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モバイルバッテリーに繋がれたスマホの画面が、充電百%の表示を示した。僕はケーブルを取り外し、ズボンの右ポケットにスマホを入れた。
「Vtuber、ですか?」
次の授業の用意を始めようとしていた僕に、二年先輩の数学教師が声をかけた。なんでも、Vtuberにはまっているらしく、僕にもぜひ見てもらいたい、ということだった。
「そうそう。杉並先生、最近お疲れのようですし、息抜きがてら見て下さいよ。きっとはまりますよ」
屈託のない笑顔が余裕の表れにも見えて、逆に不愉快さを覚えた。高校教師となって二年目、様々な気苦労が絶えない日々は、身体的にも精神的にも自身を疲弊させていた。新米教師の時は、ありがちで夢見がち、生徒との信頼や熱いスクールドラマなんかを期待していたのだが、蓋を開いてみれば一目瞭然、そんなものは、妖精は存在している、と声高にさけんでいるのと同レベルにまぬけである。
教壇に立って授業をしても、大半の生徒は聞く耳持たない感じであるし、女子生徒、だけでなく同性である男子生徒にすら、触れることは御法度だ。触れたいわけではないが、よくやった、とテストの点数が高ければ肩でも叩きながらそう言ってやりたい。なんとなく、そんな様が格好良く思うのである。
しかしながら、そんなことをしようものなら、たちまちセクハラ案件だ。嫌悪感を抱かれていなければまだ救いの余地はあるのだが、少しでも陥れてやろう、という気持ちが生徒にあれば、たちまち教師側が奈落の底に突き落とされる。教師人生と共に、社会に生きる僕自身も終了する。




