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カエル王女と紅き土偶騎士  作者: エルーカ
11/19

相対3

エルーカは明るく保たれた自分の部屋でエメラルドのネックレスを目の位置まで持ち上げ眺めていた。

あのレアーナガエルが抱き付いた時にポケットに入れたのだろうか?なぜ、こっそり入れたのだろう?

また明日にでも聞きに行ってみよう……。


部屋は朝まで暗くなることはない。魔法で常に明るくされている。

母の遺体に抱き付き、まだほのかに温かかった体が徐々に冷えていく様をまざまざと体感したエルーカは死の恐怖に怯えきっていた。

特に夜を怖がった。


レジーナは毎晩エルーカの部屋に来ては同じベッドで寝た。

エルーカが寂しがらないように、泣き明かさないようにと、でもエルーカは知っていた。レジーナが誰よりも寂しがり、泣き明かしているのを。眠りは浅く何度も目を覚ます、レジーナも目を覚ましており、泣いては私を優しく強く抱き締めたがその度に私は眠っているふりをした。


レジーナは次期女王に名指しされている手前、母の死を何時までも引きずるわけにはいかず、平静を装っている。実際は私なんかよりレジーナの方が母を強く求めている事を知っている。

だから母に会える方法があるのなら、私が突き止めてレジーナと母を会わせたい。

ぬか喜びさせたくないから確実に会わせられるまでは極秘で進めようと決めている。


エルーカは鏡台の前の椅子へ腰かけエメラルドのネックレスを首へかけた。エメラルドの輝きが増したように見える、気のせいかと思ったのだが輝きはどんどん増していき目を開けていられなくなった。

目をつぶっていても強い光に目の奥が痛くなり、更に強く目を閉じた。

徐々に胸の辺りが暖かくなり目の痛みも消える。そっと目を開けるが強烈な光だったせいで、しばらくまともに開けていられずパチパチと瞬きを繰り返した。

そうして、辺りがきちんと見える様になって鏡越しにエメラルドを見ると、そこにはエメラルドのネックレスはなかった。


「えっ?ないっ!」


先程まであった場所へ手を持っていくがやはりなかった。

光を出し過ぎて溶けてなくなったのだろうか?

どこかに弾けとんだのだろうか?

辺りを探してみるがどこにもなかった。


がっかりした気持ちでベッドに入り、カエルが魔法で作り出したであろう幻影のネックレスを遊び感覚で仕込むという、少し後味の悪いサプライズに苦笑し眠りに就いた。




その夜エルーカは朝までまだ相当時間があるだろう星が瞬く時間に目を覚ました。

辺りはしんと静まり返っているがどこからか人の話す声が聞こえてくる。意外に近い距離で聞こえているはずなのだが周りには何もいない。

キョロキョロしても声の主は見えないので「誰かいるの?」と声をかけたが返事はない。耳をそばだてて良く聞いてみる。


「……て……、…………し……、……」


「だ……、だ……て、」


「もっと大きな声で言って!」


「だ……て、こ……だ……、だしっ…だして!」


だして?


「ここから出して!って言ってるの?どこにいるの?出してあげる、とこ?」


ふとんをめくり、枕を持ち上げ、ベッドの下を見ても何もない。

声は段々小さくなる。


「どこ?ダメ!諦めないで、もっと叫んで!」


「ここ!」


その時エルーカはハッとした、声は頭の中から聞こえていた。

とうとう皆が言う様に、出来損ないの私は頭がおかしくなってしまったのだ。

ヘナヘナとその場に座り込み頭を床に付けるとふふふ、と笑った。


しばらく床に転がっていたが床に触れた場所が痛くなってきたので立ち上がり鏡の前に立つ、すると今まで見えなかった物が目の前に表れる。


「何これ?」


鏡越しに見ている自分の顔の辺りにに黒い文字が浮かび上がっている。それは【カエル】と書いてあるだけだった。

【カエル】?なんだろう?私がカエルってこと?


もう人でさえなくなったんだ……。





ーーーーーーーー



レジーナも自室で眠れずにいた。

世界情勢が女子出生率低下により益々悪くなる一方で、ラナンティアの減ることなく生まれてくる女子や豊富な資源を狙い友好関係を結んでいた国々も内密に、または公に攻めはじめてきていた。レジーナが戦場に立つ機会も益々増え肉体的にも精神的にも疲弊していた。

それは尽きることなく溢れる魔力にも如実に表れていた。

魔法は詠唱してから出るものだがレジーナは無詠唱で同時に複数放つ事ができその威力も激しく範囲も広範囲だった。

しかし、その魔法が発動しないことが増えてきていた。無詠唱なので誰にも気付かれてはいないが、明らかに戦力が落ち、敵の殲滅に時間がかかっていた。


「疲れているからだろう……。」としっかり休んでみたり、体力を付けるための食事や運動をしたり、魔力に良いとされる実を侍女にこっそり用意させたりしたが回復した様子はみられなかった。


「レジーナ様最近お疲れの様ですわね?お顔が一気に老けられた様に見えちゃって……。」


ある日城の掃除を担当しているメイドたちが話していた。

自分の顔は毎日見ている、老けたとは……、まだ18才なのに。

鏡の前に立ち自分の顔をまじまじと見てみると、本当に40才前後の様だった。

レジーナは鏡から目を反らさずにはいられなかった。


「あぁぁぁぁ!私はどうなってしまったのっっ!」


大声で叫ぶと頭を抱えうずくまる。その声を聞いた侍女が部屋へ飛び込んできた。


「レッ、レジーナ様!いかがなさいました?」


うずくまっているレジーナに慌てて近寄り両肩を優しく掴み体を持ち上げ顔を覗き込む。するとレジーナは侍女の肩を手で払い顔を背けた。


「レジーナ様?……大丈夫ですか?どこか傷みますか?」


侍女は今にも泣き出しそうだった。レジーナが声を出さずに泣いていたからだ。

王女でもなく、国が誇る最強のの魔導師でもなく、優秀な孫、娘、姉でもない、ただの一人の少女の姿がそこにあった。


妹を戦地へ近づけさせない為に人の死を采配する場所まで上り、必死に大切なものの為に戦い続けてきた。

殺めたものの数だけその業は自分の生を早める呪いとなったのだろうか?


「リディアを呼んで来て……。」


レジーナはかすれた声で侍女に頼んだ。目の前の今にも自ら消えてなくなってしまいそうな我が主を残して行くのを躊躇っていたが、侍女はレジーナにフワフワした毛布を優しく肩へ掛けると、音を出さずに駆け出し彼女の乳母であるリディアを呼びに行ったのだった。



リディアの部屋はレジーナの部屋と同じ階にあり、侍女の待機部屋の隣に異例ではあるが乳母用の個室が作られていた。

通常成人した王女の側に乳母の部屋は設けられないのだがレジーナの強い希望により配置された。


乳母はレジーナの様子がおかしいと聞くとすぐに駆け付け侍女を退出させると椅子に力なく腰かけているレジーナの後ろから優しく抱き締めた。


「リディア。私は一体どうしたのだろう。どんどん年老いていく。」


「誰もが年を取りますよ?このリディアももう60になります。」


「尋常じゃない速さなんだ。私はあと何年生きられるのだろうか……。」


リディアは腕を解くとレジーナの前に膝をつき、レジーナの顔を覗き込んだ。。

確かに数日前に比べると老いているのは明らかだった。


「大丈夫です、リディアが必ずレジーナ様の憂いをなくして差し上げます。どうか悲しまないで下さい。当てがごさいますゆえ少しの期間暇いただきます。」


そう言うと、リディアはレジーナをベッドへ連れて生き、まるで子供を寝かし付けるように腕の辺りをトントンと叩いて眠りへ誘い、眠ったのを確認すると頭を優しく何度も何度も撫でた。愛おしい王女、生まれたときにも立ち会い、乳母として任命され今日まで我が身より大切にお守り申し上げてきた。

世界の全てのものが消えてなくなったとしても構わない、だがこのお方だけはなくしたくない、レジーナ様こそが私の全てなのだ。


私の母も祖母も、その先祖も王家の乳母、或いはそれに近い要職に就いてきた。代々の王女様方にお仕えするのが当家の人生であり最高の喜び、王女の悲しむ姿は私たちにとっては一大事そのもの。

一刻も早く解決せねば……。


その晩王女の乳母は姿を消した。









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