54話 これからもダンジョン配信者
運命のいたずらなのか。
それとも奇跡なのか。
『ホワイトウイング』開催のイベントで、私とりおちゃんは優勝した。
賞金と色々な賞品をもらったんだけど……
賞金の額を見て、正直、実感が湧かなかった。
これだけあれば、高校を卒業するまでの学費は余裕で払える。
生活費だって、節約すればしばらく困らない。
無理をしてダンジョンに潜らなくてもいい。
……理由がなくなった。
ダンジョンに行く理由。
危ないことをする理由。
胃を痛くしながら配信する理由。
全部、なくなってしまったはずなのに……
――――――――――
「はーい、今日も元気にいくよー! みんな、集まってるー? 音量とか大丈夫? 大きいとか小さいとかあったら言ってね、調整するから」
りおちゃんの明るい声がダンジョン内に響いた。
その隣に立つ私。
所在なさげに視線をうろうろさせて。
すると、りおちゃんが笑顔でぽんぽんと肩を叩いてくる。
「えっと……こ、こんにちは……ひなです……」
>声小さくない?
>これがひなちゃんのデフォルトだw
>可愛い
>可愛い
>がんばえー
>待ってました!
コメント欄が加速的に流れていく。
「り、りおちゃん……こ、コメントが速くて……ど、どどど……」
「大丈夫、大丈夫! 全部拾わなくていいんだよー! 気になる時は、あとで落ち着いて見返せばいいから。こんな感じでひなちゃんはまだ慣れてないから、みんなもよろしくね♪ あ、メンバーありがとう!」
言いつつ、りおちゃんは自然にコメントを読んで返していく。
慣れた様子で。
そして、笑顔で楽しそうに。
……すごいなあ。
「ひなちゃん、ひなちゃん」
「な、なんですか?」
「今日はどうしようか? いつものように上層? それとも、ちょっとがんばってみる? いつもここだから、思い切って他のダンジョン、っていう手もあるよ! ちょっと配信は途切れちゃうけど」
「え、と……」
それが当たり前のことのように聞いてくる。
私が一緒が普通。
それが前提。
そう聞いてくれることが嬉しくて。
胸が温かくて。
まだ緊張はする。
胃も痛い。
でも……
「……中層で」
「え?」
「中層……い、行きましょう!」
りおちゃんが、ぱっと笑う。
「いいね! じゃあ今日は中層だー!」
>いいね
>いいね
>ちょっと心配だな
>ひなりおなら大丈夫だろw
>実際、下層行っても問題ないレベルだろ
>でも安全第一で!
>がんばって!
コメント欄が一気に盛り上がる。
期待と応援と少しの不安。
私は、深呼吸してから画面を見る。
「……私は」
一瞬、言葉に詰まる。
「私は、これからも……攻略します」
小さくても逃げずに。
「だって……ダンジョン配信者、ですから……」
言い切った瞬間、胸が少しだけ軽くなった。
りおちゃんが、隣でうんうんと頷く。
「うん! ひなちゃんは、立派なダンジョン配信者だよ!」
立派は言い過ぎというか。
私にはおこがましいというか。
『立派』という単語に謝りたくなるというか。
ただ。
「……はい」
私は小さく笑う。
色々とあるけど。
それでも私は、りおちゃんと一緒にがんばっていこうと思う。
逃げるのではなくて。
無視するのではなくて。
視聴者さん達とも向き合いたいと思う。
だって私は……
ダンジョン配信者だから。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
本作はこれにて完結です。
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