とりあえず下準備です?
森とここの空間との境目をぐるりと一周して分かった事は、整った道が無いという事だった。
少なくともここ最近で人の行き来があったような後は一切無かった、代わりに見つけたのは申し訳程度に慣らした跡の残る獣道と、低木に実っていた紫色の小さなボール程度の大きさの木の実だ。どうやらクォルの実というものらしく、おいしい物ではないようだ。
というか空腹に負けて食べたが渋かった…触感としてはりんごの様な感じなのだが、とにかく渋い…。
しかし、ほかに何も無いため贅沢も言っていられない。太目の木の枝を数本と、近くに生えていた蔦…どうやらツェルというらしい…を適量集めて簡単な編み籠を作る。
先ほどの木の実が落ちない程度の物で良いので、ポーチ程度の大きさの籠を作る。底の大きさは先ほどのクォルの実を2x2ほどの広さ、高さを3個分のサイズで作り上げる。
慣れない作業だったからか、集中していたせいか気がつくと日は大分傾いていた。
方角が合ってるかどうかは分からないが、暫定的に日が沈む方を西側としてその真反対を東側と決める。沈む太陽を背にして左側が東、右側を西と仮定して今日の所は野宿だ。
暗くなる前に集めておいた枝などを自分が寝ていた石床の所へまとめる。
程よく乾いた薪代わりになりそうな物はあまり見つからなかったが、少なくとも今夜をしのぐ程度ならば大丈夫だろう。
薪のように太い枝をテントの様な形に作り、その内側にその太い枝を支えるように程よく乾燥した枝を柱代わりに立てて崩れないようにする。そして更にその内側に細かい枝を詰め込む。
細い枝を1本取り出し、ポケットに入っていた平べったく刃物のように尖った石を取り出す。
最初の時は気付かなかったが何か無いかと服のあちらこちらをまさぐった際に見つけたものだ。名前はファイアーストーン、所謂火打石のような物らしい。
その石で枝の表面をガリガリと削り、おがくずをある程度作る。ある程度出来上がったところでそのくず山を焚き火の一番下へと仕込む。
「……後はうまく火がついてくれれば良いんだが」
火石を握りなおし、くず山に向けて火花が飛ぶように地面に打ち付ける。
ザリッという手応えと同時に手に持っていた火石が削れ砕ける感触が手に伝わる、それと同時に小さな火の塊がおがくずへと飛び、そのまま煙を上げる。
それを確認すると種火が消えないようにすぐに息を吹き込む。何度か空気を送り込むとすぐに小さな火種になり、そのままおがくずを燃やして枝へと火を移す。
火が落ち着いたところで焚き火からすこし離れた所で横になる。空腹感は感じるが、流石にクォムを食べようとは思わない。
まずいとかではなく、純粋に数が無い。森に入ればある程度手に入るのだろうが、今残っているのは4つだけだ。出来れば明日の朝に2つほど食べて森を抜ける為に行動しなければならない。
今日一日周囲を探索して分かったのは、ここはそれなりに深い森だという事。
北側には山脈が長々と続いていた。南側はそちら側を探索に近づいた際に獰猛な鳴き声が響いてきた。もちろん近場ではなくかなり遠方だが、それでも恐怖を感じる程度には十分なものだった。西側には太陽が沈みきる前に、連峰の中に明らかに人工物と思われる建物が見えた。だが遠すぎる。
「消去法で考えるには東側しかない、か……」
頭の中で整理し、明日の予定を立てる。
手元にあるのは火打石代わりに使ったファイアーストーン1つと、ツェルの蔦で作った簡易籠2つ、それにクォルの実が4つ。
旅立ちには何もかもが足らないが、ここでじっとしていても始まらない。そしてなにより…
「俺は一体誰なんだ…?」
取り出した火石の横に浮かぶ半透明のウィンドウ、その中には今手にしている石の名前と簡単な説明が書かれていた。