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カエル王女と紅き土偶騎士  作者: エルーカ
16/19

王女の獲物2

陽も暮れかけると続々と王宮のホールに着飾った招待客が集まった。

貴族、騎士、街の名家の家族、先の戦争で功績をあげた兵士や王宮にとてもおいしい野菜を納入する耕作人までが招待を受けていた。


ホールはきらびやかな雰囲気で包まれており女王の登場を待ちわびていた。

磨きあげられたシャンパングラスに淡いゴールドのシャンパンが注がれ招待客に振る舞われた。


ホールの至る所で和気あいあいと談笑がなされている中、王族のみが使用する扉が開かれそこから胸元と背中がざっくりと開いた美しい透き通るような紫色のタイトなドレス姿のレジーナが堂々とした足取りでホールの中へ入ってきた。


ホールにいた男はレジーナに気が付くとあまりの美しさに見惚れグラスを運ぶ下僕にぶつかったり、自分の恋人の目の前でレジーナをガン見しビンタされたり、思わず持っていたグラスを落としたりした。


歩みを進める度に人が避けレジーナの為の道ができた。

ホールの中央まで来る頃には名だたる貴族達がレジーナを取り囲み次々に話しかけた。


「レジーナ殿下、お久しぶりでございます。私をお覚えでしょうか?サザムランド州、スフレー=ロナウナル辺境伯です。お年を召す毎にますますお美しくなられて!!もう私の目は貴方様しか移してはくれないでしょう。」


「国境付近の領主であるな、他国と接している為そなたには重責を課してしまい申し訳ないが、今後も国の為に貢献してください。」


「あっ、ありがたき幸せ!!そのような労いのお言葉を賜れるとは!……。」


スフレーは感激のあまり顔を真っ赤にした。スフレーの領地は好戦国ナダルサンジェとの国境である為、隣国の動きに備えて兵士を多く抱えていた。女王の結界があるとはいえ侵入を許せば国始まって以来の大失態となる。その責務の重圧に潰されまいと常に鍛練と努力を惜しまなかった。それ故他の貴族よりも強い権限や力が与えられていた。


「レジーナ様!」


突然大きな声がしてそちらを見やるとセルディナ卿が青白い顔で近付いてきた。一瞬我が力にしてしまったマリアンヌの件がバレたのかもとギクリとしてしまったが、何食わぬ顔をして対応した。


「セルディナ卿久方ぶりですね。蒼白な顔をされているがいかがした?」


「それが!マリアンヌが帰らないのです!!」


泣き叫ぶ様に答えるとセルディナ卿は床に崩れ落ちた。


「……、セルディナ卿は体調不良のご様子、誰か別室に連れていき休ませてあげなさい。」


「畏まりました。」


下僕が二人近付くとセルディナ卿の両肩を支えホールを出ていった。


「マリアンヌ嬢が家出?これはまたすごいスキャンダルですな。」


「セルディナ卿の心中お察しします。」


「あの男好きのマリアンヌ嬢はどちらの殿方の別宅においでか賭けをしますか?」


「マーシャル卿も人が悪いですな、セルディナ卿に申し訳ないですよ?しかしながら多分クヌート副騎士団長ではありませんかな?」


「そこの二人!王族に対しての暴言は許しません、女王陛下のお耳に入ればさぞお悲しみなされますぞ!そなた等の忠誠心は誠のものなのだろうな?」


「もっ、申し訳ありません、失言でした。我々はラナンティア王国に生涯の忠誠をお誓いしております。レジーナ殿下。」


「レジーナ。」


レジーナのすぐ後ろで威厳のある声がした。振り替えるとゴールドのとてもゴージャスなドレスに身を纏った祖母のラナンティア女王が立っていた。


「今日の主役はどうやらあなたの様ね。」


クスクスと笑いながら女王が話すとホール中の人間が女王の方を向きお辞儀した。

レジーナも軽く腰を折りお辞儀すると恥ずかしそうに答えた。


「ご冗談を。私などが主役だなんて、ですが目立つような振る舞い申し訳ありません。」


「いいのですよ、あなたに元気が戻り安心しているのよ。」


「陛下……。エルーカ!久しぶりね。」


レジーナは愛して止まない妹の姿を見付けると女王との話もそこそこにエルーカに話しかけていた。


「レジーナ、本当に久し振り。」


「エルーカどうかしたの?体調が優れないの?」


「私は大丈夫よ、レジーナが元気になって良かったわ。あなたはこの国の宝だから。」


エルーカの様子がおかしい。池にドールハウスを作ってからだろうか?あのドールハウスは何の為に作ったのだろう?

その後もエルーカはぼんやりしたまま聖誕祭を過ごしていた。

レジーナはエルーカと話がしたかったが次から次へとやって来る殿方の相手を余儀なくされイライラが募っていた。


パーティーも終盤に差し掛かり、レジーナとその後の約束を取り付けようとする男達に「王族は誰とも交わらないのが習わしである!」と、一括し退散した。


すでにホールから消えていたエルーカを探して数ヵ月ぶりに城内を歩いた。

城はシンと静まり返っている。


エルーカのエメラルドグリーンの床に届くほどの長い髪が風にたなびいていた。バルコニーに体を持たれかけ肘で顎を支えて天を仰いでいた。


「エルーカ。」


「レジーナ?パーティーはどうしたの?主役が抜け出したらまずいんじゃないの?」


「私は主役じゃないわ、今日はお婆様の誕生日なのよ?」


「あら?あなたの快気祝いも含んでいるのよ?」


「そうだったの……。お婆様も仰って下されば良いものを。」


「……。」


「エルーカ、何を悩んでいるの?」


「……多分、あなたとは違うものよ。若さや力は私には不要だもの。」


エルーカは何の気なしに言っていたのかもしれない、しかし罪悪感のあるレジーナはこの言葉に驚いた。


「エルーカ……、何を知っているの?」


「えっ?なぁに?」


二人に長い沈黙の時間が訪れた。レジーナはエルーカの心を読もうと見つめたが愛らしい妹の顔からは何も分からなかった。


「……もう寝るね、レジーナ。また別宅に遊びに行くわ。あっ、そうそう地下室があるそうね。地下室だなんて神秘的!悪いこともたくさんできちゃうね。

それに、最近メイドがよくいなくなっているって話だけど、悪い化け物が来たら地下牢に閉じ込めたり、メイドを匿ってあげたりもできるわね。


レジーナ?


顔色が良くないわ?あなたも早く休んでね。おやすみ。」


妹がいなくなると壁に手をつきズルズルと床へ座り込んだ。

あの子は私がしたことを知っている!

固く目を瞑っていても涙はほんのわずかな隙間をぬって出てくる。


「どうして……。どうやって知り得たの?」




別宅にふらふらしながら戻ると一階のリビングのカウチソファーに崩れる様に寝そべった。侍女かやって来てレジーナのドレスを脱がそうと声をかけた。


「今日はもういいわ、あなたはもう休みなさい。」


そう言って侍女を追い出した。

それと入れ代わるようにしてリディアが入ってきた。


「パーティーはいかがでしたか?」


「うん……、リディア、」


「レジーナ様、その名前では呼ばない事に決めましたよ?私は今はリディアの姪のリンダです。そしてエルーカ様の侍女。」


エルーカの名前が出るとレジーナは肩をビクンと震わせた。


「今日は疲れたからもう休む。おやすみリンダ。」


「おやすみなさいませ。」





「お心が乱れていらっしゃる。」


リディアことリンダはエルーカの侍女待機部屋へ戻る最中デリンダ様へ語りかけた。


「それはそうだろう、妹エルーカに一番知られたくない事を知られてしまったと思っているのだからな。それにしてもエルーカの侍女になりたいと言った時は何事かと思ったが、エルーカに事実は伝えず上手い事レジーナの猜疑心を煽る台詞を言わせられたものだな。お前は本当に賢い。」


「大変なのはこれからですよ。サポートよろしくお願いしますね。」


「何とも人使いの荒いことだ。」


「人ではないですよ、咎落ちの元神様っ。」




翌日から度々レジーナは王宮へ顔を見せるようになった。

美しいレジーナを城中の者が賛美した。相変わらずエルーカはぼんやりしていたが、レジーナを見付けると近付いて地下室の話を聞きたがった。





ーーーーーー


「エルーカ様、私はリンダ=エストラーニアと申します。先日までいた侍女の実家に不幸があり国に帰りましたので、これからは私がエルーカ様のお手伝いをさせていただく事になりました。どうぞよろしくお願いいたします。」


「あら?この方……。ねえ?私とあなたって似ているわね?」


「私と王女殿下が似ているですって?滅相もございません。」


「エルーカ様!そのようなお遊びはもうお止めくださいまし。私はエルーカ様の為に申しております!!」


「エルーカ様、なりません!独り言を言うようになったらお終いです!!」


「リンダはなかなかうるさいわね、私こんなに叱られたことがないわ。」


「まぁ、エルーカ様。私の叔母上はレジーナ様に大変厳しかったそうですよ?」


「あなたのおばさまはレジーナの侍女だったの?」


「いいえ、叔母はレジーナ様の乳母でした。」






ーーーーーー


「エルーカ様、レジーナ様が別宅に引きこもられました。皆がレジーナ様がお老けになったとか、魔力が落ちているとか噂しております。おいたわしや……。連戦でお疲れになられているだけでしょうに。」


「エルーカ様!メイドがまたいなくなったそうですよ!地下室があれば魔物が来ても連れ去られずに済みましたものを……。捕まえて牢屋に入れたり、メイドを匿ったり。」


「エルーカ様、レジーナ様の別宅には地下がありとてもたくさんの本があるそうです。……、でも地下室があるのは秘密なんですって!!でもエルーカ様にならレジーナ様も地下の図書館に入ることを許して下さるかもしれませんね。」


「そんなに本がお読みになりたいのでしたらレジーナ様の地下図書館に!ですが地下室の事は秘密ですので私から聞いたとは仰らないでくださいね。」






ーーーーーーー


「ダメだわ、レジーナは地下の事を話すと話をそらすの。きっと私なんかを入れたくないのだわ。」


「私がご案内致します。叔母から聞いて入り方を知っておりますゆえ。所で私が地下の事をお教えしたとはレジーナ様には仰ってないですよね?」


「まぁリンダ!勝手に人の家に入るなんていけないことよ?



ええ、もちろんあなたから聞いたなんて言ってないわ。」





ーーーーーー


「レジーナ、最近城内でたくさんのメイドや侍女が行方不明になってます。あなたは別邸ですが被害はありませんか?



一度別邸に足を運んでみようかしら?」


「私の所ではそのような事はありません。あと、別邸は女王様がお越しになるような場所ではございません。」


「私が行くような場所ではない所で生活しているのですか?」


女王はクスクス笑った。レジーナは顔を真っ赤にして拳を強く握った。


「あなたがイヤと言うのであれば無理には参りませんが。」


「イヤなどとは申しておりませんっ!なぜエルーカも女王陛下もあの家の事ばかり気になさるのですか!!私はエルーカの侍女にもマリアンヌにも何もしてませんっ!」


知らぬ間に語尾が強くなっていた。女王はレジーナが激しい口調で否定した事に青ざめた。「エルーカの侍女」と「マリアンヌ」に何もしていないとは?なぜその二人の事だけ否定したのだ?

いつも冷静な女王が青ざめ鋭く見つめてきている。

その視線に耐えきれずレジーナは逃げるように別宅へ戻った。



「もうお終いだ、女王様はきっと勘づかれている。」


ガタガタと震える体を自らの腕で抱き締め部屋の隅っこに座り込む。私はこれからどんな処分が待っているのだろう?

罪を侵した私は処刑された後、神の祠へ行けるのだろうか?

生きる為には仕方がなかった。ああしないと私は間もなく死んでいただろう。

人は生きる為に生命を頂く、私がした事はそれとどう違うのだ?

動物であれ植物であれ人であれ、ただの生命だ。私は感謝しながら人の生命を頂いただけだ。何がおかしいのだ?


「リンダ!おるか?」


「はい、ここに。」


「女王とエルーカに私たちの所業がバレたようだ。ただの食事と変わらないと思っていたが……どうやらあちら側はそう思ってはいないようだ。」


顎で窓の外を指す。王宮から数人の近衛兵がこちらにやって来ていた。


「あらあら、しかし分かり合えないのでしたら、こちらの言い分を通すのみですレジーナ様!!」


嬉々として話すリンダを目にし恐ろしくも頼もしく思えたのだった。


「勝った方が正論であり正義です!参りましょう、ラナンティアの新しき女王陛下!



今こそレジーナ様にご恩返しをするのです!陛下に続きなさいっ、そしてその名の元に戦い、新しき女王を命に変えてもお守りするのです!!」


数名の侍女や女の護衛兵が高々と返事をすると我先にと表に出て扉の前に一列に並び、王宮からの招かれざる客人を出迎えた。遅れてリンダも表に出てきて近衛兵長に声をかけた。


「これはこれは近衛兵長、今日はいかがなされました?こちらはレジーナ殿下のお住まいだがそなたらは何の様で参られた?」


ガチャと鎧の擦れる音がした。一人の近衛兵が怒りを露にし一歩前へ踏み出すのを近衛兵長が止めていた。


「新参の侍女風情がこの国の近衛兵長になんて口を聞いておるのだ?奥に控えてろ!」


「あらあら、新参って事を忘れていたわ。」


リンダはクスクス笑うとレジーナを呼んだ。ゆっくりと落ち着き払った足取りで外に出てくると魔法でドアに鍵を掛けた。ドアが青白く輝きやがて家全体を覆った。


「さあ、女王陛下の元へ参りましょうか?」


そう言うとスタスタスタと近衛兵達を置いて先に歩き出した。



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