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カエル王女と紅き土偶騎士  作者: エルーカ
18/19

神の祠


エルーカはしゃがみこみ顔を両膝の間に入れうずくまっていた。

陽射しは明るく新鮮な風が長いエメラルドグリーンの髪を揺らしている。

小鳥のさえずりが聞こえ、暖かな陽射しにエルーカはゆっくりと顔を上げる。

見覚えのない景色に警戒しながらも立ち上がり周囲を見回す。


白い大きな岩の上に立っている。

その周囲にはきれいに切り揃えられた芝生があり、さらにその回りを大きな青々した葉が覆い繁る背の高い木がきれいな等間隔で円を描くように生えている。


人の手が入っているようだった。

しかし、太陽の暖かさもあり、風も吹いている、小鳥のさえずりも聞こえるが生き物の気配は全くない。

小鳥の声も作り物のようにも思える。


同じ間隔で同じ回数で同じ旋律の小鳥のさえずり……。

まるで録音したものをひたすら流し続けているようだった。


【ここは……、どこだろう?】


不思議な事に不安な気持ちは全くなく、むしろ懐かしい気さえする。

危険はないと判断すると白い大きな岩からうんしょ、うんしょと降りると改めて心落ち着く場所と感じた。


【なぜだろう、初めて来た場所とは思えない。でも、私はここを知らない。】


思い付くまま歩き出していた。まるで行く場所が始めから決められていたように。




ーーーーーーー



女王が討ち取られた瞬間、ラナンティア城の上に厚い真っ黒い雲が立ち込め太陽を消してしまった、急に辺りが暗くなった事に民衆の間にも不安が広がり、人々は女王の元、王宮へ押し寄せて来はじめる。その数はどんどんと増し、町中の人間が詰めかけていた。


「レジーナ様!あの厚い雲は神からの贈り物の合図です。屋上へ参りましょう。前女王が退位した後、新しい女王の証として守りの力が授けられるはずです。」


レジーナは嬉々として屋上まで上がると天を仰ぎ両手を広げ神からの贈り物を待った。

しかし、しばらくしても一向に変化がない事に首を傾げると眉間にシワを寄せ大きな声で天に叫んだ。


「さあ、神よ、ラナンティアの尊き神よ、私に世界最強の守護の力を。」




「あはは……、どっ、どうなされた?遠慮はいらぬ、私に力を与えたまえ!」


しばらく両手を上げていたがやがて両手を下ろすとうつ向き黙り混むレジーナ。不安を感じていたのはレジーナだけではない。リンダも力を受け継げられないことに不安を募らせる。


「レジーナ様、リンダは実際力を受け継いでいる所を見たことがございませんのではっきりと断言はできませんが、もしかしましたら前女王が亡くなった時点ですでに守護のお力をお受け継がれになられているのかもしれませんわ。」


「どうしたら力を手に入れているかどうか分かるのだ?」


「はい、城にございます宝物庫の入り口は固く閉ざされておりますが、こちらは女王の守護の力がなければ開かれません。また王家の祠へは生きた者ではラナンティアの女王、王女しか立ち入れないのですが、初代女王と謁見できるのは力を受け継ぎました女王のみの特権とか。」


「では、試しに宝物庫へ行ってみるか?」


ラナンティア城は大混乱の内にいた。破れるはずのない女王が目の前で、時期女王である孫のレジーナの手にかかり惨殺されたのだ。絶対的防御の結界で永い期間国を守り続けてきた歴代女王達、その現女王が破れた。


女王の侍女たちが泣きながらバラバラになった女王の遺体の欠片を大事そうに拾い集め棺に納めている。その横を事も無げに歩くレジーナと誰も目を合わそうとはしない。

誰もが悲しみにうちひしがれ、女王を失った後のこの国の現状を憂いた。不安で押し潰されそうな思いを胸にしまい込むと黙々と城の修復に取りかかった。


宝物庫は地下2階部分にある。そこへ続く暗く狭い廊下を逸る心を持て余しながら足早に進むレジーナとリンダ。

侵入者を拒むように暗く作られたと言うが、レジーナが歩を進める度に壁のランプに灯りが灯り行く先を教えている様だった。

躊躇うことなくどんどん進み、やがて真っ黒な闇のように真っ黒なドアが現れた。

扉は両開きで縦に細長い円柱状の棒が着いていて、それが取手の様だ。鍵穴らしき物はなくただ取手を引けば簡単に開きそうだった。

だが、そこから異様な妖気が気配を隠すことなく溢れている。気をしっかり保っていなければ自然と身震いしてしまう、知らぬ間に恐れが涌き上がり恐怖の闇に堕ちてしまいそうにな、とても嫌な気配が辺りに立ち込めていた。


「レジーナ様、さあお開けください。」


リンダは口角を持ち上げニヤリと笑うと後ろへ下がった。


レジーナは生唾を飲み込むと一度大きく息を吐き両開きの扉に取り付けられた冷たい取手に手をかけ、もう一度だけ深く深呼吸をする。そしてゆっくりと取手を引いた。





が、取手は動かない。再度力を入れるも開かない。

ガチャ、ガチャガチャ、ガチャガチャガチャガチャどんどん激しく取手を引っ張るレジーナ。


「なぜだ!なぜ開かぬ?! 開け!開け!開けーーーー!!」


髪を振り乱して一心不乱に取手にしがみつき開けようとするレジーナをリンダが後ろから抱き付き止めた。


「もうお止めください!!どうやら女王を殺したのは早計でした。申し訳ございません。きちんと力を相続してから殺さないといけなかったですね。」


「ふふふ、きちんと相続か……。女王の寿命を待つ気はさらさらなかったし、まあ良い。……、デリンダ様どうすれば良い?」


【血族を殺めた者に神が力を渡すと思うか?時期女王はそなたの妹が相続したと考えるのが定石だろう。】


「確かに……。」





数時間で城を元の状態に修復させるとレジーナは不安で集まってきた民衆に城のバルコニーから、声高々に「自分が新しき女王だ」と宣言をした。


城の周りに集まった民衆は、城の中にいた者から漏れ聞いた、【女王を殺してその地位を手に入れた】事実に怒り悲しみ歓迎的な雰囲気は皆無、レジーナに対して批判的だった。

レジーナの力を知っている兵士や側近達が慌てて拍手や声援を送り民衆にも拍手をする様に煽っていた。


「おっ、おかしいだろう!!女王陛下を殺してその地位を手に入れたんだぞ!神がお知りになられたらきっと、きっとこの国は……、いや、あんたに神の裁きがっ、ぐへらっ!」


「きゃーーーー!!」


レジーナに向かって叫んだ男はいきなり喉が裂け首がぶっ飛んだ。無惨な姿で生き絶えた男から少しでも距離を取ろうと押し合い辺りは騒然となった。


「神はすでにご存知だろう。未だ天罰とやらも落ちてこぬ。果たして神が味方しているのは前女王と現女王のどちらであろうの?」


「私がこの国の女王である!不満ならいつでも相手をしてやろうぞ?徒党を組んでやってみるが良い。だが、必ず私を仕留めよ、さもなくば……、見るも無惨な最期をお前らとその親族、友人、同僚に至るまでこの女王が直々にくだすことになるだろう。」


誰もが凍りついた。なんという殺気であろうか?唾を飲み込む音さえも出すのが憚られる。我々は最早絶大なる女王の力の支配という牢獄に囚われたのだ。


「世界中がこの国の女を狙っている。国の女は全てラナンティア国が管理する。女は子供であろうと赤子であろうと城の中に入れ、男は今すぐ家に帰りいつも通りの生活を送るのだ。」


ザワザワしていたが城門が開くと兵士が出てきて次々と女達を家族から引き離し半ば強引に引っ張って行く。


「ダメだ止めてくれ、妻を連れていかないでくれ!お願いだ!」


「あなた心配しないで、すぐに戻れるわ。」


至るところで悲痛な声が上がり小競り合いがあちらこちらで始まるがレジーナに落ちた一筋の落雷で誰もが無抵抗となった。

雷が直撃してレジーナの体から煙が上がっているのに当のレジーナは杖を天に掲げ、再び雷を呼び集めて自ら避雷針となり雷に打たれた。


「速やかに行動せよ。」


レジーナがひとことそう言うと皆諦めたように無言で動き始めるのだった、

戸籍を確認しながら城下町の女がレジーナの管理下に入ると城に常駐している爵位持ちや兵士、従者に至るまで全ての男は不要と言わんばかりに城から放り出し、城庭に集められた女達に向かって叫んだ。



「世界の薄汚い男どもが我が国の美しく聡明で貴重なそなたたちを子供を生むだけの道具としてその手中に納めようと狙っている。私はそのようなものから大切なそなたたちを守るために世界で一番安全な城に入ってもらった。いきなりのことで不安に思うだろうがしばらく我慢して欲しい。とても有能であった前女王と同じようにそなたらを守る自信が今の私にはないのだ。」


ここでレジーナは女達の見回した。誰もが不安そうな顔をしているが先ほど城の外にいた時の様な祖母殺しを責めるような目は見られない。

雰囲気にのまれた若い娘が涙ながらに叫んだ。


「私たちはレジーナ様のお力を信じております。前女王はここまでのことはしては下さらなかった!私たちのために城を開け、入城をお許し下さりありがとうございます。私たちは新しき女王に従います!私たちはただ守られるだけの存在ではありません!男から我が身を守り仲間を守ります!ラナンティアの男も我らの敵である!」


一人が叫ぶと次々とレジーナに賛同する声が上がり出し、やがてそれは称賛の言葉に変わり「前女王は無能であり死んで当然だ」と憚ることなく口に出始めた。


【リンダよ、お前もなかなかの役者よの。レジーナへの負の感情が一気に逆転したぞ。】


「役者ですって?!デリンダ様失礼ですわ。私は本心を叫んだだけですよ?」


「小汚ない男の手に落ちる位なら死んだ方がましだ!男は消えろ!男は消えろ!男は消えろ!」


連れ去られた女達を心配したたくさんの男達が城の壁に張り付いていたが、中から異様な声を聞き耳を疑った。


「男は消えろだって?!ふざけるなー!誰のおかげで飯が食えてると思ってるんだ!お前らは黙って家事と育児をしていればいいんだ!」


そうだそうだと塀の外から中の女達に向けて罵声があがり、結果城の壁を挟み男と女が激しく言い合い罵り合うというおかしな状況が生まれた。


【さて、この場は本人達に任せて大いにいがみ合ってもらおう。我らは新しい別の女王の力を摘みに行こうぞ。】


「そうね、エルーカ様が力に目覚めてしまう前にその芽は摘み取ってしまいましょうね。レジーナ様参りましょうか?」


「エルーカがどこにいるか知っているようだな?」


「大体の想像はついております、我が家の資料には王家の事ならなんでも記載がございますゆえ。少し歩きます、腹ごしらえしてから参りましょうか……ね。」


顔を見合わせると微笑み会う二人。大広間からひっそりと三人の若い女が消え去るが誰も気付かない。数分後女の脱け殻を燃やし最期の白い煙と引き換えにレジーナの美しさに磨きがかかる。


「案内を頼む。エルーカを迎えに行く。」


そう言い放つと鋭い目をして二人は神の祠へ向かった。



ーーーーーー



エルーカは白い扉の前に立っている。ここまでどうやって来たのか良く覚えていない。浮遊感があり風船が風に吹かれてふわふわ流れ行くが如くここにたどり着いた。ここは風の吹き溜まりでありゴールなのだろう。

白い扉はただただ白いだけでなんの装飾もない。中からはとても温かい気配がしている。

それだけでも今のエルーカには開けるに十分な理由となっている。

扉に近づき手を伸ばそうとした時、勝手に扉は開く。エルーカは一度後ろを振り返ると意を決したように口を固く閉じるとそのまま扉の奥へ入って行った。



中は暗い、ごつごつした岩を掘った洞穴の様に見える。ただ、その岩も真っ白だ。


「おばあさまはどうして私をここへ飛ばしたのかしら?……っ!おばあさま!あっ!あぁぁぁぁぁぁ!」


エルーカは祖母の最期の姿を思い出し両手で頭を抱えるとその場にしゃがみこんだ。

嗚咽を漏らしながらもひたすら叫んだ。そして喉が限界を越え空気の漏れる音しか出てこなくなると力尽きたようにバタリと横ばいに倒れこんだ。

祖母がレジーナに殺された。嘘だ嘘だ。涙だけは止めどなく溢れる。私のことも殺そうとしている。なぜこんなことに?

レジーナ……、許さない!!絶対に許せない。唇を強く噛み血が白い肌に沿って流れ落ちていく。

拳を強く握り締めお腹のそこから大声で叫んだ。

すると体の中から何か分からない熱い力が周りの空気を吹き飛ばす様に弾け飛び出した。

だが力が飛び出したのはほんの一瞬だけで先程まで熱かった体の熱は嘘のようになくなり倦怠感だけが残っていた。


「復讐心に取り込まれてはなりません。しっかりするのです、ラナンティアはあなたが守るのです。」


「私が?ふふふ、どうやって?私には何の力もないのに。その事はあなたが一番分かっているはずよ、おばあさま。」


聞きちがえるはずのない祖母の声。エルーカは立ち上がると目の前に立っている祖母の胸に飛び込むがスッと祖母の体をすり抜けてしまい、勢いのあまりそのまま前へ倒れ込みこけた。

えへへと泣き笑いながら再び立ち上がると今度はゆっくり祖母に近付き、触れられないと分かっているがその体に自分の手や体を合わせ抱きすがった。

祖母も触れられないがそっと腕を回し抱き締めた。


「一瞬、おばあさまはご健在であったと思ったのですが……、うっ、うえーん、本当にお亡くなりになられたのですね。ううう。」


「エルーカ……、ごめんなさいね。あなたには寂しい思いをさせてしまうことになったわ。それに、とても、とても重大な責務も負わせてしまう。」


「重大な責務?」


「レジーナを……あなたの手で討ち取り再び神の守護でラナンティアを守る事です。」


「でも……、私にはそんな力も資格もありません。私は神に見放された子、ラナンティアには不要の王女。私がいなければ、私が双子の片割れとして生まれなければレジーナはあんな事にはなっていなかったかもしれない、私が…偽物の王女の私がレジーナの人生に割り込み不幸にしてしまったのよ。」


「それは違うわ。あなたは正真正銘ラナンティアの王女です。」


「どうしてわかるの?」


少し声が大きくなってしまった。「それはね」前女王はそう言うとすぐ後ろにいつの間にか表れていた扉の取っ手を後ろ手に掴むとそっと扉を開けた。


青白い光が辺りを包む。祖母が手招きをしゆっくりと近付くエルーカの手を取るととても冷たい祖母の手に触れた。驚いたが二人はニッコリ微笑み合うと中へ入って行った。


そこは白い壁や天井や床を青白い光が優しく照らしている。目を凝らさないと見えないほど薄暗かったが祖母が手を引いて進んでくれる。少し歩くと丸い形の一段上がった壇上がある。近付く度に青白い光が明るく鮮明になってきた。

人の形だと分かるようになった辺りで祖母は手を離し「ご挨拶なさい」と言った。

「誰に?」と尋ねたが祖母は3歩程後ろへ下がって頭を下げている。壇上の方へ振り返り前へ進み出て膝を折り挨拶を交わす。


「ラナンティアの王女、エルーカ=ラナンティアです。はじめまして、お会いできて光栄です。」


「はじめましてエルーカ、随分とたくさんの重荷を背負っているようですね、私の大事な子。あなたにはたくさんの助けが必要なようです、こちらへ来なさい。」


人の形の光が手招きをした。壇上へ登るとエルーカはハッとする。その見覚えがある人物は地下にある初代女王の像にそっくりだった。


「初代女王陛下!!」


驚いて1歩下がり深々とお辞儀をした。初代女王はエルーカの頭に手を置き優しく微笑むと掌を何か掴むように丸めた。

次にエルーカに顔を上げるように言うと掌を広げ中身を見せた。


「カエル?」


「あなたの頭の中で囁いていたのはこの者です。」


「なぜ私が頭の中からの声に悩んでいるとお分かりに?」


「レアーナガエルに聞きませんでしたか?全ての出来事を共有していると。」


なるほどそれで取り出してくれたのかとお礼を言おうとしたが初代女王は驚く事を言った。


「1つ目はこの子でいいわ、二つ目は誰がエルーカに入る?」


「えっ?私に入る?もしかしてまた私の頭にカエルを戻すのでしょうか?」


「その通りです。あなたより力の強いものしか入れないので安心なさい。」


今まで自分と祖母と初代女王しかいないと思われていた空間にいつの間にか60人位の人の光が集まっていた。

壇上の下に集まった者達、その内の一人は前に出ると、


「さあ、皆様方力比べをいたしましょう。」


一言だけ言うと60人の人型が一斉に激しく輝きだし、それに共鳴するようにエルーカの体が熱くなり光が溢れ出した。


「なっ、何?体が熱い。あああ!」


エルーカの体から熱が放出し毛穴という毛穴から青白い光がたなびいている。一斉に発光していた60人程の人達であったが、一人、また一人と光を失いやがて初代女王以外全員光を失い辺りはまた薄暗くなる。


「これは異な事、全く魔力を感じなかったというのに実際は恐ろしいほどの魔力を秘めておる。我々では役不足の様だ。誰1人エルーカを超える力を持っておらぬとは。初代様はこの祠をお守りするのが神とのお約束……。」


「まだ一人だけおるではないか?」


「でっ、ですが初代様!あやつは。」


「では誰もつけずにエルーカを送り出すのか?」


「いえっ、ですが……。」


「エルーカ、そこの扉の先にそなたの力となり得る者がいる。そなたの力でその者を起こし力を貸してもらいなさい。ただし、中途半端な気持ちでおるとその身、食い破られますよ。しっかり気を引き締めてお行きなさい。」


訳もわからず扉の前へ立たされ進めと促された。

エルーカは何がなんだか分からぬままその扉を潜ると奥へ進んだ。先ほどと同じようにごつごつした岩を削った洞穴が続く。


「はあ、どこまで続くんだろ?気を引き締めるって、身を食い破られる?ライオンでもいるのかしら?でもライオンなら食いちぎるが正しい言い方よね?」


そうこう言っている内に壁にガラスのような物が張られている場所を見付ける。近付くとそれはガラスではなく厚い氷だった。氷の暑さは1メートルはありそうだった。その氷の奥に色が見える。色白の肌の色、銀色は髪の色、薄い赤は唇の色、深い紺色は服の色。人の様だ。


良く顔を見ようと近付き覗き混んでいると目が開いた気がした。はっとして顔を氷から離し今度は目の辺りをまじまじと見つめていると、さっきまで1メートルはあったであろう氷が一瞬にして溶けてしまいそこからとても美しい、しかしゾッとするほど冷たい印象の女性が両腕を頭の上へクロスさせ伸びをし、欠伸をしながら出てきた。

エルーカはなんと声をかければ良いか分からず取り合えず最敬礼の姿勢を取ると自己紹介を始めた。


「はじめまして、偉大なるお方、わたくしが無知ゆえにあなた様の尊きお名前を存じ上げず……、ただただ平にお詫び申し上げます。よろしければお名前をお聞かせ頂くチャンスと拝謁の許可を頂けますればこの上なき幸せに存じます。」


今まで使ったことのないような自分なりの敬語を使い相手の出方をみる。


いきなり体が吹き飛んだ。壁際まで飛ばされ盛大に腰と尻を打ち付け身悶えする。


「そなた、妾の名を知らぬとな?」


切れるのではと思うほどの冷たい声だった。名前くらい教えておいて欲しかった!ここに一緒に住んでいるのだから絶対にこの人の名前を知っているだろうし、名前を知らないからと吹き飛ばすような人間だって事も承知しているはず。

くそ~と唇を噛みながら初代女王を恨めしく思う。


「そなたが先ほどバカみたいな力を放った者か?」


「えっ?私?いいえ、私にはそのような力はございません。」


「ほう、そなたではないと申すか?……。ならば死ね!」


目が光ったかと思うと赤い光線がエルーカの心臓や眉間など身体中さまざまな急所となる場所を貫こうと急接近している。


「うわっ!」


エルーカは光線が放たれたすぐ後に痛みに備えて体に力を入れていた無意識にだ。突然攻撃してきた女は当然今の一撃で死ぬものと思っていたのか、再び氷が張っていた元の場所へ戻る為にエルーカに背中を向けていた。嫌な殺気を感じて振り返り目を大きく見開き、すんでのところで戻ってきた自分の出した赤い光線を片手で打ち払った。


「ほう、妾の攻撃をそのまま返すか?」


値踏みするように目を細めエルーカを見やる、口許は緩んでいる。


「これはおもしろい。どんな力を使ったのだ?魔力の壁もどんなに強い盾であれ貫通する邪眼光線を跳ね返すとは。」


「わっ、私、何にも!!あなた様に跳ね返すなんて!」


「無意識と申すか?」


「絶対防御。」


ジャリっと音がし反射的にそちらを見ると初代女王が立っていた。

【絶対防御】とは、どのような攻撃であれ防ぐと言う反則的なスキルの様だが実の所これが本当に発動してしまうと全てのものに触れられなくなると言う。

自分を中心に膜が張り地面にしか接触てきなくなるので、例えば好きな人に手を差しのべられてもその手を掴むことが出来ない。一度発動してしまうと二度と膜はなくならないとか。


エルーカは無意識に絶対防御の片鱗を見せたが、意識して発動させるのは危険なのだと教えられた。ただ、魔力が皆無の自分になぜこの力が働いたのかそちらの方が知りたかった。


「初代、この子の面倒は妾が見よう。よろしいか?」


「ペチカ、頼めますか?あなたが自ら守護を申し出るとはね、ふふふ、長き刻のおかげ……かしらね。

それで、守護女神になる上で守るべき事柄は分かっいますか?」


「ええ、現女王を決して死なせない、どんな頼みも聞いてやる、神との約束を守る。こんな所かしらね。」


「……、この子を守れますか、ペチカ?」


「このペチカの名にかけて。」


そう言うと初代はしっかりと頷きペチカに触れた。すると今まで見えなかった腕と足首にかけられていた手枷と足枷がガチャリと音をさせ床に落ちた。手首を擦りながら首をポキポキ回すペチカを正面から見ていた初代は、ニヤリと嫌な笑い方をしながら近付いてくるペチカに動くなと制した。

眉を吊り上げ怒りを露にしたペチカだったが、ドゴーンと言う音と共に天井から落ちてきた何かに攻撃を仕掛けた。


「初代早くやれ!結界が破られたぞ!!何なんだこの力は!?」


初代はエルーカの元へ飛んで行くとエルーカの指に自分の真っ赤に輝く宝石のついた指輪をはめ、長く尖った爪をエルーカの人差し指に突き刺し血を溢れさせた。

次に応戦しているペチカを魔力で煙に変え掌に集めると、とても大きく精密な魔方陣を出し二人を魔方陣の上に乗せた。


「ラナンティアの未来を頼みましたよ。」


そう言いうと魔方陣は赤く光りだし消え去ってしまった。


【また逃したか。仕方ないここも大掃除するか。久しいな初代女王よ。】


「デリンダ、まだこの世に未練があったのですか?」


「初代?初代女王なのか?」


【そうだ、レジーナ。ご先祖様にきちんとご挨拶を。】


「レジーナ様に命令しないで!」


「ふふふ、随分と賑やかなのね。レジーナ、ラナンティアの血を裏切るとは。そなたの罪は大変に重い。ペチカ以上にね。」


「ペチカ?ペチカ=ラナンティア……。ラナンティアの歴史上最も残忍で罪深く国中の民を苦しませ抜いた絶対暴君。それより上を行ったか。光栄ですよ初代女王陛下!!」

















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