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After Eden  作者: 雲居瑞香
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story:6










 そんなザラは、再び見合いの場にいた。今回は高級レストランだ。個室があるようなとこ。


 息が詰まる。いや、今回のお見合い相手は、前回よりましかもしれないが、年が一回り以上、正確には十五歳年上である。と言うことは、現在三十三歳で、まったくありえない! と言うような年の差ではない。

 だが、何と言うか気持ち悪いのである。おそらく同世代であろう王配クライドくらい爽やかな雰囲気があればまだいいのだが。いや、クライドも爽やか、とはちょっと違うが、クライドにあるような若々しい感じがないのである。脂ぎったおっさんと言うわけでもないけど、うら若き十八歳の乙女であるザラ的には断りたい相手だ。

 というか両親、とくに母よ。数を撃てば当たる、とでも思っているのだろうか。当たらないに決まってるでしょ、と言いたい。


「私としては、ザラさんとのお話、ぜひこのまま進めたいのですが……」


 と相手に言われてザラははっとした。いつまでもボーっとしている場合では無かった。とっさに「いえっ」と拒否の声を出してしまう。


「やはり、ザラさんは十五も年上の男はお嫌かな」


 はい、そうです。とは言えないので、「そうではなくて」と前置きして少し考える。なんと言うのが一番角が立たない?

「じ、実は、私、好きな人が居まして……」

「ほう」

「その人を忘れられないのに、その、結婚するのは失礼かと思いまして……」

「なるほど。ザラさんはまじめな方ですね」

 にこりと微笑まれて、ザラの顔が引きつった。嘘を見抜かれているようで。

「私は一向に気にしませんが」

「……」

 そう来るか、と思った。まあ、相手は爵位がほしいのだろうし、気にしないよね、と何となく理解を示した。

「私、その、本当に彼のことが好きで! 今は彼以外考えられないと言うか……」

「へえ。あなたにそこまで思われている方は一体誰なのかな。私も知っている人ですか?」

 聞かれると思っていたので、ザラはさっきから考えていた。誰か、名前を上げるのに適当な人物。相手が「ああ~」となるような人。


 その条件で思い浮かんだのが、危機対策監室の上司セオドールだ。だが、しかし、彼は既婚者でここで名前をあげれば迷惑がかかる。逆に嫁のエリザベスは? 男装がハンサムだった。こちらはあこがれに近いし、名前をあげればやっぱりエリザベスにあらぬ疑いがかかる。ついでにザラにも。


 ならなら、女装していたけどユージーンは? いや、彼は普通に説得力が弱いな。なら、マティアス……は身分とかもばっちりだけど、条件が見合い相手に近いので却下。他には。他には……。


 と言うような思考を二秒ほどで終えたザラは、その名前を叫ぶように告げた。
















 何とかお見合いを終え、結婚を断ってきたザラは、顔色が悪いのを自覚しながらも出勤してきた。むしろ出勤したくなかった。休みたかった。それでも律儀に出勤するザラは、微熱くらいじゃ休まないタイプの人間だ。


「おはよう」


 危機対策監室に出勤して初めに会った人物はセオドールだった。この人、いつも出勤が早い。一回くらい勝ちたいのだが、そうもいかない。いわく、嫁の出勤に合わせているらしい。仲良しか。言うと怒るから言わないけど。

「おはようございます」

 ザラはぺこりと頭を下げておくにある自分の席に鞄を置いた。何かまた書類が増えている……。夜中にも緊急対応をしたらしい。その報告書だ。

「おはよう~。セオ、今日も早いね」

「うちのが早いからな」

 出勤してきたノエルの言葉に、セオドールはいつもの答えを返した。ノエルが苦笑を浮かべる。

 その後も職員が続々と出勤してくる。業務開始十分前には全員がそろっていた。いつも通り、解析室と情報室が騒がしい。


 ことは昼休みに起こった。危機対策監室では、実働職員はローテーションで昼食に入るのだが、事務官は昼食時間が決まっている。ザラがさて、昼食に行こうと立ち上がったところに、先に昼食に入っていた管制官のユージーンが声をかけてきた。

「ねえ。何か、ザラを連れて来いって言われたんだけど」

「……へ? 私?」

「この宮殿にザラ・ノーリッシュはあんたしかいないと思うんだけど」

「……そうだね」

 ちょうど昼食に行こうと思っていたところだ。ユージーンの指摘に苦笑を浮かべつつ、ザラは立ち上がった。

「誰が呼んでるの?」

 何気なく尋ねると、ユージーンからさらりと返答があった。

「サイラス」

「……」

 ピタッとザラは足を止めた。心当たりがありすぎた。

「どうしたの?」

「ねえ、ユージーン。私の代わりに私のふりしてサイラスに会いに行かない?」

「はあ? 何馬鹿なこと言ってんの」

 ユージーンがじとりとザラを睨み付けた。ですよねー、となったザラはため息をついて危機対策監室を出た。するとすぐにサイラスと出くわした。壁に寄りかかっていたサイラスは、ザラを見ると壁から背中を離した。


「来たか。行くぞ」

「行くとは?」

「昼食」


 そりゃそうか。昼休みだもんね。そこに、危機対策監室からユージーンが顔を出した。

「ザラ、ちょっと遅れてもいいからってセオドール様が言ってる」

「うん……ありがと」

 それだけ伝えると、ユージーンは無情にも扉を閉めた。良くも悪くも彼はクールなのだった……。

「ザラ、行くぞ」

「あ、はい……」

 連行されているような気持ちでザラはサイラスのあとに続いた。彼が向かったのは、宮殿内にいくつかある職員用の食堂だった。赤いナイツ・オブ・ラウンドの制服は目立つし、こんなところにいることが違和感。

 とりあえず食事と席を確保し、話はそれからである。


「あの、ごめんなさい!」


 先手必勝とばかりにザラはサイラスに謝った。すると、サイラスはまじまじとザラを見つめ、


「と言うことは、身に覚えがあるのか」


 と言った。もちろん、ある。

「今朝から、ザラと付き合っているのか、とよく聞かれるんだが」

「……私のせいです。ごめんなさい……」

 しゅんとしたザラに見た目クールなサイラス。サイラスがザラをいじめているように見えなくもないが、誰も助けてくれなかった……。

「なぜそうなった。説明を求める」

「ええっとぉ」

 ザラは頭の中で昨日のことを整理しながら簡単にあらましを語った。

「昨日、その、お見合いだったんですけど……」

「ああ……そう言えば、ノーリッシュ子爵家の人間だったな」

 やはりサイラスもザラの実家の事情を知っているようだった。まあ、当然か。結構有名だし。これだけお見合いを繰り返していれば当然ともいえる。

「そうなんですよ。で、向こうはこっちの事情を知っているわけで……で、断り文句に好きな人が居るんですって答えたんです」

「まあ、王道だな。それで……」

「サイラスさんが好きだって言いました……」

「……」

 ごめんなさい、と頭を下げる。だって、消去法でサイラスしか思い浮かばなかったのだ。個人的にはユージーンがものすごく好みなのだが、さすがに犯罪っぽいし。いや、年は二つしか変わらないんだけど。

「……いや、もういい。気持ちはわからないではないからな……」

「お察しいただきありがとうございます……」

 いや、サイラスが話の分かる人で良かった。そもそも勢いで言っちゃったザラが悪いんだけど。


「提案なんだか、良ければこのまま本当に付き合わないか」

「はっ?」


 予想の斜め上の回答が来た。ものすごく失礼な反応をした自覚はあるが、許してほしい。

「……いや、そもそも私、好きな人が居るって言っただけで、恋人がいるって言ったわけじゃないですよ」

 だから、サイラスの論理はおかしい。なるほど、と納得したらしいサイラスだが、すぐに言った。

「まあいいんじゃないか?」

「サイラスさん、結構適当な性格してますね」

「よく言われる」

 第一印象の『真面目そうだ』という印象はどこにいったのか。とっつきにくそうな人だと思ったのに、そうでもない。いろんな意味でイメージが崩壊していく。


 だがまあ、サイラスが恋人(仮)になってくれると言うのであれば、少なくともしばらくはお見合いから逃げられる。サイラスの実家であるジェンキンス家は伯爵家であるが、サイラスはその三男坊。後継ぎにはなれない。ザラから見ればよい条件ではあるが。


「サイラスさん側のメリットがわかりません」


 直球に爵位が欲しいんですか、と聞いてみる。ノーリッシュ子爵家はジェンキンス伯爵家より下位だが、そもそもサイラスが後を継げないことを思えば、それくらいで妥協できるものなのかもしれない、とも思う。

「爵位はいらん。と言うか、爵位ならもうある」

「ああ、ナイト爵」

 サー、と敬称を付けられていることからもわかるように、サイラスはナイト爵を持っている。ナイツ・オブ・ラウンドは全員ナイト爵だ。

 だが、ナイト爵は一代限りの爵位である。逆に、それを名誉と考える人も多いけど。

「そもそも、付き合うか、と言っただけで結婚するか、とは言っていない」

「ああ、確かに。でもやっぱりサイラスさんのメリットがわかりません」

「とりあえず、虫よけになる」

「……身もふたもないですね」

 サイラスはジェンキンス伯爵家の三男坊。爵位を継ぐ可能性は低いので、普通に考えれば人は寄ってこないのだが、何分彼はクールな美青年だ。それに、女子的には女王陛下のナイツ・オブ・ラウンドと言うのもポイントが高い。


「別に相手をしてもいいんだが、面倒くさい。貴族の彼女がいると言った方が牽制しやすい」

「サイラスさん、私に何言ってもいいって思ってます?」


 たぶん、サイラスがザラに何かしたら、ノエル経由でエリザベスの耳まで届くだろう。そうなったらサイラスへのあたりがきつくなる気がする。付き合いの短いザラでもわかる。エリザベスはそう言う人だ。

「まあ、私側のメリットが大きいですから、別にいいですけど」

 むしろよろしくお願いしまぁす、と間延びした口調でザラは言った。相手が適当な人間なので、こちらも適当になっている。

「ああ。よろしく」

 と、ここで一時を告げるベルが鳴った。あーっ、とザラは立ち上がる。

「仕事!」

「ジーンが遅れてもいいって言ってたって言ってただろ」

「そうだけど、サイラスさんは?」

「大丈夫だ」

 本当だろうか、と一瞬疑ってしまったザラは悪くない。と、思いたい。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


どうでもよいですが、私の押しキャラはユージーン。


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