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4 いんたーばる



 気が付いたら助手席に座っていて、車はすでに走り出していて。

 窓の外に見えるものが慣れた視点よりさらに低い。足がシートからほぼまっすぐに伸びてる。というか全身が伸びてる、なにこの身体の曲線にぴったりフィットするリクライニングシート。こんな車に乗ったことない。


 頭の中は状況についていけなくて緊張で固まってるのに、身体のほうは強制的にリラックス姿勢になっていて、そのギャップがザッと肌を粟立たせた。



 わたし、いま、どうなってるの。

 どうなるの。


 車なんて、ステアリングを握ってる人に自分の運命も握られてるようなものじゃないか───行き先すらわたし、わかってない。

 怖くなって運転席に視線を移す。

「あ、あの、どこへ…」

 行くつもりなんですか、と投げようとした問いかけは、前方を見つめる精悍な横顔に思考を塗り替えられて、失速してしまった。

 無駄な動きなく周囲に視線を配って、ギアを手慣れたしぐさで入れ換え、ステアリングに片手の指を引っかけくるりとまわすさまは優雅にさえ見える。 

 指のさきまで泰然とした空気をまとっていて、自信と余裕に満ちあふれた人に、わたしはいまさっき何を考えたんだっけ。

 ものすごく不遜なことだったような。


「ん、だから詫び。晩飯おごらせて?」

 やわらかく目を細めて、微笑まれる。翠の瞳からきらきらと星が散る、幻覚を見た気がした。



 どうしよう。

 こんな人の隣に乗ったことない。



 錯綜するわたしの頭の中なんて知るよしもない彼は、スムーズに運転を続けながら少し思案するそぶりをみせた。

「駅から東、歩きなら…大体10分程度か。シイファンて店があってな。そこへ行こうかと思ってる」


「そ、うですか…」

 駅の東、歩いて10分くらい。

 うん、そのあたりはおいしいレストランがたくさん集まっている場所だ。知っている。

 車が向かっている方角も間違ってない。

 きちんと説明してくれてなんだかほっとした。


 …

 いやいや違う。

 お詫びって、今日のゲームのことだよね、たぶん。酸欠でわたしが倒れたりしたから。

「あの、今日当たった弾のことなら、たいしたことないですよ」

 麻酔の効果はとっくに切れているし、普通に喋れる。

 ちょっとしたアクシデントだったんだから、気に病むことなんてないのに。

「もう大丈夫です」

 そう続けると、隣の人はちらりとこちらに視線を流してから、

「そうか、良かった」

 ちょっぴり笑んですぐに前方へ意識を戻し運転に集中、した。



 ……ああああ違う! 大丈夫だから奢ったりしなくていいのにって言いたいのに!

 ホイホイ車に乗ってしまった現状ではとても言いにくい!



「あの、スウィ、フトさん」

 舌を噛みそうになりながら呼びかけるも、車がカクリとちいさく揺れて、今まで感じていた慣性が逆向きになったことに気付いてしまった。

 バックしている。

 駐車スペースにはいろうとしているうう。


「ハイ、到着」


 …着いてしまいましたか。


 ここまで来て断るのも逆に失礼な気もする。ごはん食べて、今日の気遣いにお礼を言って、ワリカンでお願いしよう。うん、そうしよう。あんまり高いお店じゃないといいな。

 そんなことを考えていたら助手席のドアがぱかりと開いた。ガラスの向こうでスウィフトさんが長身を屈めて車内を覗き込もうとしている。

 あああ、とろくさくてすいません!

 今降ります!



ミハルさんは基本臆病、とろくさい。

でも心のなかではたくさん喋っているのであんまり自分がとろいとは思っていなかったりします。ダマサレテルヨ!

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