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8話 陽向りお

 続いて、私は採取ポイントへ向かった。


 採取は丁寧にやればいい。

 丁寧は目立たない。

 丁寧は偉い。


 鉱石を採掘して袋に入れて、ぎゅっと口を縛る。

 それの繰り返し。


 ダンジョンが静かだからなのか、作業音がやけに大きく聞こえた。

 静かなのは好きだ。

 でも、今日は静かさが逆に怖い。


>採取も手際よすぎ

>この鉱石、一発で取れるものだっけ?

>トップ勢でも数発はかかるはず

>それを一撃とはw

>ひなちゃん、喋らないのが逆に圧

>無言の化け物枠w


(化け物枠にしないでください)


 私は化け物じゃない。

 ただちょっと、速いだけ。

 逃げ足を鍛えただけ。


 そんな普通の女の子。


(とりあえず帰ろう。今日は帰ろう。撤退は賢い)


 私は荷物を整えて立ち上がり……


「ひなちゃんっ!」


 昨日の女の子が突然現れた。


 陽向りおさん……だよね?

 私と同じダンジョン配信者で。

 でも、方向はまったく違う、極められた陽キャアイドル。


 なんでいるの。

 なんで来るの。

 犬なの? 探知犬なの? アイドルって探知能力あるの?


>りおちゃん!?

>本人きたwww

>対面イベント発生!

>ひな逃げろ!

>逃げろって言うなw

>なら捕まえろw


(捕まえろってなに!? 私は野生動物!?)


「あの……ひなちゃんだよね!? 小鳥遊ひなちゃん! 昨日、私を助けてくれた……」

「き……気のせい、ジャナイデスカ……」


 話すことに慣れてなさすぎて変な声が出た。


「そんなことないよ! 私、目はすごくいいんだよ。視力、両目共に2・0!」

「し、視力は別に……」

「見間違えない、っていうこと」

「はぅ……」

「昨日……昨日ね! 助けてくれたよね!? ほんとにありがとう! 私、ちゃんとお礼を言いたくて、ずっと探していたの!」

「お、お礼……?」


 私は、反射的に後ずさる。


 お礼って言われても、別に求めていないし……

 そもそも、そんな経験がないから、なにをどうしたらいいかわからない。

 というか、なんて返事をすれば? どんな顔をすれば?

 下手な対応をしたら陽向さんを怒らせてしまうかも……あわわわ!?


「……あ、あの……」


 声が小さい。

 小さすぎて、自分の声なのか分からない。

 私は今、存在している?


「……す、すみません!!」


 違う、謝る場面じゃない。

 分かってる。

 分かっているのに謝ることしかできない。


 ……ずっと、反射的にそうしてきたから。


「わ、私なんかが……その、余計なこと……」

「余計じゃないよ! だって、ひなちゃんは……」

「えっと!」

「えっ?」

「その、あの……で、では!」


 私は勢いよく一歩下がり、くるりと背を向けた。

 逃げる、逃げるしかない。

 逃げは恥じゃない、生存戦略なのだ。


「ひなちゃん、待って!」


 待てない。

 待ったら会話が始まる。

 会話が始まったら死ぬ、精神が。


 私は走った。

 とにかく走った。

 走りまくった。


 静かに、でも速く。

 世界から消えるイメージで。


 背後で陽向さんの声が遠ざかる。


「……ひなちゃーん……」


 コメント欄はまだ騒いでいる。

 でも私は見ない。

 見たら現実になる。

 現実はだめ。


(帰る。今日は帰る。撤退は賢い)


 私は出口へ向かう。


 心臓がうるさい。

 胃が痛い。

 手は冷たい。


 いつも通り……じゃないけど、全然違うけど。

 でも、帰ればいつも通りに戻れる。


 ……戻れるはず。


(なんで追ってくるの?)


 疑問がいっぱいで。

 でも、ほんの少しだけ『怖い』以外のなにかが混じっているような気がして。

 でも、それを受け止められるほど、私の心は広くなくて。

 むしろ狭くて、とても酷い狭小住宅並で。


 私は歩幅をさらに速めた。


(やめて。私の人生にイベントを起こさないでください)


 神様でも誰でもいいから、そうしてほしい。

 切実に。

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