【其の壱拾弐】
筑前国は俺が完全に掌握した。
さて、これからはいよいよ本格的な国造りだ。
とはいえ金がない。
地方の領主から押収した金は結構な額になった。
が、結局のところ支配範囲が広がったために、その金も俺が使う前に消えていく。
36万石を治め、維持するには、それ相応の金がかかるのだ。
だが組織を作り変えることはできる。
戦国時代の後進的な組織を、前世のような効率的な組織に変える。
そんなふうに、組織が変わるだけで国は大きく変わる。
それは織田信長が証明済みだ。
まずは地方の支配制度だ。
これは、当主である俺による任命制にした。
もちろんその地方を与えるという意味ではない。
代官として派遣されるだけで、不正があった場合には即刻解任だ。
また、財政を切り詰めるため、不要な城などは廃させた。
もともとは細かく分かれていた領主の館だからな。
潰したとして、さしたる変化のないものはいくつもあった。
国は15の地方に分割して、それぞれに代官を派遣した。
大友義統もその一人だ。
だが、こいつは馬鹿なので、敵がこなさそうな北のはずれに置いておいた。
国境付近の地方の代官が政務を行なう城には、500人の兵を常時詰めさせておく。
できれば俺以外の奴に兵なんて預けたくなかったのだが。
国防の面から考えれば、名島城に全員を置いておくのはまずいからな。
だがもちろん、代官に大きな権力を与えることはしない。
代官の仕事は、
・俺に命令されたとおりに内政をすること。
・非常時には軍隊を率いて敵と交戦すること。
・徴収した税を名島城に送ること。
この3つだ。
裁判や具体的な政治はすべて俺が決定する。
ついでに税制も改めた。
年貢として米を集めたりしても、いちいち金に換えなくてはならなくて大変だ。
しかも、米の収穫時期になると、当たり前だが米の相場は下がる。
そんな時に換金しては、わざわざ収入を減らしているようなものだ。
だから税は米ではなく、金で集める。
モデルは明治時代の地租改正だ。
太閤検地をもとにして、土地の価格を決め、その2パーセントを税とした。
たくみからの報告によれば、税収は10万貫ほどになるとのことだ。
前までの税収が、
35万7千に四公六民だったから、0,4をかけた15万貫ほど。
数字で見れば、5万貫減ったわけだがこれでいいだろう。
新しい体制に変わった後で、税が安くなったとなれば民はどう思うか。
民は基本的に単純だ。
腹いっぱいに食えて、税が安ければそれでいいのだ。
素直に、新しい体制は自分たちのためになる、と支持に回るだろう。
それに、米では豊作や凶作で収入の増減が激しい。
豊作ならいいが、凶作なら収入は激減する。国は一年で危機的状況に陥る。
それならば、基本的な税を軽くして収入を安定させるべき、というわけだ。
小早川軍の再編も行なった。
小早川軍は厳しい訓練によって、かなり強力となっている。
訓練は鉄砲隊だけがしていたわけではないのだ。
軍事に関する俺の補佐役に大抜擢された、松野重元の算出によると、小早川軍の総勢は1万5000。
それを俺が思う近代的な軍隊に編成し直した。
一つ目は【近距離・陸戦部隊】だ。
規模は7000人。部隊の中で一番多い。
足軽隊も、槍部隊も、騎馬隊もここに含まれる。
それを1000人ずつに分けて、千人隊長を松野重元の選抜で任じた。
いつかは俺の信頼できる奴を投入したいが、今は仕方ない。
重元の選抜ならば、間違いはないはずだからな。
二つ目は【遠距離・陸戦部隊】だ。
規模は4000人。
そのうち鉄砲隊は3000人で、残りが弓部隊だ。
弓部隊はこれ以上増員しない予定。
鉄砲隊は、鉄砲の数が増えたとき、それに応じて弓部隊から異動させる。
矢を放ちながら、足軽が突入するいくさはもう古いのだ。
隊長はもちろん松野重元。
鉄砲頭では古臭いので、鉄砲大将という役職名に変更した。
あまり変わっていないのでは? という批判はやめてほしい。
俺のネーミングセンスは幼児ほどしかないのだ。期待するほうが間違っている。
今は鉄砲しか扱っていないが、そのうち攻撃の幅は広がってくるだろう。
大砲とか、爆弾(?)とかも出てくるはずだし、俺も新兵器を考えている。
とはいえ今は、弾薬がないのでまったく機能していないがな。(←オイ)
次は【金吾水軍】だ。
海軍って名前でも良かったが、日本国内で働くだけなので、謙虚に水軍とした。
金吾水軍の大将には、昔から小早川家で水軍を率いていた乃美景嘉を任じた。
生粋の海の男で、部下からの信望も篤く、頼れるイイ男とのことだ。うらやましい。
規模は3000人。
これまでのように、陸戦部隊を船に乗せることはない。
この水軍3000人が、敵水軍との海戦も、遠隔地への補給も、後方撹乱をも行なうのだ。
かなり頼りになることだろう。
水軍の重要性は、陸戦部隊に勝るとも劣らないため、俺も大事にしていきたい。
いつかは鉄甲船か、ガレオン船を組み込み、最強の水軍に育て上げるつもりだ。
そして最後にあまった1000人。
別に偶然残ってしまったわけではない。
彼らは後方支援部隊だ。
いくさの時には兵站を確保し、補給を任せることになる。
地味な仕事だが大切なことだ。
人間が戦うために必要なのは、武器よりも前に、食い物があるかということだ。
腹が減っては戦は出来ぬ。
まさにその通りだ。
ここには内政担当の家臣を置く。
たくみは内政で一杯なのでそうする以外に手はない。
ただし、こいつらにもしっかりと訓練をし、敵に襲われた時も兵站を確保できるようにしておく。
すべてのピースがうまく揃っていなければ、いくさに勝つことなどできないからな。