表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
After Eden  作者: 雲居瑞香
13/18

story:13









 セオドールとエリザベスがやってきたのは、宮殿内の安全が確認されたかららしい。そこで強化魔導師に遭遇していては世話ないが、これがまたややこしい問題であるらしかった。


「んで? そのリリアンとセオはどうしたんだ?」


 見回りを終えて戻ってきたマティアスが尋ねた。もちろん、サイラスも一緒である。彼らより先に合流した女王夫妻が笑って答えた。

「骨が折れていたからな。治療中だ」

「仲がいいからな、あの二人は……」

 それ、絶対に女王夫妻には言われたくないと思う。確かに仲はいいけど。

「エイミーは、出てきてよかったのか?」

「大丈夫です。というか、お姫様たちは?」

 確かに。まだ小さい姫君たちはそうしたのだろう。アーサーは「ああ」と平然と答えた。


「ルーファスと一緒だ」


 そう言う問題なのだろうか、と思わないでもなかったが、ザラは黙っていた。ザラごときが口を聞けるような状態ではない。

 そう思っていたのに、アーサーに話しかけられた。

「ザラ、だったな。大丈夫か?」

「あ、はい。私は、全然」

 ザラはあわてて大丈夫だとうなずく。アーサーは微笑み、「そうか」と言った。そこに、何やら言い争いが聞こえてきた。

「いいからお前は休んでろって」

「そう言うわけにはいかない……! 私がいなくて、この状況をどう治めるつもりだ」

「私がいる!」

「頼りない」

 この夫婦、本当に何なのだろうか。入ってきたセオドールとエリザベスの夫婦は、何故かけんかをしていて、さらにセオドールがエリザベスを抱え上げていた。お姫様抱っこである。


「ラブラブかっ」


 ツッコミを入れたのはエイミーである。立ち上がるついでに上着を床にたたきつけた。すぐに拾ってはたいていた。

「うえ……っ。やっぱりダメ。降ろして」

「はいはい、お姫様」

 セオドールがエリザベスを降ろすと、彼女はふらふらと部屋を出て行った。っていうか、セオドールの言葉が本気で棒読みだった。

「え、いいの? なんかふらふらしてたけど」

「腕の怪我、そんなに悪いのか?」

 エイミーとアーサーが心配そうに言った。セオドールは扉を閉め直し、エイミーの隣に座った。


「いや、腕はぽっきり折れていたから、すぐに治りました。しばらく動かすなと言われましたけど。あれは、なんか、あー……悪阻で匂いがダメみたいで」


 言いにくそうに言ったが、結構衝撃の事実ではなかろうか。え、つまり……どういうこと?

「子供ができたのか! 喜ばしいことだな!」

「リリアンはこれを見越してたってこと?」

「つーか、お前とリリアンの子供って性格きつそうだな……」

 マティアスがさりげなく失礼である。アーサーとエイミーは喜んでいるのに。だが、ザラは顔を蒼ざめさせているサイラスが気になった。

「……大丈夫ですか?」

「いや、雲行きが怪しい気がして」

 それは、まあ、確かに。ナイツ・オブ・ラウンドに加入して数か月で指揮を執るのはきついだろう。エリザベスがこのまま脱落すれば、その指揮権は第二席のサイラスに移行される。

「合流したときから、なんか変だなーとは思ったのよね。いつものキレがないというか」

「うーん、言われてみれば、調子が悪そうだった、かなぁ?」

「まあ、顔色は悪かった気はしますが」

 エイミーとアーサー、クライドにまでいろいろと言われて、セオドールが撃沈した。


「やめてください……何故か私が恥ずかしい」


 ひとしきりセオドールをからかったところで、話しをまじめな方向に戻す。


「それで、宮殿の侵入者だが」

「近衛を使って宮殿中を確認しましたが、侵入者はすでに姿を消しています。で、例の、私が撃ったやつですが……人間を模したガーゴイルの一種と思われます。たぶん」

「はっきりしないな」

 セオドールの自信なさげな言葉に、クライドがツッコミを入れた。先ほどのこともあって、セオドールは視線を逸らした。三十歳近い男性だが、仕草が妙にかわいらしい。


「今、危機対策監室うちの調査官が調べているところです。すみませんね、頼りなくて……」


 セオドールは言って、自分で傷ついたようだった。大胆なことを言うセオドールだが、彼の心は繊細であった……。


「一応、魔法の専門家を招喚しています。ただ、今回宮殿に侵入した強化魔導師は、全てガーゴイルでした。つまり、どこかで研究所ラボがまだ稼働しているということですね」


 繊細であるが、洞察力は鋭い。彼は、他の専門家にうまく役割をふる人だが、決して、彼自身に知識がないわけではない。ただ、ちょっと自信がないのだろう。

「宮殿内の安全は確認されているんだろう?」

 アーサーが尋ねると、セオドールは「ええ、まあ」とうなずいた。

「現状の安全は確認していますが、内通者などの確認はまだなので、完全とは言えません」

「居を移したほうがいいか?」

 これはクライドだ。王女たちのことを聞いているのだろうな、とザラでもわかった。


「いえ。今移動すると、逆に危険です。宮殿内で警備を固めたほうがいいでしょう」


 セオドールの視線がこちらを向いた。と思ったら、サイラスを見ただけだった。ザラは少しほっとする。

「サイラス、悪いが陛下の警備を組んでくれ。たぶん、指示を出すだけならリリアンでも大丈夫だと思うが……」

「いや……妊娠中の女性に無理をさせることはできないからな……」

「あの女なら、這ってでも来るだろ……」

 サイラスの丁重な断りに、クライドが遠い目で言った。エイミーが「そうね」と同意している。確かに、さっきも一応、この部屋までは来たし。


「いっそ、リリアンを宮殿に置いちまえば?」


 マティアスがぶっ飛んだ提案をした。エイミーが「それ、いい!」などと乗っかってくる。ザラはちらっとセオドールの顔を見た。彼はふるふると震えていた。

「いや……あれは連れて帰る。本気で何をするかわからん」

「リリアンがいないとさみしいんでしょ。いいじゃん。セオも一緒に泊まれば」

 と、エイミーが言うが、話がそれているので、戻す。

「とにかく、今できる範囲で宮殿の警備を固めます。ナイツ・オブ・ラウンドには陛下たちの身の回りの安全を確保してもらえれば」

「わ、わかった……」

 緊張気味にサイラスはうなずいた。がんばれサイラス。不謹慎だが、そうなれば母の恋人を紹介しろ、攻撃から逃げることができる。うん。自分で思ったけど本当に不謹慎。


 サイラスもそうだが、セオドールも若干自信なさげで、これは……。


「不安しかない」


 エイミーがそのものずばり指摘した。気まずい空気が流れたところに、報告が入る。


「セオドール様。危機対策監室の警戒が解除されました」

「ん? ああ、わかった」

 どうやら、危機対策監室の閉鎖は解除となったらしい。セオドールが立ち上がり、ザラの方を見た。

「ザラ、一度対策監室に行こう」

「わかりました」

 ザラはうなずくと、立ち上がる。ほぼ同時に立ち上がった二人だが、セオドールは膝からくずおれた。エイミーが「ぎゃーっ」と悲鳴を上げる。

「大丈夫か、セオドール!」

「無理してお姫様抱っことかするから!」

 マティアスとエイミーがセオドールを引っ張り起こす。アーサーが苦笑を浮かべた。


「もうお前たち夫婦、宮殿に泊まって行け……」


 その方がいいと誰もが思った。


 危機対策監室に行く前に、エリザベスの様子を見に行った。会議をしていた部屋の隣で休んでいた彼女は、顔面蒼白だった。この夫婦、本当に大丈夫だろうか。

「陛下が泊まって行けと言っていた」

「私はその方がいい……」

 たぶん、馬車に揺られるのが嫌なのだろう。そう言っていたら、ずっと帰れないけど。ザラはセオドールを見上げた。

「私、エリザベス様、見てましょうか」

「いや、お前も現場に立ち会った人間だ。今後の対策のために、証言が欲しい。私と一緒に危機対策監室まで来てくれ」

「……わかりました」

 セオドールもエリザベスが心配だろうが、ここで彼女を優先したら、エリザベス自身が起こるだろう。それはザラにも容易に想像できた。


 そのエリザベスは、


「私の分まで頑張って……」


 すでに戦線離脱を決めていたらしかった。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ