薬売りと、初めての友達
「死んでいる……ですか……?」
私の言葉に、少し困ったような顔で笑い、私の横をするりと抜けていく。
「ボクは、なんでここにいるのかわからないけど……。このお墓がボクのものだってことは、なんとなくわかるんだ。だからボクは、すでに死んでいるんだと思う」
棒が刺さっただけの、簡素なお墓の前で、彼女が小さく呟く。
その姿が、なんだかとても寂しく思えて……。
「でも……、あなたは私とお話しできていますし、私の目には普通の人に見えますし。そのだから、死んでいるのかもしれないですけど、その……」
口をついて出た言葉は、全然まとまっていなくて。
でも、彼女が寂しそうに見えたのが、なぜか我慢できなくて。
「えーっと、その……。私からすれば……触れれないだけで、生きているのと同じ、だと思います」
恥ずかしくなってきたからか、段々声も小さくなってしまった。
けれど、彼女は私の方を向いて、ありがとう、と呟きつつ微笑む。
「んー、それじゃ、お姉さん。ボクと友達になってよ」
「え?」
ゆっくりと私の前へ歩み寄り、彼女は両手を差し出してくる。
触れられるはずもないのに、それはわかっているのに。
「ボクは名前も、ここにいる理由も、今までのことも思い出せないけれど、さっきお姉さんが言ってくれた言葉は思い出せるから。だから、ボクと友達になって、いっぱい色んなことを教えてほしいって思うんだ。……ダメかな?」
その言葉で顔をあげる。
そうして見えた彼女の顔は、自信満々に輝いていて、眩しいくらいだった。
なぜそんなにも、笑えるのでしょうか……?
「あなたは……。怖く、ないのですか? 自分が死んでいるということが」
私はとても、怖いのです……。
今だって、特に理由もなく生きてはいるのだけれど、それでも死ぬのは、怖いのです……。
「んーと……。わかんない」
「え?」
「うん、わかんないや! だって、気づいたら死んじゃってたわけだし、生きてた頃のことも思い出せないし……」
あぁ……、それは、そうですよね……。
きっと、生きていた、という実感がわかないのでしょう。
気づいた時にはこの状態で、生きていたことも曖昧なのですから。
「私で、いいのですか……?」
産み落とされた時から忌み嫌われ、愛してくれたお母様もいなくなって、ただ生きているだけの……。
「んー、よくわかんないけど、お姉さんなら優しそうだから!」
そう言って、全く無い胸を張る仕草がとても可愛らしくて。
死んでいるはずなのに、生きている私よりも、明るく、輝いて見えた。
「で、ダメかな……?」
私に見られていることが、恥ずかしくなってきたのでしょうか?
右手で頬を掻く姿に、なんだか悩んでいたのが馬鹿みたいに思えてきてしまって、思わず笑ってしまう。
「も、もう! なんだよー!」
「い、いえ、なんだかおかしくて……! ごめんなさい」
「そう思うなら、笑うのやめてよー!」
拗ねたみたいに口を尖らせて、全身で怒ってますといっているその姿も、なんだか面白くて、余計に笑いが止まらなくなる。
結局、私が落ち着いたのは、それから数分経ってからのことでした。
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「それで、お友だちになるのは良いのですが……。なんとお呼びさせていただいたら……?」
デュラハンに見つからないよう、お墓の横の廃屋に入り、2人隣り合うように椅子に座る。
もちろん、壊れかけでしたが糸で補強して、です。
「んー、思い出せないし、お姉さんが付けて」
「え!? そんな、私が……ですか……?」
「うん! ボクじゃなにもわかんないし、お姉さんならいいかなって」
そう言って彼女は何度も頷いて、楽しそうに少し浮いた足を前後に揺らす。
私より少し低めの身長の彼女には、今座っている椅子は少し大きかったみたいですね。
「女の子の名前、ですよね……」
「ん?」
「いえ、あなたは可愛らしい女の子なので、それに見合った名前を、と思いまして……」
その言葉に、彼女は首を傾げ、おもむろに服の裾をめくり上げる。
反応する暇も与えず行われたその動作に、私の視界が彼女の身体で一杯になり……。
「あれ……?」
女の子には無いはずのモノを、発見した。
「ぇ、あの……、男の子……です……?」
「わかんないけど、お姉さんが見てそうなら、そうなのかな?」
そう言って笑う顔も、仕草もどう見ても女の子にしか見えないのに、服で隠された場所には、しっかりと男の子の……。
「あ、えっと……その……」
「うん?」
思い出しそうになる頭を、左右に軽く振って紛らわす。
でも、男の子なら男の子っぽい名前がいいですよね?
「……ヒューイ、なんてどうでしょう? この場所の名前もヒュライドという、過去にいた竜から取られていますので、それにあやかって」
「ヒューイ……」
「あ、嫌だったら嫌って言ってくださいね!? その時はまた考えますので!」
いくらなんでも、安直過ぎたでしょうか……?
で、でも、人の名前を付けるなんて考えたこともなかったですし……。
「あ、あの……、その……」
「うん! ヒューイって良いね! ありがとう、お姉さん!」
「え、えぇ……?」
「あっ! それで、お姉さんの名前は?」
笑顔でそう言われて、言っていなかったことに気付きました。
慣れないことをしているからでしょうか?
すっかり、そのことが頭から抜け落ちていたみたいです。
「申し遅れました。私はセティス、セティス・オルディーニと申します」
「セティス・オルディーニ……。セティスお姉さん?」
「ふふ、お姉さんは付けなくてもいいですよ」
だって、私もお姉さんではないですから……。
「セティス……?」
「はい、なんですか? ヒューイ」
なんでもなーい、と笑う彼女……彼女じゃないですね、ヒューイに思わず私も笑ってしまいました。
そうして初めて出来たお友達は、名前も記憶も思い出せない、触れることもできない幽霊さんで……。
けれど、その関係は、なんだかとても暖かいもののような気がしました。