プロローグ―――無能のオモイツキ
はじめまして
とりぶーーーーんです
処女作でございます
少しでも楽しんでいただけたら幸いです!
・プロローグ
_________________________________
「なあジローさんや、聞いてもいいか?」
雑草茂る街道、その道中のことである。
俺の悪友であるところのナナシ・ヨシノがいつもの眠そうな表情で俺に話しかけてきた。
癖のある黒髪と気怠げな目、濁った様な黒い瞳がとても特徴的な男である。
残念なことに長い付き合いだ。
だからこそ聞きたいことはよく分かる。
きっと俺と同じことを聞きたいのだろう。
さらに俺は空気が読める男だ。
「状況説明を求めての質問なら止めてほしい」
先読みした回答に思うところがあるのか、不機嫌そうに顔を歪めるナナシ。
「ジロート・ローンさん?この状況は?」
止めろと言っただろうが。
俺だって知りたいんだよ。
あとフルネームで呼ぶな。
今俺達は囲まれている。
そう、囲まれているのだ。
ゴブリンに。
世界最弱モンスターの名を欲しいままにしているゴブリンにだ。
しかも数えたら10匹はいるじゃねぇか。
「俺の目が狂ってなきゃゴブリンさんに囲まれてるように見えるんだが」
ガリガリと頭を掻きながら喋るナナシの言葉は気怠げだ。
状況の割りに落ち着いているように見えるナナシだが、顔が引きつっている様子を見ると結構まずいかもしれない。
そう、ゴブリンは弱い。
しかしそれは固体としての強さでの話だ。
人間ほど知性がないが、群れを作り独自の社会を形成するモンスターであるゴブリンは、ただの村人風情からすれば脅威以外の何者でもない。
人間の腰ほどサイズではあるが、その皮膚は人間より硬い。
身体能力で言えば若干ゴブリンのほうが高いくらいだ。
弱いといわれているのは、その知能の低さなのだが、やはり数がいると勝てる気がしない。
俺にとっても脅威でしかない。
俺の脅威ことゴブリンさんは、今まさに俺たちを狩ろうと方位網を形成しつつある。
このままじゃ天国まっしぐらだ、勘弁してほしい。
村から旅立って3時間で死んだら冗談にしても笑えない!
落ち着け。
落ち着いて整理するんだジロート・ローン。
とりあえず何故こうなったのか思い出せ!
◇
時は少し遡る。
「そろそろ一緒に冒険者にでもなるか!」
俺のその言葉に、教会の掃除をしていたナナシは酷く嫌そうな顔をした。
俺たちが住んでいるコント村にはローン教会という小さな教会がある。
そこは俺の住んでいる場所であり、ナナシが住んでいる場所でもある。
俺は所謂孤児だ。
俺の母親は18年前に、俺を身ごもった状態で一人でこの村に立ち寄り、俺を生んで死んだらしい。
そして俺はこの教会に引き取られたわけだ。
まったくもって意味が分からない。
何故こんな田舎にふらりと訪れたのか。
経緯が読めない。
きっと厄介ごとの末のことだったのだろう。
村の人間が教会に押し付けるのも頷ける。
因みに、俺の名前ジロート・ローンは神父に付けてもらった。
「…無能のジローと冒険者?」
「嫌そうな理由俺かよ」
掃除の手を止め、酷く眠そうな目をしたこの男こそ、口の悪さとやる気の無さではコント村随一の男・ナナシである。
こいつは数年ほど前に突然この村に来て教会に住み着いてる浮浪者だ。
「それだけじゃない、俺とジローの『スキル』じゃ無理だろうよ」
痛いところをやたら突いてきやがる浮浪者め。
「言いたいことがあるなら聞いてやるぞおい」
鋭い奴だ。
この世には『スキル』というものが存在する。
全世界ありとあらゆる生き物が保持する特殊能力。
剣士は『剣技』のスキル、魔法使いは『中級魔法・火』など、さらに農夫は『農耕』、商人には『売買』なんてスキルもある。
スキルがないと職に就けないわけではないが、このスキルが適正としての目安になっているのが現実だ。
魔法使いに関して言えば、スキルがないと魔法の習得は絶望的だとも聞く。
スキルの所有数は凡人は最低でも3つ、才能ある人間は5以上ある奴もいるのだとか。
まあ、見たことは無いが。
「チート臭いとはいえ、ジローのスキルは1つだけ、さらに言うと俺は2つだぞ?」
「なんとかなるだろ」
顔を顰めるナナシ。
もっと気楽に考えたほうがいい。
お前はぜったいに長生きできんぞ。
凡人に最低3つはあるスキル。
俺にあるスキルはたった1つだけ。
『劣化複製』
それが俺のスキルだ。
簡単に言うと人のスキルをコピーして使えるようになる。
これだけ聞くと実に反則級だが、もちろんオチがある。
名前のとおり劣化版でしかない、というところだ。
以前村に来た旅の魔法使いのスキル『初級魔法・風』をコピーしたところ、使えるようにはなった。
が、そよ風が吹く程度の威力だったのだ。
旅の魔法使い氏が使っていた風魔法はもっと強かったというのに……
さらに言うと魔力というものを削る感覚を始めて経験したが、酷いものだった。
血が抜けてるんじゃないかと言う様な寒気を感じるのだ。
魔力の鍛え方なんか知らないし、魔力の仕組みも知ろうはずがない。
しかし使いようによっては便利なスキルなのではないか、という確信があるのだ。
「確かに、ジローのスキルならなるようになるか」
俺のスキル最大の長所
「コピーしたスキルがずっと使えるってのは冒険者向きではあるわな」
「そう言うこった」
コピーさえすればどんなポジションもいける!
俺向きだろう!
冒険者!
まあ、この村にはない仕事だから王都まで行かないといけないが。
「わかったよ、俺もやるわ。んで、冒険者ってことは……」
「そうだ!この村を出て王都にいくぞ!」
とはいえ王都までは徒歩で2日はかかる。
教会の掃除だけして生きていた俺としては、ナナシを説得してこいつの金で行くしかない訳だ。
なにせ浮浪者の癖に金に困っているのを見たことがない。
収入源を知りたい。
土下座したら教えてくれるかな。
ふと、ナナシの半眼が鋭くなる。
「そういやジロー、資金はどうするよ」
………嫌な奴だ。
◇
土下座に土下座を重ね、ナナシの靴を舐めることによって資金面をクリアした俺は準備を整え村の入り口にいた。
「とうとうこのふざけた名前の町ともお別れだな」
「俺の故郷の文句はそこまでだ」
軽蔑した視線を送りながら故郷を馬鹿にするナナシ。
そこまで引かなくてもいいだろうに。
しかし村の名前に関しては同感だ。
コント村なんて名前をつけた初代村長はよほど頭の螺子が緩かったのだろう。
またはお花畑だったかのどちらかだ。
……同じか。
そんな下らない言葉がこの村への旅立ちの挨拶になった。
………あ、神父に挨拶するの忘れてた。
____________________________________
はじめましてとりぶーーーーんです。
屑系主人公の王道ファンタジー(?)を書いてみたくて挑戦してみました!
至らぬところが多々ありますが、呼んでいただけたら幸いです!
物知らぬ作者ですが何卒よろしくお願いします!
_________________________________
次回で冒頭に戻ります!