【其の陸】
小早川家中の、暇な人間を総動員して立て札を各地に立てさせた。
:筑前の領民へ:
小早川家では、現在新しく女中を募集中。
自分に自信のある女性は、名島城へ参られよ。
器量しだいでは、出世も夢ではないぞ。
というふざけた内容だが……。
ちゃんと集まってくれるのかな、きれいな女性は。
とりあえずは女中として雇い入れて、いい女がいたら側室にしてしまおう。
なぜ正室でないのかというのには、訳がある。
なんか、秀秋の記憶によると、毛利家からもらった正室がいるみたい。
結構仲は良かったみたいだけど、今は毛利家に帰っちゃっているそうだ。
秀秋とその妻がたいそうな喧嘩をしたらしい。
妻に逃げられるなんて秀秋バカ。
でもそのうち帰ってくるだろう。
ま、帰ってきても側室ばっかで構ってやれないかもしれないけど。
それで10日ほど待った。
立て札の効果は抜群で、筑前の各地からたくさんの女がやってきた。
それはもう、たくさんやってきた。
やってきたのはいい。
なのにみんななぜかおばさん。おばあちゃんもいる。
なぜ?
なんでこんなお年を召された方ばっかなの?
「お城で女中として働くには自信がありますんがねえ」
「「そうですんわ。そうですんわ!」」
とおばちゃんデュエット。
あぁっ! そういうことか!
くそっ、あんなぼかした表現しなけりゃ良かった。
顔じゃなくて、家事に自信のあるやつばっかかよ。
素直に、側室になるとして、って書いておけば……。
どうするのよ。
集まった数十人のババアをどう処理しろってのよ。
……雇うしかないのか。
家に帰っても、息子や孫に
「なんで帰ってきたのよ、このババア! 山で干からびて来いよ」
としか言われることのない数十人。
こいつらをあっさり見捨てられるほど、俺は鬼畜じゃないようだ。
ええい仕方ない。雇うぞ。
そんなわけで俺は、数十人の女を全員雇い入れた。
ただでさえ浪人を雇いまくって、城の台所事情は火の車だってのにさ。
さらに大勢抱え込んでしまった。
大変だけど、許してくれよ。
給料も必要だし、新しい屋敷みたいなのも必要。
血相変えて戻って来たたくみにはこってりしぼられた。
だけど雇っちまったものはしょうがない。
俺のハーレム計画は初期段階で挫折。
金は余っているけど、これ以上この計画は推進できなさそう。
なぜなら、たくみにもうしないでくれと、言われたから。
本当ならそんなの無視しちゃいたいが、たくみには苦労をかけている。
そして今回の一件でさらに仕事を増やしてしまった。
なんか罪悪感があるし……、これはもうあきらめよう。
でもなぁ……。
名島城はホント男ばっかりなんだよな(+婆さん)
さみしい……。
毛利家の妻に手紙でも書いてみるか。どうせ暇だから。
そんでもって俺は筆をとった。
あて先は、姫殿としておいた。
~姫殿へ~
はじめてあなたと会った日の事をよく思い出します。
やっぱりあなたの事は忘れられません。
くるしくて、くるしくてしかたありません。
あなたに会いたい、それだけです。
いとしくて、でもあなたは遠い。
たのしかった毎日をまたあなたと送りたい。
いまはその思いでいっぱいです。
~金吾中納言秀秋より~
女の子に手紙を出すなんてやっぱり恥ずかしいな。
手紙を届けさせてからちょっぴり後悔。でも良かった。出せて。
これで仲直りできたらいいな^^
そしたら数日後、姫殿から手紙が返ってきた。
俺は期待に胸を膨らませて封を開けた。
~金吾様へ~
お手紙は拝見させていただきましたわ。
金吾様のお気持ちはよくわかりました。
あなたと過した毎日はむかしなつかし。
もちろん戻りたいと思うていますとも。
ですがなかなか心が定まらないもので。
共に暮らしたいと心より思っています。
~姫より~
ううっ。涙が。いい嫁じゃないか。
会いたい。本気で会いたい。
くだらない野心なんてなく、素直に会いたくなってしまった。