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MAXMP0の魔法使い

作者: スーパーナイトシオン先生
掲載日:2026/03/16

「……イッツ・ショータイムだ、相棒」

「……ああ、関係ないね」


マイナス三十度を下回る極寒の違法ポーション密輸拠点――通称『冷凍倉庫』。

そこにスタイリッシュに姿を現したのは、黒のロングコートに身を包んだ二人組の男だった。

鋭い眼光でオークの密輸団を見据えるのは、この国を統べる『王様』。そして、その隣で不敵な笑みを浮かべるのは、国で一番の頭脳を持つ『魔法使い』である。

本来であれば、泣く子も黙る最強のバディ。


だが現在、彼らの両足は生まれたての小鹿のようにプルプルと震え、鼻からはツーッと透明な鼻水が垂れていた。


「おい……タァカ(王様)。関節が……寒さで、関節が砕けそうなんだが……」

「ユゥジ(魔法使い)……俺もだ。コートが……無駄に、重い……」


二人の様子がおかしいのには理由があった。

遡ること数時間前。パーティメンバーの『貧弱さん』(前世の死因:タンスの角に小指をぶつけて全身複雑骨折し衰弱死)が、またしても呪われたオーティファクトをうっかり起動させてしまったのだ。

その結果発動したのは、「周囲の人間を強制的に貧弱さんと同じレベルの虚弱体質にする」という最悪のデバフ魔法だった。


「だ、誰だてめぇら! ぶっ殺されてぇのか!」

オークの重装兵たちが、巨大な戦斧を構えて二人に迫る。


「……フッ、強がるなよ。いくぜ、俺のとっておきの魔法をな!」

ユゥジ(魔法使い)はガチガチと歯の根を鳴らしながらも、ビシッと杖をオークたちに突きつけた。

「喰らいな! 第八階層・広域殲滅魔法『クリムゾン・フレア・エクスプロージョン』ッ!!」


「な、なんだってえええっ!?」

恐るべき魔法名に、オークたちが顔を引きつらせて防御姿勢を取る。

しかし――。


シーン。

数秒待っても、杖の先からは火の粉一つ出やしない。


「……おいユゥジ、どうした? 不発か?」

「いや……俺のMAXMP、0なんだわ」

「は?」

「だからよ、魔法のレパートリーは1000種類以上あるし、詠唱も完璧で理論もバッチリなんだが……撃つための魔力(MP)の上限が、生まれつき『0』なのよ。撃てるわけねぇだろ」

「なんでお前魔法使いやってんだよ!!」


「いや、俺も前世じゃ『HIT the world』ってスマホゲーで魔法職ランカーの『こ〇〇め』として無双してフレンドと遊んでたのによ……。まさか転生先で永遠のMP0縛りプレイさせられるとは思わなかったぜ」

「知らねえよ! お前の前世のネトゲ事情なんか!!」


「だが案外悪くないぜ。タァカ、見ろよ」

ユゥジが顎でしゃくった先では、MP不足で不発しただけだというのに、極寒の中でコートを翻した謎の無言の圧力により、オークたちが勝手に『この無音は恐るべき超魔法の前兆だ!』と勘違いしてガクガク震え上がっていた。

「バーン。……ほらよ、弾(魔法ハッタリ)切れだぜ」

ユゥジは指鉄砲を作り、口で発砲音を言ってスタイリッシュにウインクをした。


「な、なんて恐ろしい魔力圧縮だ……! 逃げろォォォ!!」

オークたちは勝手に幻覚を見てパニックに陥り、我先にと逃げ……出そうとして、お互いにぶつかって盛大に転倒した。

「なめてんのかテメェらあああああ!!(物理的に)」

オークたちが痛みに怒り狂い、結果的により荒々しい足取りで突撃してくる。


「くっ、ハッタリもここまでか! 仕方ねえ! 走るぜ、ユゥジ!!」

「おうよ、タァカ! 俺の俊足を見せてやる!」


二人は同時に床を踏み込み、敵の攻撃を華麗に避けて間合いを取ろうと――。


ツルーンッ!!


「「あぶっ!?」」

凍りついた床で盛大に足を滑らせた。

ダァンッ! と派手な音を立てて仰向けに倒れ込む二人。


「ぐふあッ!」

「がはッ……!」

ただ転んだだけなのに、現在の彼らは極限の『虚弱体質』である。落下時の衝撃で、タァカは肋骨が三本折れ、ユゥジは腰の骨に致命的なダメージを負った。

「あ、痛てて……タァカ、俺の杖(ただの木の棒)取ってくれ……」

「馬鹿野郎、俺は自分の愛銃(聖剣)すら重くて持ち上げられねぇんだぞ……」

重すぎて持ち上げるどころか、指先をぶつけただけで小指を骨折した王様は、空虚に手を伸ばす。


「おい、どうすんだよタァカ……。そもそも原因のアイツはどこ行きやがった……?」

痛みに悶えながら首だけを横に向けると、冷凍倉庫の隅っこに、信じられない光景が広がっていた。


そこには、最も強力にデバフの影響を受けている『諸悪の根源(貧弱さん)』が、すでにカチコチの氷漬けとなり、「冷凍もやし」のオブジェと化していたのである。しかも極限まで丸まっているせいか、遠目からはただのゴミ袋に見えた。


「「…………」」

「あの冷凍もやし、俺の当時のフレンドにプレイスタイルも声もそっくりなんだよなぁ……偶然って怖いぜ」

「ユゥジ……今はそのフレンドの生還フラグより、俺たちの死亡フラグをなんとかしろ」


迫りくるオークたちの足音と、凍りついた貧弱さん。そして、全身の激痛。

完全に詰んでいた。


「なあ……タァカ」

「なんだい……ユゥジ」

「俺たち、かなり……あぶないぜ」

「ああ……色んな意味で、な。次会うときは、せめて『HIT the world』の中で会おうぜ」


最強のバディ(現在:HP1・MP0)の、華麗にして虚弱な戦いは……おそらくここで幕を下ろすのだった。


――それから数年後。

誰も寄り付かなくなった廃・冷凍倉庫の跡地にて。

「……ん? なんだこの光る魔法陣は」

たまたま通りかかったチンピラが、床に刻まれた古い不可視の魔法陣を踏んだ瞬間だった。


対象ターゲット:確認。充填魔力:完了。第八階層・広域殲滅魔法――発動』

システム音が鳴り響き、あの日の不発魔法が突如として牙を剥いた。


「な、なんだってえええっ!?」

ズドゴォォォォォォォォォォオンッ!!!


「生来MAX MP0」の魔法使いが放った超魔法は、数年間かけて大気中の微細な魔力(1日1MP)をジワジワと自動充填し続け、ついに発動条件を満たしたのである。

結果、冷凍倉庫とその周辺の違法施設跡地は、一切の塵も残さず地図から消滅した。

もちろん、その中心には未だに解凍されていなかった「冷凍もやし(貧弱さん)」の姿があったのだが……彼がその後どうなったのかは、また別の話である。


(終)


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