼんやりとした意識の中、誰かがそう言う。
……もちろん&#$%だからといってほいほいと$%&#を作る訳にはいかない
聞きたい、肝心な所だけ飛んでいる。
……という訳でこちらで見繕った&$%と#$$%#を割り振るよ。
彼は一体何のことを言っているのだろうか?
……その代わり君の&%#$%と$#%はこの世界にばら撒いてしまうね
それを聞くと身体の力が抜ける様に眠くなる。
……君はきっと%$#を無くしても#$&%$#$%#だから問題ないとは思うけど、そこは試練だと思って乗り越えてくれ
意識を手放す直前に彼はそういう。
……それでは君の旅先に幸あれ
身体がどこかに落ちる感覚にはっと目を覚ます。
辺りを見回すがどこも変わった所はない…精々寝る前に取り出したファイアーストーンが横に転がっている程度だ。
恐らくこれを掲げている間に意識を手放してしまったのだろう。
辺りはまだ暗く森の東側がうっすらと明るくなっているのが分かる。丁度良い、籠からクォルの実を2つ取り出し渋い顔をしながら食べきる。
…どうにか上手く食べる方法は無いだろうか?
いや、今後も食べるかどうか分からない食い物を深く考える事は無い、今はとりあえず動けるだけの栄養と小腹を満たすので十分だ。
未だに燻っている昨夜の焚き火を踏み荒らして小さな種火を消してゆく。
火石を服のポケットへ突っ込み、ツェルの蔦で作った簡易籠2つを同じ蔦で作ったベルトモドキに通して腰に巻きつける。
不恰好ではあるが、無いよりはマシだ。武器になるものも無いがかといって此処に居て生きていくには物が足りなすぎる。
「とりあえずは…暫定東の方角の森をまっすぐ抜けた結果次第だな…」
昨日の周囲探索の結果、はるか遠方に建物の見える西かどこかに出れる可能性のある東か悩んだ結果は東側となった。
理由としては東側がハズレだった場合、そのまま反転してこの広場へ戻ってきてそのまま西を目指せば良いと考えた結果だ。
木の実の最後のひとかけらを食べきり歩き出す。
森の中は予想以上に鬱蒼としていた。周囲の景色は殆ど代わり映えせず、動物の鳴き声すら聞こえてこない。用意も対策もせずに歩き回ればすぐに迷う事は目に見えていた。
ある程度歩いた所で周囲を見回す、すぐ傍に手ごろな目の高さに若い細い枝が伸びていた。
ポケットに入れていた火石を取り出し軽く切り込みを入れてもぎ取らない程度枝を折る。来た道を振り返り目の届く範囲に見える木にも同じような折った枝がある。来た道を見失わない為の簡単な対策だ。
もちろんどこまで効果があるか分からないが…。
そうやって暫く歩いた後、不穏な気配を感じる。なんとも言えない…まるで何者かに睨まれているような感じだ。
警戒すると同時に”それ”はすぐに現れた。何が飛び出したか全く分からず身体が動かなかった…筈だった。
気がついたら飛び込んできた相手に向かって斜め前へと前転して回避していたからだ。奇襲に失敗したと分かると否や”それ”睨みつけたまま前屈みになる。
パッと見、狼に見えるそれは、狼と全く違う特徴がいくつかある。まず大きさが人よりふた周りほど大きい。そしてその額には鬼のような2本の角が生えていた。
ヘルウルフ…というらしい。
まずい相手に目を付けられてしまった。どうやら相手はこちらを餌だと見定めたようだ。大してこちらは武器も無ければ餌になるような代物も持ち合わせてない。
ただ、初手の奇襲を避けたお陰か警戒して距離を詰めては来ていない。…ならば次の手を打たれる前に行動だ。
視線を一瞬だけ動かし、先のどの折れた枝を確認する。2箇所の枝を確認した後、一瞬だけ地面すれすれまで身体を落としこみ、ばねの様に加速し走り出す。
動くのを見てヘルウルフも駆け出す。とはいえ人と4足獣、さほど時間もかけずにすぐ背後に追いつかれる。それと同時にヘルウルフは飛び掛る。そこを狙った様に左手に握った砂利を顔面へと投げつける。
顔面、特に目に向けた砂利による目潰し攻撃にギャウンッ!という悲鳴と共に空中で体勢を崩す。
そのままぶつからないように走る方向を調整して走る。しかし所詮一時凌ぎ、身震いをしたと思った瞬間怒気混ざりの吼え声と共に再び追いかけてくる。
「っち、やっぱり一時凌ぎにしかならねぇか」
手に残っているのは右手にある小石が数個、さっきの様な小手先の誤魔化しにしか使えない。
再び後ろに追いつかれるが、先ほどのように襲っては来ない。学習能力はあるようで奇襲を警戒して着かず離れずのギリギリの距離を保っている。
どうしたものかと考えた瞬間、気配が一気に近づいてくる。石を投げる余裕は無い。スライディングをして態勢を無理やり地面へ滑り込ませる。
それと同時に頭上を先ほどの狼が通り過ぎる。かかとを立てて木の根に引っ掛け勢いを殺さずそのまま立ち上がる。そして迷わず左側へと逃げる。
そろそろ体力がきつい、恐らくそれを察してアイツも攻転したのだろう。どうしたものかと考えた瞬間、再び地を蹴る気配。
「…っ!しまっ…!」
思考に気がとられ、疲弊した身体が一瞬遅れる。だが、その一瞬は奴にとって格好の餌だった。
かわせない、そう考えた瞬間、右足から何かを踏んて滑るように転ぶ。
自分でも何が起きたか分からなかった、それも相手も同様だった。しかし原因はすぐに分かった。
冒険者の死体。
こいつが食い散かしたのか、別の奴がやったのか知らないがその死体が流した血溜まりを踏んだせいで踏ん張りが聞かずに転んだようだ。お陰で服が血まみれでなんとも言えない状態になってしまったが贅沢は言えない。
それと同時に運が巡ってきたのも事実だ、必殺の一撃を食らわずに済んだ事と目の前に鉄剣が1本落ちていた。それを迷わず拾う。
アイアンショートソード
手に持った瞬間情報が流れ込む。それと同時に気になる事もあった。
「なんですかねぇ…23/100って数字は…」
すごく不穏な数字を片隅に追いやり、ショートソードを目線の高さに構える。
足場は既に血溜まりの無い場所へ移動し、相手を睨みつけたまま正面を取れるようにすり足で合わせる。
数分…実際には数秒だが…睨みあいヘルウルフが持ち前の瞬発力で駆け出し一気に飛び掛る。
「……っせい!」
噛み付こうとした口内に向けて剣を振る。それを当然見越したかのようにヘルウルフは剣に噛み付き、そのまま砕いた。
その瞬間、左から右へ振り上げた勢いを殺さず身体をひねる。折れた剣を軽く持ち直してヘルウルフの喉へと折れた剣の残りを突き立てる。
耳元でギャンッ!っという悲鳴のような鳴き声を聞きながら、力任せに外側へと折れた剣を薙ぐ。
制動を失った巨体の狼にそのままのしかかられ、絶え間なく首から吹き零れる血をこれでもかと浴びてしまう。少しの間苦しそうにもがいてはいたが、出血勢いが収まると同じ位に物言わぬ死体になった。
「…予想通りだったとはいえ、何とかなったなぁ」
一矢報いようとのしかかった状態からあれこれしようとしていたのは分かっていたが、太い血管が切れて一気に血が抜けてしまった為、身体が言う事を聞かずにじたばたともがくだけであった。
「……とりあえず血抜きだけでも最低限しておくか」
幸い周辺にはツェルが自生しており吊るす為の準備はそれほど掛からないだろう。
それなりの太さを持つ蔦を数本まとめてヘルウルフの後ろ足に絡めて、枝の太い木に蔦を渡してある程度の高さまでヘルウルフを吊るす。半分ほどしか切れてない首をしっかりと落とし、これまた別の木に吊るしておく。…流石にあたまの部位まで食おうとは思わないがさっきのウィンドウを見るとどうやらお金になるらしい。であるならば頭を含めて持ち帰ろうという魂胆だ。
そうやって血抜きをしている間に、先ほどの冒険者の死体の前まで戻る。こちらでも通用するか分からないが数秒の黙祷。それから状態の確認をする。
…中々に酷い損傷具合だった。顔の部分は恐怖に張り付いた後があるが7割方、おおよそ柔らかい部分が食い尽くされていた。同様に酷いのが腹部と椀部、次いで脚部である。
そちらの方は殆ど残っておらず、わずかに残った筋繊維が骨を繋いでいたという具合である。
胴体の部分はスチールプレートのお陰か殆ど残ってはいた。とはいえ内臓部は腹部が食い破られた時点でお察しではあるが。そのプレートと胴体の間に首掛け式のカードがあった。
どうやら冒険者ギルドのカードのようで、彼の身分や階級などがざっくりと記されていた。
目下の彼はジョウというらしい、ランクはF-、腰ベルトに残っていたポーチにはギルド依頼書が入っており、内容は薬草採取及び低級魔獣の討伐、依頼書の薬草とやらは近くに落ちていたバックパックにそれなりに詰まっていた。
「アレに奥まで追い立てられたのか、背伸びをして深入りしてしまったのかは当人が死んじまってるから闇の中、か…まぁすまないがお前さんの道具類はギルドに着くまで少々借りるよ、一緒に連れて行けないのは申し訳ないがね」
ベルトポーチ、予備で持っていた短剣、ギルドカードとスチールプレートを遺体から外す。時期的に秋なのか判断がつかないが比較的乾いた枝木がそこそこ落ちてたので、彼の周りにまとめて火をつける。
簡単な黙祷、そして暫く無言のまま遺体を焼く、その後モツ抜き等の作業を始めるが薪を出来るだけ絶やす事無く、しっかりと彼を荼毘にふした。