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三つの梅ぼし

作者: 小野目 慎

 【三つの梅干】


 梅干が好きだ。最近は蜂蜜を入れた汁気の多い梅干なんかも出ていて、夏なんかは冷蔵庫でよく冷やしたそれをちょっとしたデザート感覚で一粒ずつ食べている。南高梅を使った粒の大きなものだとなかなか良い値段で売られていて、一日一つ食べるのはちょっとした贅沢をしている気分だ。どれ、今日も一つ食べるとしよう。一つ、口に入れる……おや、もう残りが三つしかない。買ってこなくては。

 翌日、買いに出かける前に一つ口に入れて何気なくパックを見る。

 (あれ?)

 昨日一粒食べて残りが三つ。今口に入れたから残りが二つ……のはずが、まだ三つある。まあ、昨日見間違えたのだろう。とにかく新しいのを買ってこよう。

 次の日、仕事から帰ってきてさっそく一日の仕事を終えたご褒美とばかりに冷蔵庫を開け、梅干のパックを取り出す。新しいのを買ってきてあるけど、開封済みのものから食べなくては。一粒口に入れる。何気なくパックを見る。残りは、三つ。

 おかしいな。たった今、一つ口に入れたのだから、今度こそ残り二つになるはずだが。一度くらいなら見間違いもあるかもしれないが、そんなに多くない数を二日続けて見間違えるだろうか。

 とはいえ、私は結構うっかり者だ。昔からよく忘れ物をするし、ちょっと他のことを考えてたりするとそっちに夢中になって、たった今それまでしようとしていたことを忘れるなんてこともある。まあでも、昨日見間違えたのかもしれないし、食べようと思って食べ忘れた可能性だって、無くはないだろう。そうだ、デジカメで写真でも撮っておこうか。そうしたら後で見間違いかどうかも検証できる。我ながら実に名案だ。私は梅干のパックを写真に撮った。おや、もう虫の声がする。鈴虫かな。昼間はまだ暑いけど、秋はそこまで来ているのかもしれないな。

 翌日、梅干を食べようとパックを取り出す。一粒口に入れる。残り、三つ。

 (ええ?)

 いやいや、残りは二つになるはずなんだが。ああ、さては何か考え事でもしてて食べることを忘れたのかもしれない。そうだ、口に入れたら正の字で集計しよう。そうしたら、食べるのを忘れたなんてことにはならない。ん?チャイムが鳴った。ああそうか、ネットでCD買ったの忘れてた。家にいてよかった。

 また次の日、冷蔵庫から梅干のパックを取り出す。一粒口に入れる。残り、三つ。

 (あれえ?おかしいなあ)

 まあでも、昨日見間違えたのかもしれないし、食べようと思って食べ忘れた可能性だって、無くはないだろう。そうだ、デジカメで写真でも撮っておこうか。そうしたら後で見間違いかどうかも検証できる。我ながら実に名案だ。私は梅干のパックを写真に撮った。


                【終】


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― 新着の感想 ―
[一言]  失礼致します小野目先生。三つの梅干、拝読致しました。考え方によってはホラーにも哲学にもなる梅干、主人公がその手の病気なのか、それとも永遠に減る事のない梅干なのか、はたまた同じ時間繰り返され…
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