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カエル王女と紅き土偶騎士  作者: エルーカ
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母と双子2

謁見の間の前まで来てステラノグは立ち止まり振り返った。

護衛兵長も立ち止まり傘を45度回転させた、すると布に切れ目ができ、その切れ目から王女たちは外へ出て来た。


王女たちはどうやって出てくるのだろうと不思議に思っていたステラノグは、切れ目ができたので大層感心した。


「不思議な道具ですね。一体どのような仕掛けがあるのか知りたいものです。」


「こういった道具は魔道具と呼ばれており、王宮の魔導師や魔法の研究者等と女王陛下が発明し作っているのです。どういう原理かは話がとても長くなります…。」


そうルチアが説明すると、説明はまた次の機会にとなった。


謁見の間の扉の奥から入場許可の鈴の音がした。ルチアは護衛兵長と魔導師一人、騎士一人と娘たちを連れステラノグと共に中へ入った。


ラナンティア城の謁見の間と違いやはり廊下と同じで甲冑や剣や盾が飾り付けられ、側面の壁には代々の国王の肖像画が並んでいた。みんな勇ましい鎧姿で手には剣と兜を持ってポーズをとっていた。顔も似ていたので同一人物にしか見えなかった。


部屋入り口から王座まで続く絨毯は廊下と違い青と銀色で汚れひとつなかった。この日の為に新しく張り直したのだろうとレジーナは思った。


王座の前まで来ると護衛兵たちは王女より一歩後ろに膝を付き頭を下げ、娘たちもルチアの少し後ろの両脇で止まり王の言葉を待った。


階段の上にある王座に座るバークレジアの若き王は、席を立つと階段を降り、ルチアの前までやって来た。

背は高くがっしりとした体格で髪は燃えるような朱だった。端麗な顔立ちで、若いが自信に満ち溢れていた。


ステラノグは大きく張り上げた声で、


「ラナンティアのルチア・ラナンティア王女殿下~、その第一姫君レジーナ・ラナンティア王女殿下~、第二姫君エルーカ・ラナンティア王女殿下~。」


と自己紹介をした。

名前を呼ばれるとそれぞれがドレスのスカートの裾を少しだけ両手で掴み上げ、挨拶をした。


「遠路ご苦労であった。我がバークレジアにようこそ。俺が次期国王のジョシュア・バーグレジアだ。」


ルチアは片手を王に差し出した。若き王は膝ま付くと優しく手を取り、口を近付け離した。


「ラナンティア第一王女ルチアです。お招き感謝いたします。国王さまにおかれましてはとても残念です、お悔やみ申し上げます。」


そう言うと顔を斜め下へ傾け少し目を閉じた。


「国王を失い国も混乱している、早めに戴冠式をし民を安心させ国を安定させたい。」


力を入れて話す若き王を幼い頃より教育係として支えて来たステラノグは良くできた!と言わんばかりにうんうん頷いていた。


「女児が生まれない世の中だと言うのに、二人も娘を授かるとは、余程神に愛されておいでだ。して、そちらのお子たちは何歳と何歳になられる?」


と、両脇で少し恥ずかしそうにしているエルーカと、真っ直ぐ若き王と対峙するレジーナを見た。


「こちらが私の娘レジーナで今年14になりました、そし」


そこまで話すと王は驚き「どぇっ!」と奇妙な声をあげた。

ステラノグも一様に驚いていた。

レジーナは知らん顔をした。


「…、そして、こちらも私の娘エルーカです。こちらも今年で14才です。」


今度は王は思いっきり仰け反り驚いた。


「同い年?何ヵ月違いなんですか?」


「双子なんです。」


そう言うと二人に向き直ると背の高さがずいぶん違う

娘たちの首に腕を回し抱き締めた。


「こんなに大きくなってくれて…、ラナンティアでは双子は災いを呼ぶと言われてますので本当に心配しました。」


娘たちは少しくすぐっそうにした。


「そうか、双子であったか。失礼をした。」


王は双子を見ると軽く頭を下げた。

それにしても美しい。肖像画にある自分の亡き母親こそが世界一の美女だと思っていたが、その考えが粉砕してしまうほどに目の前の生きた女達は美しすぎた。


自国から出るのは初めてと聞いた、ラナンティア王族には男はいない、女王の結界で侵入を許さない国ならば素顔を見た王族は世界で自分しかいない。




自分以外に誰もいないのだ。




若き王は自分の中に禍々しい黒い塊に気が付いてしまった。

欲しい……。我が物にしたい……。

誰にも渡さない、誰にも。誰にも……。


「誰にも渡すものかっ!」


「えっ!?」


ジョシュアは、ハッとして口元を手で隠した。

ルチア達は突然の怒鳴り声に驚き、ジョシュアを見つめた。


「いや、申し訳ない独り言だ。」


「……。」


母娘は顔を見合わせ、ステラノグはその様子に困惑した。




その後、少し話すとルチア達は謁見の間を後にした。

名残惜しそうに後ろ姿を見送ったジョシュアはステラノグの肩に腕を回すと並んで出て行った。


その晩夕食は部屋でとると早めに就寝した。

星が美しい晩だった。入城して初めに案内された部屋には寝室が二部屋ついていた。一部屋を母のルチアが使い、もう一部屋を双子が使っていた。


ルチアは眠れずにいた。色んな人の目に今日だけで一生分くらい晒され心が疲れきっていた。


謁見の後、水晶に「想い便」が大量に届いた。

「想い便」はルチアに想いを寄せる者からの激しい気持ち、愛情、嫉妬心、憎悪など驚異として見なされると知らせる機能で、大量に届くという事はとても危険な事だった。


ラナンティアの王族にとって男性に愛情を持たれるという事は決して良い事ではなかった。女王や王女は神に愛される存在であり、人間の男との交わりは魔力を失い国を滅ぼす事であったからだ。


誰とも交わらず神の子を宿す。何千年もの間、変わらず守り続けられてきた事であった。


「想い便」は届き続けルチアの水晶を赤く染め続け危険を知らせていた。

警戒していたが、自分がなぜ、誰にそんなに想われるのか分からず、はたまた恨まれるとしても思い当たらず、壊れたのではないかと思えてきた。


赤くなってしまった水晶を持ちバルコニーに出て庭を眺める。


「出てきた!」


「バカっ!静かにしろ!気付かれる、宰相にバレたらただではすまないぞ!」


「月明かりにも負けない美しさだ。お前絵心あるよな?急いで描き留めろ。」


「ここからじゃよく見えない。」



水晶に嵐の様に想い瓶が届く。


「早く帰りたい。」


ボソッと呟くと部屋へ戻り眠りについた。



翌日戴冠式が執り行われたのだが、各国から招待された名だたる王族や騎士が心を隠し参列していた。

ジョシュアはまだ若く、前王が完全主義者だった事から表舞台に立つ事はなく各国に顔を知られてはいなかった。


新しい若き王を傀儡に出来ないか黒い策略を練る者ばかりだろう。しかし若き新王は父親譲りの勇ましい立ち居振舞いと宣言ででそれらの粗略な考えの者を一瞥した。


ルチア達はジョシュアの計らいで姿を曝さないで済む聖堂のバルコニーにいた。

目立たないようにと念を押され静かにしていたのだが、長いスピーチに飽きたどこかの参謀らしき人に姿を見られてしまった。


「なんて美しいんだ。」


と呟いてしまい、その呟きを耳にした者たちが視線の先を探し美しいものを見つけてしまった。

ざわざわし始めた中、ジョシュアも参列者の落ち着きのない様子にハッとしルチア達を見る。


ルチア達は下の階にいる人々がこちらを見ている事に気付くと青ざめた顔になり身を低くして隠れた。


式が終わる直前に天傘に入りその回りに数十人の護衛を張り付かせて逃げるように部屋へ戻った。


晩餐会はご辞退し今日も部屋で食事をとる。少し一人になりたいと2時間程寝室に入り、再びリビングルームに出てきた時には口数少なく顔も青ざめていた。



「ルチア様、いかがなさいました?」


侍女が尋ねた。


「なんでもないわ。」


震える声で答えつつ娘たちに抱き付いた。

一瞬、鼻をつく嫌な匂いがした。

何の匂いだろうと思ったが母ルチアの様子が気になって仕方なかった。

ルチアはキツく強く娘たちを抱き締め続けた。



その晩。


女として見てくる男性の目が恐ろしくて仕方なく、なかなか落ち着く事ができずにベッドでもう何度目かの寝返りをした時、何かが動いた気がした。


上半身を少し持ち上げバルコニーに目をやるが、しばらく目を凝らして見ていても変化はなく、気のせいだと再び枕に頭を置き天井が見えた時ハッとした。


もう目の前まで敵が迫っていた。枕に頭を着けた時にはすでに落下してきていたのだ。

動こうとしたが間に合わず腹部に衝撃が走った。誰かが馬乗りになっている!

腹部の痛みに顔をしかめながら、娘たちの無事しか考えられないでいた。


馬乗りになっている者はルチアの右の手首を掴むとベッドに押し付け、空いている方の手で躊躇なくルチアの掌に楔を打ち込んだ。

余りの痛みに叫び声をあげたがすぐに楔を打ち終えた手で口を塞がれた。


傷みに固く閉じた目を開き相手の顔を見た。


「まさかそんな!」


ルチアは瞳を大きく開けると再び閉じた。

もう片方の掌に楔を打ち込まれたからだ。


もう助からない。危害が私にだけ向かいます様にと静かに死を受け入れた。お母さま……お許し下さい。










隣の部屋で寝ていたレジーナは寝苦しさに目を覚ました。暗い部屋の天井をボーッと見つめ、目が疲れると寝返りを打った。すると寝ているはずのエルーカがベッドのふとんに足をいれたまま座っていた。


「眠れない?」


「嫌な感じがするの、レジーナはしない?」


レジーナはベッドから出るとエルーカの肩を優しく押しつつ体を支えて横にさせた。

だが、エルーカはすぐに起き上がるとベッドから出てドアへ歩いた。


「トイレ?」


とレジーナが聞くが答えない。心配になり後を追うとエルーカは母の部屋のドアに手をかけた。王女が母親の部屋に行こうとしている、別段おかしな事ではない。リビングで護衛していた兵は二人の行動を気にも止めなかった。

エルーカはゆっくりドアを開けた。



薄暗い部屋の中はしんとしている。ベッドの方を見るが良く見えない。

なぜだか分からないが嫌な予感しかしないのだ。

体中の表面がピリピリと痛くなる程体温が上がり、手が震えているのが分かった。


動けないでいたレジーナだったが、エルーカがいきなり「わーっ」と叫びながらベッドに向かって行く。驚くが後に続いて走る。

先にたどり着いたエルーカはベッドの前で立ち止まると変わり果てた母を見た。レジーナも妹のすぐ後ろで母を見た。


両掌には大きな穴が開いていてかなり出血していた。目は閉じている。微動だにしない。死んだ?…しんだ?…し……だ?

上手く息ができない…


はあはあ息をしながらその場で首だけ回し、大きな窓の前で立ちすくんでいる人を見た。


「どういうことだ?

………

………

………

………

ステラノグーーー!」


その瞬間部屋中の置物や家具が爆発した。破片は至るところへ飛び散り護衛達やメイド達に突き刺さった。

エルーカは母を温めようと母にふとんをかけていた所で、爆音がするのと同時に母親の顔にも布団にかけた。


レジーナの体から凄まじいエネルギー波が噴出し破片を受けて吹っ飛んだものに更に追い討ちをかけるように無数の髪の毛程細い固い繊維が突き刺さった。


繊維は壁を突き抜け四方八方へ拡散し、至るところで悲鳴が上がる。

レジーナの長い髪は怒りで逆立ち、やがて蛇の様にウネウネ蠢く。

「あぁぁぁぁ!」


レジーナの叫び声と共に頑丈な城の壁が砕けてなくなった。


「うあぁぁぁぁ!」


そこら中から火の手が上がり、消火するもの、負傷者を救出するもの、犯人をさがすものと城の中は騒然となっていた。


ステラノグはその場に倒れるように座り込み両手で目を覆った。


「 ま…っ守れなかった……。」


それを聞き、レジーナもその場に座り込んだ。

エルーカは母親の遺体に抱き付いた。

まだほのかに温かかった。



「お前、なぜここにいる?」


レジーナが聞く。

ステラノグは不足の事態に備え部屋の前を見回っていたと言う。


ラナンティアの護衛が警護をしていたが、旅の疲れが出たのか護衛たちがウトウトしていたのを見ていた。

目覚めのコーヒーを振る舞うとステラノグは1回まで降りルチア達の部屋のバルコニーの真下へやって来た。


異常はないか見上げると、王女達のバルコニーの辺りに不気味に動く物陰を見たらしい。

人を呼ぶ時間はないと判断し彼は腕に装備していた鍵爪を自らの手に装着すると壁に爪を立てよじ登った。


その間、そんなには時間が経ってはいないはずなのに、ステラノグが登りきりバルコニーへ降りた時にはもう怪しい人影はなくなっていたそうだ。


「そんなバカな!犯人を見ていないだと?誰を庇っているんだ!」


何を聞いてもそれ以上の情報は出なかった。

このままここにいてはいけない、レジーナは護衛兵長を呼ぶように言い付け、エルーカを母から引き離した。

一刻も早く国へ帰らなければならない。

荷造りをさせ、1時間で城門の前にラナンティアの一行を集めた。


そこからどのようにして帰り着いたかは覚えていない。エルーカは誰共話さなくなった。


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