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カエル王女と紅き土偶騎士  作者: エルーカ
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神さまのお願い2

 しばらくの間どちらも動く事はなかった。

その場から離れたかったが扉もなくただただ白いだけの空間、怒鳴り付けたが反応もなく居心地が悪くて仕方ない。もしかして殺意沸く程怒ってるのかも?と心の中で臆すると何も言い返してこない態度に不安を感じ顔をしかめた。


 神に対し「もうろくじじぃ」と言い切った。

あれでも一応は全世界を統べる神なのだと、少し失礼ながらも言ってしまった暴言に対して後悔の念に駆られる。自己嫌悪に陥りかけつつ、神さまの正面に回り込みそっと顔を見上げた。


「!?」


 驚くことに神さまは顔面蒼白になっている。えぇぇーっ?メンタル弱すぎません?がっかりです、本当にがっかりしました。言われたことがないからとか以前に器が小さすぎると戦々恐々に陥る。



 当の神さまはというと頭だけあらぬ方向へ曲げ、そちらを見ている。神さまが見てる方につられて目をやると、そこには白い靄でぼやけてはいるものの何やら真っ赤に燃えるような深紅の赤い物体が揺らめいていた。真っ白な空間にいるその赤はとても異様な物体に見えた。

朧気に見えるその紅きものはゆらゆらしながら少しずつこちらへ近付いて来ていたが、やや輪郭が分かるようになった辺りで動きを止めると、それまでの大きさから半分程の大きさになった。


 呆然とそれを見つめていたが神さまは「あらららら…今回も怒ってるわ。」と漏らすと一歩後ろへ下がっていた。

嫌な予感しかせず、神さまから少し離れると私は再び紅きものの方へ目をやった。

次の瞬間それは視界から消えた。


「!」


 あまりの早さに私も神さまも目を見開いている事しか出来ない。凄まじいスピードで近付いた真っ赤なものは、神さまの鼻にくっつく距離に顔を近付けた。ものすごいスピードからの急停止した事で巻き上げられ吹き付けられた風は神さまの髪と髭を激しく乱した。目を血走らせ少し開いた口元からは沸騰した湯気の様な物がヒューヒューと漏れだしている。


「またかぁぁぁ!!」


 紅きものは低く大きな声で怒鳴り付けた。その異様な出で立ちと威嚇する迫力に私は小さな悲鳴を上げた。


「つっ、次は何に生まれ変わりたい?」


 どもりながらも早口でそう言うと神さまは額の脂汗を丁寧に拭き、首を大きくひねり紅きものから目をそらした。その態度にさらに腹を立てたのか、いきなり神さまの腹辺りに体当たりをした。勢いを受け止めきれなかった神さまは後ろへ派手に倒れてしまい、そこに紅きものは馬乗りになると真上から神さまを睨み付けた。

なんともおぞましい光景にしりもちをついた私に気付いた紅きものはまじまじとこちらを見つめて


「なんだ……こいつ?」

「は……にわ?」


 紅きものと私はほぼ同時に口を開いていた。


「俺は埴輪じゃない、土偶だ、魚よ。」


 と、口元を歪ませ不快そうに言い放った。


「土偶?確かに埴輪よりは精工ね、ちなみに私は両生類で魚ではないの。今は鰓呼吸だけど大人になったら肺呼吸するのよ、まあ焼き物に説明しても仕方がないわね。」


 そこまで言って、自分は何を言っているのだろうと固まった。あれは土偶だ…。土偶が動き話すことにまず頭を抱えたがもっと理解できない事があった。


「あなた何で男の話し方なの?」


「はっ?」

「えっ?」


 紅きものだけでなく神さままでも間の抜けた様な声を上げたのだった。


「あなた自分の体をちゃんと見てる?そのフォルムはどう見ても女性の体じゃない?…えっ?実は女なの?」


 ヤバイことを言ってしまったと口元に手をやろうとしたがまだ前足が生えてなかった。

自分を俺と言う女の扱い方など分からない、どの人生でも遭遇しなかった。

土偶にも人には言えない悩みがあるのだろうなと、さも気の毒そうな目で土偶を見つめた。


「カエル手前の気色の悪い物体にそんな目で見られるとか……、はぁ、一応心は男だ。」


 やっぱり!

神様と二人、なんとも言えない顔をしていると、


「元々が男なんだ!女の体に心は男とかではなく男なんだ!おーとーこー。」


 必死に説明している姿がもの悲しい。

気の済むまでしばらく黙って説明させてやろうと私はその場に座り、神さまはいつの間にか真っ白な空間に、とても違和感漂う使い古したマホガニー製の高級そうなコーヒーテーブルを置き、優雅に真っ白なカップでコーヒーを飲み始める。

真っ白に慣れてしまった今では色がある方がおかしい気がする。

質の高い風味豊かで甘いコーヒーの香りに二人は顔を見合せるとゆっくり神さまのところまでやって来た。


さっきまで神さまの分しかなかった高級そうな椅子と美味しそうな香りがするカップアンドソーサーが人数分現れ多少驚いたが黙って席に着くとカップを持ち上げ思い思いにコーヒーを堪能した。


「落ち着いたかな?」


 優しいもの言いで二人を見つめた。

落ち着き払った態度に、さっきまでの子供じみた態度が恥ずかしくなる。


「少し前にカエルが…"何で何度も転生させるの"と聞いてきたが……。」


「うん、…ん?私の事"カエル"って呼ぶのは酷くないですか?勝手にカエルにしたの神さまですよ?大体いつも最後まで聞かずに転生してしまうんですから……ブツブツブツ。」


「もうすぐ星が出る。」


 神さまには私の言葉は聞こえないようだ。


「星?」


 星?二人には何を言っているのか分からない。ここは天界なのだが、この真っ白な空間しか知らなかった。真っ白な空間は天井も床も壁4面の全てが真っ白だった。

神さまがいなくなる時があったが、もしかしたら別の部屋があり、そこは空が見えるのかもしれない。

私たちのような、神より劣るものはこの部屋以外に足を踏み入れられないのだろう。

天界には転生する為にお邪魔しているのだから、案内されない限りは勝手に歩き回ったりはしない。

そもそもこの部屋には扉がないのだが。


 こちらへおいでと神さまは立ち上がる、私たちも席を立つとテーブルや椅子が姿を消した。神さまの両隣に立つと目の前に夜空が透けて見えた。

60インチのテレビ程の夜空には地上から見るのより遥かに大きなサイズで星が輝いている。

テレビに映る星、その中の4つと7つの星をそれぞれ指でなぞると、指の跡に線が浮かび上がり星座表の星座の様になった。


 実は数日前にこの星を見つけたんだよと嬉しそうに話す。

神さまが言うには、自分は全ての星を管理している、新星を見つけると名前を付けたりする。今回の様に近場で数個の星が誕生する事は決して珍しくないそうなのだが、纏まって生まれた星には必ず意味があり、それを読み解くのも神さまの仕事らしい。


「纏まって生まれた星の形を良く観察するんだよ、形になった星は星座と呼ばれるのだが、この4つの方がレアーナガエル座で7つの方が土偶座だ。」


「…………………。」


 どう見たらこの四角がカエルになって、こっちのぐにゃぐにゃした形が土偶になるんだ!と思ったが、はっとした。


そうゆう事か…と今の状況に妙に納得してしまったのだった。

私の美しいエメラルドグリーンのカエルで赤きものは真っ赤な土偶の姿をしていたからだ。




「レアーナガエルは知っているとは思うが…、」


 神さまは二人に漂う微妙な空気に気付かず話し続けている、もうすでに嫌な予感しかしない二人はどちらからともなく手を上げた。


「なんたらガエル、知りません。」


「知らない?目の前におるではないか?」


 然もあらん、目の前と言うのは私の事だ、ただまだ幼生なんだが。


「レアーナガエルは、ラナンティア国にしかいないとても貴重なカエルなのだ。とても美しいエメラルドグリーンの体で、頭の良い個体は人の言葉も話せる。」


「おぇぇぇ~人の言葉を話すカエルだなんて!」


 土偶は唸る様に言った。


「もしかして、さっきの女の子に叩きつけられた網で死んだ私って、その話せるというレアーナガエルなの?」

 

 池の中から外を眺めていると突然エメラルドグリーンの髪をした女の子が網を振りかぶり私たち家族を殺そうと攻撃してきた(実際はただ捕まえて飼おうとしていたのだが)時に死んだのだ。


「………。そうではない…。さっき死んだ場所はラナンティアではないのでな。ただのアマガエルで死に、ついにこの天界で念願のレアーナガエルになったんじゃ!……なったんじゃあ、なったんじゃあ……。」


 エコーを利かせ「どうだ!」と言わんばかりに神さまは興奮冷めやらぬ状態で両手を上げながら叫んだが、そのテンションについていけてないカエルと土偶の冷めた視線に目をそらし、咳払いをすると話を続けた。


「土偶に関してはご存じの通りこれだ」


 と、いきなり目の前の土偶を頭の上へ抱き上げた。突然のことに「下ろせ!」と激しく抵抗する土偶と、高々に掲げる神さまとの攻防は、遥か太古で実際にあった出来事なのだと思いを馳せるカエルであった。


 土偶発掘の際、ほとんどの土偶が壊れた状態で見つかっている。

故意に破壊した形跡があり、安産祈願、神像、魔除け、子供の玩具やお守りなど様々な用途で使用されていた。。身体の悪い所を破壊することで快癒を祈ったとも言われ、粉々になるまで粉砕され大地にばら蒔くことで豊穣を願ったとされている。

壊される事への恐怖心からか持ち上げられる事を極端に嫌がっている様にしか見えず、土偶に転生させられた彼女(彼?)の生涯を思うといたたまれなくなった。


 土偶の目は大きく横一文字に閉じているのだが、これは目を閉じる=死、を表しているそうで、ヒトの身代わりに土に埋めて使用される事もある。

村の中心や境界へ埋められた土偶は、他所からもたらされる疫病や他村からの呪いを防ぐ守り神でもあり、一度埋められた後、再び掘り起こされ祀られていたそうだ。死して神と崇められていたのならまだ土偶の生涯としては救いがある様に思えた。


 神さまは丁寧に土偶を降ろすとしゃがみこんだ、疲れたのだろう。

土偶もはぁはぁ言いながらバタンと前方へ倒れた。


「話がそれたが、とにかく、そなたたちにはあの星座の神話になってもらいたい。神話になるには実際にその生涯を生きなければならない。そなたたちが今一度転生し神話になるのだ。」

       

 7回同じものに「望んで」転生する事ができると神の守護の力で次の転生の際に神がかった力を持って生まれられるのだが、次もカエルなの?!と戦々恐々となった。


「で、あんたの言う通りにするしかないみたいだけど、で、俺になんの得があるんだ?」


 カエルもうんうんと頷く。


「神話になるんだぞ?こんな、誉れはないぞ。」と神さまは面食らっていた。


「世の中も確かに変わった、昔ほど星を見ているものも多くない。神話になれると言っても嬉しくはないのだな。」


 心底寂しそうに呟いた。

そして、転生の際に今度こそ好きなものにする事と、天授を全うした後は何でも好きな願いを聞く事を約束し私達は多分最後の転生を半強制的にする事になった。


 ちなみに私たちがこの主役に選ばれたのは、死後アンケートの好きな色の所にそれぞれ緑、赤、好きなものの欄にそれぞれ"カエル"と"エメラルド"、"土偶は意外とかわいい"と書いていたかららしい。なんとも…。




「では、そろそろ出発してもらおうか。」


 神様は白の空間に立派な白い椅子を二つ作ると二人に座るように言った。

席につくと、「さて、今度こそ、何に生まれ変わりたい?」と、聞いてきた。

だが、答えようとした時いきなり神様が膝を床に付き苦しみ始めたと同時に直ぐ隣から風が吹き、神の元へ赤い塊が突進して行った。何が何だか分からず土偶の方を見るが土偶がいない!まさかこの期に及んで神様を攻撃したのかと冷や汗を流す。

 

 隣にいたはずの土偶は突然膝を落とした神が何者かに攻撃を受けていると判断しとんでもないスピードで神と神の敵らしきものの間に割り込み胸の辺りに手をかざす。すると剣が現れそれを素早く掴み取ると胸から一気に引き抜いた。


 ガチン!と甲高い音がして土偶の剣と神の敵の剣がぶつかり合う。ギリギリギリギリと擦れ合う不快な音は敵に蹴りあげられた事で欠き消えた。勢いよく蹴りあげられた土偶は空中で体勢を変えられずもがき、もうすぐ地面に落下するギリギリの所で覚悟を決めると固く目をつぶった。しかし神様が指をならし床を柔らかくして土偶を守る。土偶は背中からふんわりと落ちるとバウンドして低く跳ね上がり、地面に上手く着地し敵を確認する。


黒い物が人の形に渦巻いて体内に入ってはまた表面に出てきている。

目と口だけが白く薄気味悪い。

「カカカカカ。」と声を出している。


 そいつは椅子で動けないでいるおたまじゃくしを見るとニヤリとしてヒュッと尖った物を飛ばした。

神様はヨロヨロと立ち上がると人差し指を小さく回す。視界に何か入り思わず目を閉じた瞬間バキンとお腹に響くような音がする。

「もう嫌だ!」とパニックになったおたまじゃくしはその場から逃げ出そうとしたが、自分の体の回りに膜を感じる。「出られない!!助けて!!」と懇願するように神様を見るが神様は体中無数に切り刻まれ血を吹き後ろへ倒れようとしていた。


「あぁ!」膜を破ろうと手当たり次第叩き、押した。

神様は再び立ち上がると土偶を見えない力で浮遊させこちらへ飛ばす。どんなに押しても破れなかった膜を簡単に通り抜け二人を椅子に座らせた。


「すまない、希望は聞けない。がんばってくれ。」


バーンと大きな音と共に二人は意識を手放した。

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