表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

自分勝手な声

初めて投稿します!色々拙い部分もあると思いますが、どうかよろしくお願いいたします。

『――俺達は愛と平和の為に進み続ける!!』


 テレビ番組でよく流れる特撮特有の台詞。最近は複雑怪奇な展開になるようにもなったが、それでもまだまだこの手の単純明快かつ直球的な言葉は減る機会を見せない。

 愛を、平和を、夢を、理想を。忘れ去ってはならぬと伝えるように主役は変身アイテムに手を伸ばし、そのまま最強の英雄へと姿を変えた。

 場所は東京タワー。そんな場所で変身などすれば不審者として通報されるのが世の常だが、そんな不味い出来事など特撮の世界ではまったくもって発生しない。

 世界に流れる普遍的な法則も全て無視して、彼等は用意された脚本通りに悪役を倒す。

 レールに乗った電車が駅に辿り着くような当たり前の事実だ。だが、そんな当たり前は現実という壁の前では一気に困難と化す。

 

 それが解っているからこそ、特撮は消えてなくならないのだ。誰もがそうなってほしいという事実を映像にして日本中に発信し続けているのだから。

 己もそうだ。日々過ごす日常は不変的であり、非情さも理不尽さも起き続けている。

 積み重なる仕事に、煩わしい家族関係。兄弟姉妹の面倒事に巻き込まれる事もあり、一人で過ごす時間というものは思いの外少な過ぎた。

 一人暮らしが出来た事実が正しく奇跡だろう。誰も彼もが俺に頼ってくるからこそ、実家から逃げ切る事が出来たのは素直に嬉しく感じていた。

 

 砂糖三杯が入ったコーヒーを飲み、手作りの椅子に座りながら今日も今日とて個人的趣味の特撮鑑賞に精を出す。半年分の溜まった録画データから全てを見るのは時間が掛かるものの、趣味であるからこその贅沢な楽しみ方は心に潤いというものを与えてくれる。

 ある種の現実逃避と言うべきか、こうして非日常の世界を垣間見るというのは好奇心と興奮を擽るのだ。

 次はどんな展開が出るのだろうか。次はどのようなキャラが登場するのだろうか。

 そういった楽しみが積み重なり、時には帰ってこれなくなる者も居る。現実逃避も程々にしておかなければやがて犯罪行為に走る輩も出て来ることだろう。

 

 だが、その気持ち自体は否定する事は出来ない。

 男は冒険に心揺さぶられる。ロマンというものを追い求めて止まない。それらを捨てる事は死を意味し、例えどれだけ封印したとしてもふとした瞬間には表に出てしまう。

 そして、一度表に出てしまえばそれを抑えるのは非常に難しいだろう。

 何せ本能とも呼べる感情だ。捨て去っても新たに沸き起こるのだから質が悪い。――故に俺もまた、この感情に翻弄される馬鹿な大人なのだろう。

 傍目からすれば変人奇人。身内からしても今の俺の正体を知れば縁を切りたくなるに違いない。

 

「この年になってもと思うべきか……」


 或いは、まだまだこの年でもと考えるべきか。

 どちらにせよ、特撮というものは本来大人になるに連れて卒業していくのが一般的であろう。ああいうものは元来子供が楽しむ為にあるものであって、大人が楽しめるように配慮されている訳ではない。

 ここ数年の間はそうでもなくなってきたが、それでも根底に変化は無い筈だ。勧善懲悪の概念は如何にも解り易く子供達に善悪の概念を植え付ける事が出来るだろう。

 何が駄目で、何なら大丈夫なのか。そういった線引きは幼少の時点である程度確立されていなければ、成長していった時に簡単に犯罪に走ってしまう。

 

「そういう意味では、俺は人間失格だな」


 特撮映像が映ったテレビを眺め、俺は思う。

 昨今の技術力は大幅に上昇した。少なくとも俺が生まれた当時の状況から考えれば、各種技術の上昇は凄まじいものだ。

 SNSの発達。正社員という制度に縛られない生き方。AIなども当時とは比較にならない。

 動画サイトだけで食っていけるというのは確かに素晴らしいことだ。また、AI頼みで株などを運用していくやり方も決して悪くはない。

 技術の向上によって人の生活は更に自動化されていくだろう。それに伴いフリーターという属種も徐々に苦しくなるだろうが、機械で出来ない分野が残り続ける限りは安泰の筈だ。

 しかし、その技術の発展によって何の問題も起きない筈は無し。全てにおいて光と闇があるように、この便利さも時によっては凶器と化す。

 SNSが良い例だろう。簡単に情報を拡散・共有化することが出来るからこそ、悪質なデマや個人に対する攻撃などが横行するようになっている。


 昔であれば新聞でなければ広がらなかった出来事も、今ではそれを読まない層にも広く伝わっているのだ。故にどんな企業もその点は注意せねばならず、されども問題は一生解消されないだろう。

 どんな人間にも他者が不幸に陥り、その様を見て愉悦に浸る精神性は存在する。かく言う自分もその一人だ。毎日毎日愚痴を零すような日常を過ごしているからこそ、少しでも幸福な者が地獄に落ちるような様を見てしまうと嗤ってしまうのだ。

 自分だけが生き残れればそれで良い。他者などどうでも良い。そうも考えてしまう俺は最低で、だからこそ俺の性格を見抜いた人間とは距離を置いた関係を築いている。

 相手は決して交わる事のない者だ。警戒されるのは当然で、また当然俺も相手の悪意に対して警戒しなければならない。

 こんな人生を望んでいた訳ではなかったが、結果として現状はそうなってしまった。何が悪いのかと聞かれれば、それはきっとこの社会が歪んでいるからだと俺は断言しよう。


 フリーターは潰され、正社員は社畜となって酷使される。楽をしようとする者を見れば妨害し、誰も彼もが苦労し続ける悪循環を生み出し続けていた。

 嫉妬など見苦しいだけだ。他人の素晴らしい生活に一々噛み付くなど時間の無駄だ。――そう言えたなら、自分はどれだけマシな人間になれただろうとつくづく思う。

 唯一。たった唯一誇れるとするならば、それは俺が動画サイトに上げている物作り(・・・)だけだ。

 だがそれも、所詮はアマチュアの域を出ない。稼げる額も小銭程度で、どれだけ自分では良いと思っても赤字になるのであれば何時かは止めねばならないだろう。

 今はまだ余剰資金がある。ロボットに株運用を任せているが、それとはまた別に趣味貯金のような口座を作っている。

 その金が無くなるのは後一年も無いだろう。どれだけ給料の一部をそこに回したとしても、結局赤字である限りは底は見えている。

 

 つくづく、嫌な世の中だ。最近では近隣国と緊張な関係も続いている。

 何時戦争になるかも解らないこんな世の中では、やはりどうしたって最後にものを言うのは資金だ。

 いっそ全てを吹き飛ばせれば――そう、特撮のように悪を裁く人間になれれば。

 この発想は酷くエゴイズムの強いものなのだろう。けれど同時に、誰かがそれをせねばならないとも感じていたことだ。

 誰もが悪は死ねと言う。誰もが外道は消えろと言う。

 それは正しくその通りであるし、俺もまた気持ちは一緒だ。自分だけそうであれば良いという本音を変えるには、そうする輩を止めるしか他にない。

 これもまた自分勝手な理由だ。だが、他人に示すにはこれ以上無いだろう。

 丁度終わった録画を消して、視線を立ち上げっぱなしのPCに向ける。デスクトップ型のPCのモニターには設計図があり、そこには未だバラバラのパーツ群が映っていた。

 

 これで何が変わるのだろうかと、俺は思う。

 騒ぎが起こるだけで根底の部分は何も変わらないだろうと考えつつも、それでも何かを変える為には行動するしかないと決意する。

 これは犯罪行為だ。それも範囲が拡大すれば国際犯罪になるだろう、重大なものだ。

 自分はきっとろくでもない人間のリストに載ることだろう。それでもこうするのは、悲惨な者達を見て来たからだ。

 苦しんだ人生に意味など無い。欠片でも成果があればそれで良しだなんて、それではあんまりではないか。

 誰も彼もが目標の為に努力するのは必要であるが、その為の最初の一歩を妨害するのは間違っている。

 故にこれは――正義だ。


「Project S・D・S…何とも安直だな」

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ