4話 アイドル系ダンジョン配信者
私はカメラに向かって、いつもの笑顔を作る。
口角を上げて、目を細めて、元気よくにっこりと。
「みんなー! おはりお~っ! ダンジョンだけじゃなくて、みんなの心も攻略しちゃうぞ♪ ダンジョン配信者の陽向りおでーす!」
コメントが一気に流れる。
>おはりお!
>おはりおーーー!
>待ってました!
>今日もかわいい
>りおちゃん、今日はなにするの?
うんうん、これこれ。
この感じが好き。
みんなを近くに感じることができて、胸の奥がふわっと温かくなる。
「えへへ、ありがと~! 今日はね、今日は……」
そこで私は、一旦、タメを作った。
わざとらしいくらい少しだけ間を置く。
それから、カメラに近づいてちょっと小声。
「……チャレンジしまーす」
>え、チャレンジ?
>なに!?
>RTAとか?
>りおちゃんならいけそうな? でも、なんか違うような?
私は両手を胸の前でぎゅっと握って、ぱんっと開く。
「そう! 今日はね、いつもより……ちょっとだけ深い階層に行ってみようかなって!」
>ちょっとだけって言うやつほど危ない
>りおちゃん、無理しないでね
>そんな装備で大丈夫か
>問題ない
>え? 真面目に大丈夫?
>マネちゃんに怒られるぞw
「ちょ、ちょっと! 怒られないよ!? たぶん! ……たぶん?」
コメント欄が『www』で埋まる。
私のリスナーさんはいつも温かくて、楽しい。
気持ちを共有できているみたいで、私も嬉しくなる。
「大丈夫だよ。ちゃんと準備してきたもん! ほら、見て?」
私はドローンカメラの画角を少し下に向けて、装備を見せた。
軽装寄りの装備で、動きやすさ重視のタイプだ。
防具は最低限だけど、その分、回避と機動で勝負できる。
……って、口で言うと強そうだけど、私、ほんとはビビりだ。
ダンジョンは怖い。
毎回、入る前は胃がきゅってなる。
でも……
「みんなには前々から言っているけど……私、いつか、武道館でライブしたいの」
この話をする時、みんなからのコメントが優しくなる。
それが分かってるから言っている……って思われるのは嫌なんだけど。
でも、ほんとに本気だから言う。
「そのためにはね、もっともっと知ってもらわないと。私の歌も、私のことも」
>応援しているよ
>武道館行こうな
>めっちゃ応援する
>泣いて応援する
>そして出禁
>やめろw
<りおちゃんが言うと本気だって分かる
胸がまた温かくなる。
「ありがとう。だから今日は……頑張る日だよ!」
本当は、少し前からずっと悩んでた。
行くべきか、やめるべきか。
怖いし、無理はしたくない。
でも、ずっと同じ場所で同じことをしてたら、なにも変わらない気がして……
ここで『壁』を超えるべきと考えて……
「がんばらせてね?」
私は、がんばることにした。
「よーし、行くよー!」
さらにダンジョンの奥に進んでいく。
――――――――――
「……ここが五層」
ごくりと息を飲む。
上層はひんやりした感じだけど、ここは少し熱い。
壁や天井は赤く、光だけじゃなくて、ほのかに熱も放っているみたい。
今までの階層とは明らかに雰囲気が違う。
「なんだか、わくわくするね! こういう初めてのところを攻略するのも、ダンジョンの醍醐味の一つだよね!」
びくびくしているところは欠片も見せないで、私は笑顔の仮面をつけた。
「ここなら日焼けできるかな?」
>日焼け!
>りおちゃんの水着!
>うわぁ……
>その発想は引くわー
>でも見たい
「あははっ、そんなに私の水着姿が見たいの? うーん、そういう撮影はまだ許可されていないんだけど……いつか、ね♪」
>かわいい
>かわいい
>かわいい
>写真集とか出たら100冊買います
>なら俺は1000だ
>俺は10000だ!
コメント欄がとても賑やかだ。
やっぱり、この雰囲気は好きだなあ。
「よーし! それじゃあ、攻略を始めるね! みんな、応援よろしくね♪」
ここは上層より人が少ない。
音も少ない。
でも、それが逆に落ち着かない。
静かすぎると、何かが出てきそうで……
(……だいじょうぶ。準備はしっかりとしてきたから)
自分に言い聞かせつつ、探索を進めていく。
……最初は順調だった。
小型の魔物が二体。
まずは距離を取る。
それから、いつも通り動きを見て、タイミングを合わせて……撃つ。
ダンッ! ダンッ!
両手の拳銃が火を吹いて、二体の魔物を撃ち貫いた。
こうやって銃で戦うのが私の戦闘スタイル。
ちなみに、この銃は本物のようで本物じゃない。
ダンジョン産の素材で作られた特別製で、武器を携帯することを許可されている配信者でも、なかなか手にすることは許されない。
でも、私はがんばってがんばってがんばって、銃火器の携帯許可を手に入れた。
なぜか?
二丁拳銃とか最高にかっこいいから!
「よし、オッケー!」
>上手い!
>りおちゃん、成長してる
>これなら行けるかも!
「でしょー! 私もそう思う! 今日の私は、やる女っ!」
言った瞬間、ちょっと恥ずかしくなって、笑ってごまかした。
「えへへ。あ、今のは『がんばる、できる』っていう意味だからね? 変な意味じゃないからね!?」
>どんな意味を想定したw
>自分で言うと怪しいw
>りおちゃん天然すぎw
「ちがうもん! ちがうってば!」
私はぷいっと顔を背けて、また歩き出す。
でも、笑いながら歩けるくらいには余裕があった。
(……いける。ほんとに、いけるかも)
さらに五層の奥に進んでいき、ちょっとだけ胸が膨らんだ。
私は歌うのが好きで、配信が好きで、みんなが好きで。
だから、もっと前に行きたい。
そのために、今日はもっともっと、今まで以上にがんばりたい。
「みんな、見ててね。私、今日、がんるから! すごーいがんばるから!」
>見ているよ
>かっこいいしかわいいけど、無理はしないで
>応援しているよ!
ありがとう。
その言葉を心の中で握って、私は次の通路へ。
……そして、空気が変わった。
さっきまで暑いくらいだったのに、急に冷たい。
視界の端で配信用のアプリのUIのアイコンが輝いて、注意表示が出た。
でも、それは一瞬ですぐ消えてしまう。
>今なんか出た?
>注意表示っぽかった
>事故?
>そういう話は今のところないかな
「え? うそ。みんなも見えた? 私も、なんか一瞬……え? あれ?」
巨大な影が現れた。
一つ目の巨人。
右手に丸太のような巨大な棍棒を握っている。
「……え……」
>でか……え、なにあれ?
>やばい!? サイクロプスだ!
>サイクロプスって、下層だよな!? なんでここに!?
>前もケルベロスが上層に出たらしいけど……
>バグ多すぎだろ!
>りおちゃん、やばい
>あれはマジでやばい、逃げて!
(……嘘でしょ)
サイクロプスがこちらを向いて、その目が光る。
背中が、ぞくっと震えた。
「あ……ぅ……」
私が勝てる相手じゃない。
今すぐに逃げないと。
あるいは、誰かに救援を求めないと。
あれこれ考えて。
でも、考えるだけで実行に移すことができなくて、パニックに陥って、頭の中がぐるぐるになって……
>りおちゃん、逃げて!
>通報!
>早く!
みんなのコメントで我に返る。
「う、うん……!」
私は急いで逃げ出した。
がむしゃらに来た道を走り、四層を目指す。
そこまで逃げれば、と期待していたんだけど……
「……うそ……」
どこかで道を間違えたらしく、袋小路に迷い込んでしまう。
慌てて戻ろうとするけど、すでにその道はサイクロプスに塞がれていた。
サイクロプスはニヤリと笑い、棍棒を振り上げた。
(……詰んだ)
私の視界が真っ白になりかけた、その時。
ザンッ!
力強い斬撃音。
風圧が頬を撫でて、私の髪がふわっと浮いた。
そして……
頭部を切り飛ばされたサイクロプスが倒れて、魔石に変わる。
「……え?」
今、絶対に死んじゃったと思っていたんだけど……
え?
え?
え?
ものすごく混乱していたら、リスナーさん達も同じ様子だった。
>え?
>え?
>え?
>今なにが起きた?
>なんか見えたような……?
>バグ?
>既視感あるぞ
「……あ、あの」
ふと、声が聞こえてきた。
なんだか小動物っぽい声。
振り返ると、私と同じくらいの女の子がいて……
「だ……大丈夫、ですか……?」
5話は本日20時に更新します。
続けて読んでいただけると嬉しいです。




