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プロローグ

プロローグです。

人物名はのちのちに出てきます。

プルルルルル、 プルルルルル

電話機が鳴っている。


プルルルルル、 プルルルルル

しかし、誰も受話器を取らない。


プルルルルル、 

暫く鳴って、鳴り止んだ。


誰も受け取らないのは、誰も居なかったからではなかった。

質素な部屋の片隅に置かれた電話機は、不機嫌そうに――尤も、機械に表情などないけれど――見えた。


日が当らない方向にある窓、それを覆うヨコ型ブラインドカーテン。

窓には外から見えるように『依頼人募集』と雑な文字が書かれた紙が貼りつけてある。


部屋の内装は、事務所の主人が座る、分かり易く表現するならば、大学の教授だとか、それこそ探偵ドラマの主人公だとかが座るような黒光りするイス、茶色く鈍く光る大きめの机。

それから、接客用であろうソファーがテーブルはさんで2つ。

それと様々な資料、探偵ものの漫画だとかが詰まった本棚。あと電話。

応接室はこんな感じだった。


主人はというと、机に突っ伏して寝ているやせ形でやや長身、

下は紳士靴にスーツズボン、

上はワイシャツに薄黄緑のネクタイを着けたセミロングヘアの女性。


彼女が眠ってどのくらいの時間が経過したのか。

机についた唾液が乾燥し切る程度の時間だった。


プルルルルル、 プルルルルル

ここで、再度電話が鳴った。


プルルルルル、 プルルルルル

しかし彼女は起きない。微動だにしない。

死んでいるのではないかと勘違いされそうなほどに動かないのだ。


プルルルルル、 プルル ズカズカズカ

電話の音に混じり、階段の方から大きめの足音が聞える。


プルルルルル、 プルルルル バタン

ドアを空ける音。かなり荒々しく空けられた事からドアを開けた人間がかなり怒っている事がわかる。


プルルル ガチャッ

(ようや)く受話器が取られた。


「はい、こちら探偵事務所源次です」

女性が凛とした態度で応答する。

「…はい、はい。申し訳ありませんでした」

と、思いきや、先程の態度とは打って変わって申し訳なさそうな顔になり、しきりに電話機にむかって頭を下げている。

「…はい、では、今回の件は無しと」

そして残念そうな顔に変わる。

「はい、いえ、本当に申し訳ありませんでした」

落胆した顔で受話器を落とす。

そして、落胆した顔は受話器を落とした瞬間にその顔は怒気をはらんだ顔に変わる。


「あんたがグースカグースカいつまでも寝腐ってるから近年稀に見る依頼がパァになったじゃないのよッ!」


次の瞬間、その女性は寝ている女性に向けて丸めた雑誌を渾身の力でもって振り下ろした。


『バァン』、といったような轟音があまり広く無い応接室にこだます。


直撃である。


叩かれた女性は、

叩かれた痛みによるものか欠伸によるものか分からない涙を目にうっすらと浮かべ、

『とても迷惑だ』と言いたげな顔で目の前の女性に問うた。


「何だ、君はいつ寝ている女の子の頭を思いきり叩けと誰に教わった」

そこでもう一撃。

『ベシン』という轟音が応接室にこだます。


「あんたが電話が鳴ってもずっと寝腐ってるせいで依頼がパァになったのよッ!」


頭頂部から煙が出そうな勢いで顔を真っ赤にして女性は怒っている。


「あと、誰が女の子よ!そんな年齢でもないし飾り気もまるで無いくせに!

モノホンの『女の子』に失礼だとは思わないの!?」


「ああ、失礼だった、悪いと思っているよ。そも、この事務所に『女の子』など存在しなかったな。居るのはおおよそ『女の子』とはかけ離れたくたびれた女2人だけだ」


三度目の一撃。

その一撃でワイシャツの女性は強制的ではあるが、再び眠りにつく羽目になった。

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