3話 いつも通りで十分です
柔らかい朝日と小鳥の鳴き声で目が覚めた。
「……んゅ……」
眠い。
すごく眠い。
二度寝したい。
布団から出たくない。
でも、ここで二度寝したら間違いなく遅刻しちゃう。
手を伸ばしてサイドテーブルの上に置いてあるスマホを取る。
時間と天気を確認して。
通知も一応確認するけど、なにもない。
平常運転だ。
画面を閉じて、ゆっくり体を起こす。
部屋は狭い。
狭いけど、私にはちょうどいい。
広い部屋は落ち着かない。
広いと、なにがどこにあるかわからなくなる。
わからなくなると焦る。
焦ると余計なことを考えてしまう。
狭い部屋なら見れば全部ある。
どこになにがあるか、すぐわかる。
わかるって、安心だ。
(今日もいつも通り)
そんなことを思いながら、私はベッドから降りた。
キッチンと呼ぶには申し訳ないくらいの小さな流し台で、コップに水を注いで飲む。
冷たくて喉が痛い。
痛いけど目が覚めた。
胃がきゅっとなる感じがするのは、起きた直後のいつもの癖だ。
私は、深呼吸を一つした。
「……今日も……が、がんばろう……」
小さく意気込んで、私はパジャマを脱いで、学校の制服に着替えた。
――――――――――
放課後。
私は、いつものように一人で家に帰り。
それから準備をしてダンジョンに向かう。
慣れた手続きをして。
特に問題が起きることはなく、ダンジョンの中へ。
「あ、そうだ……」
一応、配信の設定を確認する。
自動追尾カメラ。
画角。
音声。
コメント表示は……最小。
通知も最小。
(見ない、見なくていい)
見たら考えてしまう。
考えたら怖くなる。
世の中、アイドルのような配信者さんもいるけど……
私は、天地がひっくり返ってもそんなキラキラした存在にはなれない。
日陰でずっとくすぶっているのがお似合いの女の子。
だから、配信者としての活動をメインにすることはない。
メインは、あくまでもダンジョン探索。
そこで日々の糧を得ることだけが目的だ。
「よ、よし……今日もがんばろう……!」
視聴者ゼロ。
登録者数ゼロ。
ついでに言うと、最後にコメントされたのは半年以上前。
でも、これが私の平常運転です。
「……目立ちたくはないけど、でも、これはこれでちょっと悲しくなってきたかも……」
なにもしていないのにメンタルが削られつつ、ダンジョンを進んでいく。
いつものルートに沿って進む。
ここを曲がって、ここで採取。
魔石だけじゃなくて、ダンジョン内の素材も換金対象なので、できるだけ集めることにしていた。
この通路は狭いから通らない。
こっちは少し明るいから、誰かがいることがある。
だから避ける。
私は人に会いたくない。
何を言われるかわからない。
何を求められるかわからない。
私が何をすればいいかわからない。
わからないのが……怖い。
だから私は、わかる範囲で生きる。
わかる範囲で仕事をして、わかる範囲で帰る。
……そうやって今日も生きる。
――――――――――
「あれ?」
いつものように四層……中層までやってきた。
ここはただの通過点なので、特に気にするようなものはないんだけど……
ふと、声が聞こえてきた。
なんだか元気な感じ。
なんだか明るい感じ。
私にとって正反対のもの。
でも。
「なんか……楽しそうな感じ」
キラキラとしているような、そんなイメージ。
それに誘われるような感じで、声のするほうに向かう。
「よーし、いくよー! 今日の私はやる女!」
すごく可愛い女の子が、キラキラと輝くような笑顔を浮かべていた。
私と同じくらいの歳……?
スタイルはいい。
……別に羨ましくなんてないし。
「そろそろ、ステップアップしていきたいからね! え? 勉学もステップアップした方いい? ちょっと、なんでみんなが私の学力を知っているの? 私、こう見えてできる女の子ですから!」
とても楽しそうに、ハキハキと喋る。
たったそれだけのことなのに、なぜか目を惹きつけられてしまう。
フェロモン?
それに似たような、今までに感じたことのない魅力のある子だった。
たぶん……
事務所に所属している配信者さんかな?
アイドル活動とダンジョン配信をミックスさせた人は多く、それに特化した事務所も多く存在する昨今。
アイドルのダンジョン配信者さんも増えていた。
戦うアイドル。
これは今までにないジャンルで、日本のみならず、世界中を熱狂させている。
「じゃあ、これから五層に行ってみるね! どんどんチャレンジして、新記録を打ち立てるよー! みんな、応援してくれると嬉しいな♪」
五層!?
聞こえてくる会話の内容に、ついつい驚いてしまう。
五層は中層の半ば。
そして、配信者さんの鬼門と呼ばれている場所だ。
多くの配信者さんが命を散らしてしまった、とても危険な場所。
(大丈夫……なの、かな?)
女の子は自信がある様子。
たぶん、強いはず。
私の杞憂……ならいいんだけど。
でも、なんていうか……
ただの勘だけど、あの子に五層はまだ早いような気がした。
「……でも」
私には関係ない。
目立ちたくない私は、今日もひっそりと魔物を狩って、素材を採取すればいい。
そうして日銭を稼ぐことがメインで、他のことはどうでもいい。
だって、自分のことでいっぱいいっぱいだから。
そもそも、私なんかが他の配信者さんのことを心配するなんておこがましい。
何様なんだ、という話。
ここで帰るのが正解。
関わらないのが吉。
「……なんだけど」
でも、なぜか女の子のことが気になって、私はそっと後をつけていった。
明日は12時に4話を更新します。
続けて読んでいただけると嬉しいです。




